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ホームルーム終了のチャイムが鳴り。
放課後の時間が訪れる。
「よっしゃー!」
青嶌さんが勢いよく立ち上がった。
「今日は予定通りクレープね!」
「勝手に予定作ってる……。」
黄瀬が苦笑する。
「まあいいけど。」
「黒鉄くん、神白さんも行こ!」
「……はい。」
神白さんは少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
夕方の商店街は、学校帰りの学生や買い物客で賑わっていた。
クレープ屋の前には、すでに数人の列ができている。
「うわ、今日も並んでる!」
青嶌さんが目を輝かせる。
「人気だな。」
「だって美味しいもん!」
ショーケースの前で、神白さんはじっと並んだクレープを見つめていた。
「……全部、美味しそうです。」
「決められそう?」
「……はい。」
少し間を置いて、
「無理そうです。」
と小さく付け足す。
「正直だな。」
思わず笑ってしまった。
「じゃあ俺と黄瀬、飲み物買ってくる。」
「ここ並んでて。」
「了解!」
青嶌さんが元気よく手を振る。
自販機へ向かい、飲み物を買って戻ってきた時だった。
「あれ。」
黄瀬が足を止める。
クレープ屋の前。
大学生くらいの男二人が、青嶌さんと神白さんに話しかけていた。
「ねぇ、二人だけ?」
「今暇でしょ?」
「すみません。」
青嶌さんは笑顔のまま断る。
「友達と遊んでますので。」
「ちょっとくらいいいじゃん。」
男たちは引き下がらない。
神白さんは少し困ったように視線を落としていた。
「ちょっと行ってくる。」
俺はそのまま歩き出す。
「お待たせ。」
その一言で、神白さんが顔を上げた。
「黒鉄くん……。」
男の一人と目が合う。
「……。」
ほんの一瞬、相手の動きが止まる。
生まれつきの三白眼。
普通に見ているだけでも、睨まれていると勘違いされることは慣れている。
「なんだよ。」
男は強がるように笑った。
「もしかして彼氏?」
「違います。」
咄嗟に神白さんが慌てて首を振る。
男は鼻で笑う。
「じゃあ関係ねぇだろ。」
「部外者は黙ってろよ。」
その言葉に、一瞬だけ胸の奥がざわつく。
部外者。
確かに、俺は彼氏じゃない。
でも――。
「関係はある。」
気付けば口が動いていた。
男が眉をひそめる。
「は?」
俺は真っ直ぐ見返す。
「この人は、俺の大切な人だ。」
「嫌がってるなら、それだけで止める理由になる。」
一瞬、空気が止まった。
男は舌打ちすると、
「……悪かったよ。」
そう言い残し、人混みへ消えていった。
「はぁぁぁ……助かったぁ。」
青嶌さんが大きく息を吐く。
「黒鉄くんありがと!」
「別に。」
困ってたから止めただけだ。
ふと神白さんを見る。
さっきまで困っていたはずなのに、なぜかじっと俺を見ていた。
「……っ。」
目が合った瞬間、神白さんは小さく肩を揺らし、慌てて視線を逸らす。
「ど、どうかしましたか……?」
「い、いえ……!」
「何でもありません……!」
そう言いながら、指先が少し落ち着かないように動いている。
(……?)
俺は首をかしげた後。
「ほらほら!」
青嶌さんが手を叩く。
「早く並ばないとクレープ終わっちゃう!」
「急ごうぜ。」
黄瀬が笑う。
俺たちは再び列へ戻る。
夕焼けの中、さっきの出来事はもう遠くに流れていった。
ただ――。
神白さんは、ほんの少しだけ俺の隣に寄って歩いていた。
◇ ◇ ◇
夜。
人気のない歩道。
街灯の下、小紫楓は携帯電話を耳に当てた。
「……私です。」
『ご苦労様。』
受話器の向こうから、ロゼの落ち着いた声が聞こえる。
「本日のご報告です。」
「神白伊吹の周辺に、大きな変化はありません。」
「ですが、一点だけご報告があります。」
『話して。』
「本日、神白伊吹を庇うような行動を取った男子生徒を確認しました。」
「名前は――黒鉄朝陽。」
「開路学園一年生です。」
ロゼは少しだけ黙り込む。
『黒鉄朝陽……。』
その名を静かに繰り返す。
「現時点では、ただの級友である可能性が高いと思われます。」
「ですが、念のためご報告いたしました。」
『分かったわ。』
『楓、ご苦労様。』
『その黒鉄朝陽という生徒も含めて、引き続き観察をお願い。』
「承知しました。」
通話は静かに切れた。
◇ ◇ ◇
ロゼは携帯を机へ置く。
その様子を見ていた百鬼が、ニヤリと笑う。
「ロゼちゃん、何か面白い報告でもあったのぉ?」
ロゼは椅子にもたれ、小さく息を吐く。
「神白伊吹の近くに、一人気になる生徒がいるそうよ。」
「名前は――黒鉄朝陽。」
百鬼は肩をすくめる。
「ただの学生じゃなぁい。」
ロゼは静かに頷く。
「ええ。」
「今は、ね。」
「だからこそ、楓に見てもらう。」
「必要以上に手は出さない。」
百鬼は不気味に笑った。
「うふふっ。」
「その"ただの学生"が、面白い子じゃないといいわねぇ。」
ロゼは何も答えず、静かに窓の外へ視線を向けた。




