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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
絡まれてる所を、助けてみました。
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32/123

9


先頭の男が右手に握った鉄パイプを振り上げ、そのまま緋乃の頭めがけて勢いよく振り下ろした。

「死ねぇ! ガキ!」

緋乃は最小限の動きでステップすると、懐へ一気に踏み込む。

バシッ!

左ジャブが男の顔面を正確に捉える。

視界を揺らされた男の顎がわずかに浮く。

その一瞬を、緋乃は見逃さなかった。

腰の回転を乗せた右ストレートが一直線に突き抜ける。

ドゴォッ!!

男の頭が大きく跳ね上がり、そのまま後方へ吹き飛んだ。

だが、休む暇はない。

左から迫る二人目の拳。

緋乃は重心を後ろ足へ移し、上半身だけを反らす。

拳は鼻先数ミリをかすめて空を切る完璧なスウェー。

次の瞬間、反動を利用するように重心を前へ戻すと同時に鋭い右ボディーブローが男のみぞおちへ深く突き刺さった。

「がはっ……!」

男の身体はくの字に折れ、そのまま膝から崩れ落ちる。男が二人倒れたことで、残った連中に動揺が走る。


「な、何なんだあいつ……!」

「ビビるな!」

「一人ずつなら勝てる!」

四人が一斉に緋乃へ飛び掛かる。

その瞬間――

「緋乃。」

俺は一歩前へ出た。

「ここからは俺もやる。」

緋乃は横目だけで俺を見る。

「邪魔だけはするな。」

「そのつもりはないよ。」

次の瞬間、一人の男が右手に握った金属バットを振り上げ、一直線に俺へ突っ込んできた。

「お前からだ!」

(けして速くはない。)

俺は静かに息を吐く。

大きく振りかぶられた金属バットが振り下ろされる。

その軌道を見切り、半歩だけ前へ踏み込む。

相手の懐へ潜り込むと、中指の第二関節をわずかに突き出すように拳を握る。

――黒鉄流【剛の型・時雨】。

人中(鼻の下)。

廉泉のどぼとけ

水月みぞおち

三つの急所を、ほとんど間を置かず正確に打ち抜く。

ドッ。

ドッ。

ドンッ。

一瞬の出来事だった。

男は何が起きたのか理解する間もなく目を見開く。

呼吸が止まり、全身から力が抜ける。

バットが手から滑り落ち、乾いた音を立てて地面へ転がった。

「……がっ……。」

苦しそうに喉を押さえ、男はそのまま膝から崩れ落ちる。

俺は追撃しない。

黒鉄流は、相手を壊すための拳じゃない。

誰かを守り戦いを終わらせるための拳だ。


俺が男を一人倒した直後。

「もう一人いるぞ!」

二人の男が同時に黄瀬へ飛び掛かる。

右から木刀。

左から拳。

挟み撃ち。

普通なら逃げ場はない。

だが黄瀬は、一切動揺しなかった。

視線だけが二人の動きを正確に追っている。

(来るタイミング、全部見えてる……?)

俺は思わず息を呑む。

次の瞬間だった。

「……そこね。」

黄瀬が静かに呟く。

右の木刀が振り下ろされる直前。

黄瀬は半歩、横へ滑るように踏み出し木刀をかわす。

膝を胸の高さまで引きつけてたたみ、そこから横方向に一直線に足を突き出した。

「っ!」

横蹴り。

ドンッ!!

男の胴体に真横から突き刺さる。

蹴りは“当てる”じゃない、“押し飛ばす”威力だった。立ち上がってくる様子もない。

しかし、もう一人はすぐそこにいる。

左から迫る拳。

距離はほぼゼロ。

「間に合わない……!」

誰かがそう思った瞬間。

黄瀬の身体が沈んだ。

体を半回転させて背中を向けながら、足の踵を後方へ突き出すように蹴る

(まさか――)

「はっ。」

短い呼気。

バキィッ!!

踵が男の顎を正確に撃ち抜いた。

頭が跳ね上がり、身体がそのまま後方へ崩れる。

あまりに綺麗な後ろ蹴りだった。

「……。」

黄瀬は何事もなかったように足を戻し、静かに構えを解くと、俺は思わず呟いた。

「今の……。」

緋乃も小さく目を細める。

「横蹴りと……後ろ蹴り。」

「どっちも精度が異常だな。」

黄瀬はいつもとは違う、どこか冷めた口振りで「動画で見た通りにやっただけ。」と呟いた。


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