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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
護衛対象は、お嬢様でした。
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15

2章の最後になります。


中庭のハナミズキの木陰にあるベンチへ腰を下ろす。

心地よい風が吹き抜ける中、俺たちはそれぞれ弁当を広げ始めた。

「昨日も思ったけどさ。」

黄瀬が俺の弁当を覗き込みながら声を上げる。

「朝陽の弁当、めっちゃ美味そうだよな。」

そう言って、自分の手元にあるコンビニのおにぎりと見比べる。

「そうか?」

平然と返す。

でも、心の中では少しだけ照れくさかった。

毎朝早起きして作ってくれる母さんの弁当だ。

自分のことより、母さんの料理を褒められた気がして、なんだか嬉しい。

「俺なんか毎日コンビニだぜ?」

黄瀬がため息をつく。

「朝陽のお母さん、料理うまそうで羨ましい。」

「まあ、確かに母さんの料理は美味いけど。」

そんな話をしていると、隣から小さな声が聞こえた。

「私も……。」

神白さんは俺の弁当を見つめながら、少し羨ましそうに微笑む。

「そんなお弁当を作れるように、もっと頑張らないと。」

その言葉に目を向ける。

神白さんの弁当は、小ぶりな二段の弁当箱だった。

彩りよく盛り付けられた卵焼きに煮物、色鮮やかな野菜。

一つ一つが丁寧に詰められていて、見た目だけでもかなり美味しそうだ。

「もしかして……。」

俺は弁当と神白さんを交互に見た。

「これ、自分で作ってるの?」

神白さんは少し照れたように頷く。

「はい。」

「まだ勉強中ですが……。」

「え、マジ?」

黄瀬が身を乗り出す。

「これ全部!?」

「はい。」

「すげぇ……。」

黄瀬が感心したように弁当を見つめる。

俺も正直驚いた。

(これを神白さんが……。)

豪邸のお嬢様だから、料理なんて使用人が作るものだと思っていた。

俺の視線に気付いた神白さんは、少し恥ずかしそうに笑う。

「祖父から、『一人でも生きていけるようになりなさい』と言われておりますので。」

その笑顔を見て、俺は思わず感心してしまった。

すると青嶌さんが「ねぇねぇ、みんなの家の卵焼きって何派?」

青嶌さんが俺の弁当を見ながら興味津々といった様子で尋ねた。

「うちは塩かな!」

言い出しっぺの青嶌さんが真っ先に答える。

「俺んちは砂糖と醤油。」

続いて黄瀬が答えた。

「私の家は……白だしだと思います。」

神白さんも少し考えながら答える。

同じ卵焼きでも、家庭によって味付けが違う。

そういうところが、料理の面白いところなのかもしれない。

「じゃあ最後は朝陽だね!」

青嶌さんが俺の弁当を覗き込み、返事を待つことなく卵焼きをひょいっと箸でつまみ上げた。

「いただきまーす!」

そのままぱくり。

しばらく味わうように咀嚼すると、目を輝かせた。

「おいしー!」

「ふわっふわ! めっちゃふわっふわ!」

どうやら母さんの卵焼きは大好評らしい。

……ただ。

「で?」

「うちの味付け、分かった?」

そう聞くと、青嶌さんは腕を組み、うーんと首を傾げる。

「愛だね。」

「それも息子を思う、お母さんの愛。」

「いや、味付け。」

思わずツッコミを入れる。

どう考えても、最初から味を当てる気なんてなかっただろ。

「正解はマヨネーズ。」

「あー!」

青嶌さんが手を叩く。

「だからあんなにまろやかだったんだ!」

今さら気付いたように何度も頷いている。

その隣では、神白さんが卵焼きをじっと見つめていた。

「マヨネーズの卵焼き……。」

「食べたこと、ありません。」

どこか興味深そうな表情だった。

俺は弁当に残っていた最後の卵焼きを箸でつまむ。

「よかったら。」

そう言って、神白さんの方へ差し出した。

「えっ……。」

神白さんの動きが止まる。

卵焼きと俺の顔を何度か見比べ、頬が少しずつ赤くなっていく。

「ど、どうしたの?」

「い、いえ……。」

神白さんはどこか落ち着かない様子で視線を泳がせた。

「その……。」

言葉を探すように口を開いては閉じる。

すると。

「……あ。」

青嶌さんが何かに気付いたような顔をした。

その瞬間。

「はいはい!」

黄瀬が俺の肩を掴んだ。

「朝陽、お前それ無意識?」

「え?」

「普通、そのまま食べさせようとしないから。」

言われて初めて気付く。

「あ……。」

確かに。

箸の先には俺がつまんだ卵焼き。

そのまま神白さんの口元まで運んでしまっていた。

「ご、ごめん!」

慌てて箸を引っ込めようとすると――

「い、いえ!」

神白さんが慌てて首を振った。

「その……。」

少しだけ勇気を振り絞るように目を閉じる。

「いただきます。」

小さく口を開け、卵焼きを口にした。

もぐもぐ、と静かに噛みしめる。

やがて、ふっと表情が柔らかくなった。

「……美味しいです。」

「すごく優しい味がします。」

その笑顔を見て、思わず安心する。

「卵焼きに入れると、こんな味になるんですね。」

「初めて知りました。」

神白さんはどこか感心したように頷いた。

その横で、

「いいなぁ……。」

青嶌さんがじーっと俺の弁当を見つめる。

「朝陽のお母さん、今度レシピ教えてもらえないかな。」

「母さんに聞いとくよ。」

そう答えると、青嶌さんは「やった!」と子どものように笑った。

そんな他愛もない会話をしながら、四人で昼食を食べ進めていく。

笑い声が絶えることはなく、時間はあっという間に過ぎていった。

やがて――。

キーンコーン、カーンコーン。

昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎に響く。

「もう終わりかぁ。」

青嶌さんが名残惜しそうに立ち上がる。

「午後も頑張ろ!」

「おう。」

俺たちは弁当箱を片付け、中庭をあとにした。

教室へ戻る途中、神白さんはペットボトルを大切そうに抱えながら、小さく微笑んでいた。

その穏やかな横顔を見て、ふと思う。

こんな何気ない時間が、ずっと続けばいいと……。

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