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翌朝。
電車の遅延でいつもより到着が遅れてしまった俺は、その遅れを少しでも取り戻そうと駅から学園までの道を駆けていた。
出勤途中のサラリーマン。
登校中の学生。
行き交う人波の間を縫うように走り抜け、ようやく校門をくぐる。
息を整える間もなく教室へ向かい、勢いよく引き戸を開けた。
ガララッ。
「おっ! 黒鉄くんだ!」
「昨日クレープ屋にいたよね!」
「彼女を守る彼氏みたいでカッコよかった!」
「あれ痺れたわ!」
教室中の視線が一斉に俺へ集まる。
「いや……あれは、その……。」
突然のことに戸惑っていると、人混みをかき分けるように青嶌さんが近付いてきた。
「いやぁ~。」
「黒鉄くん、一夜にしてヒーローだねぇ。」
肩を軽く叩きながら笑う。
「ほらほら、みんな。」
「本人困ってるから、そのくらいにしてあげて。」
青嶌さんがそう言うと、生徒たちは「ごめんねぇ」と笑いながら、それぞれの席へ戻っていった。
「助かった。」
「貸し一つね。」
青嶌さんは悪戯っぽく笑うと、自分の席へ戻っていく。
俺も席へ向かう。
そこには、黄瀬、青嶌さん、神白さんの三人がすでに揃っていた。
俺が席へ着くなり、神白さんが申し訳なさそうに立ち上がる。
「すみません……。」
「私のせいで、ご迷惑をお掛けしてしまいました。」
深々と頭を下げる神白さん。
「いやいや。」
俺は慌てて手を振った。
「悪いのはあの人たちで、神白さんたちは何も悪くないよ。」
「それに、みんな褒めてくれてるだけだし。」
「俺はそんな大したことしてない。」
神白さんはゆっくりと顔を上げる。
その表情は、少しだけ安心したように見えた。
「……ありがとうございます。」
その空気を壊すように、黄瀬がニヤニヤと笑い始める。
「いやぁ~、でもさ。」
「黒鉄朝陽くん。」
「彼氏じゃないって否定されてたのに、昨日のあれは完全に彼氏ムーブだったぞ?」
「え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
「『この人は俺の大切な人だ。』」
黄瀬がわざと低い声で真似をする。
「いや~、カッコよかったなぁ。」
「だから違うって。」
俺が即座に否定すると、
「違うってなにがぁ?」
青嶌さんが肩を揺らして笑う。
「彼氏じゃないなら、なおさらあのセリフ反則じゃない?」
「ち、違っ……!」
俺が言い返そうとした、その時だった。
「…………。」
神白さんは俯いたまま、耳まで真っ赤になっていた。
「神白さん?」
声を掛けると、ビクッと肩を震わせる。
「な、何でもありません!」
慌てて首を振る神白さん。
何故か弁当袋を必要以上に鞄から出し入れしていた。
(……?)
その様子を見た青嶌さんと黄瀬は顔を見合わせ――
ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。




