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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
護衛対象は、お嬢様でした。
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14


四時間目の終了を告げるチャイムが校舎に響いた。

途端に教室の空気が一変する。

「昼だー!」

あちこちから歓声が上がり、生徒たちは一斉に立ち上がった。

「よーし!」

青嶌も勢いよく立ち上がる。

「今日も中庭で食べよ!」

「賛成。」

黄瀬が弁当を片手に頷く。

「黒鉄くん、伊吹ちゃん、行こ!」

「はい。」

神白さんも小さく微笑み、俺たちは四人で教室を出た。

昼休みの廊下は、生徒たちの笑い声で溢れていた。

友達同士でふざけ合うやつ。

購買へ全力疾走するやつ。

パンを片手に走り去るやつ。

昨日も見た、どこにでもある高校の昼休み。

そんな中――。

ふいに、前を歩いていた神白さんの足が止まった。

「……?」

視線の先を追う。

そこには一台の自動販売機。

色とりどりのジュースが整然と並ぶ、ごく普通の自販機だった。

神白さんは吸い寄せられるように立ち止まり、じっと見つめている。

「気になるの?」

声を掛けると、神白さんは肩を小さく震わせた。

「い、いえ。」

慌てて否定する。

けれど、その視線だけは正直だった。

何度も自販機へ向いてしまっている。

「いやいや。」

黄瀬が笑う。

「めちゃくちゃ見てるよ。」

「ち、違いま……違くはありませんが」

耳まで赤くして否定する神白さん。

そんな様子を見た青嶌さんが、いたずらっぽく笑った。

「もしかして……自販機使ったことない?」

その瞬間。

神白さんの動きがぴたりと止まる。

少し俯き、小さく頷いた。

「……ありません。」

「えぇっ!?」

黄瀬が素っ頓狂な声を上げる。

「マジで?」

「今まで必要ありませんでしたので……。」

申し訳なさそうに答える神白さん。

そう言われると、不思議と納得してしまう。

俺は財布から百円玉を取り出した。

「じゃあ、一回やってみる?」

「え……。」

「ほら。」

「だ、大丈夫です、私もお金持ってますので」

神白さんは制服のボケットから財布を取り出そうとするが

「初めての自販機を使う記念に奢らせてよ」

俺は少しばかり強引に百円玉を差し出す。

神白さんは少し迷ったあと、壊れ物でも扱うように受け取った。

「では有り難く頂戴致します。」

神白さんはくすりと笑うと恐る恐る投入口へ入れる。

カチャン。

小気味よい音が鳴る。

「次は好きなのを押せばいい。」

「……はい。」

神白さんは真剣な表情で商品を見比べ始めた。

あれでもない。

これでもない。

しばらく悩んだ末、小さく指を伸ばす。

カチッ。

直後――。

ガコンッ。

取り出し口からペットボトルが落ちる音が響いた。

「……!」

神白さんの目がぱっと見開かれる。

しゃがみ込み、取り出したペットボトルを両手で抱えるように持ち上げる。

「……出てきました。」

そのあまりにも素直な反応に、

「ぶっ……!」

俺たちは揃って吹き出した。

「伊吹ちゃん、その反応反則!」

青嶌さんかが嬉しそうに笑う。

「初めて自販機で感動してる人、初めて見た。」

黄瀬も笑いを堪えきれていない。

神白さんはますます顔を赤くした。

「そ、そんなにおかしいでしょうか……。」

「いや。」

俺は笑いながら首を振る。

「初めてなら、普通だよ。」

その一言に、神白さんは少しだけ安心したように微笑んだ。

「……ありがとうございます。」

その笑顔を見て思う。

(こういう何気ないことが。)

(神白さんにとっては、全部"初めて"なんだ。)

昨日、商店街でクレープ屋を見つめていた時も、同じ顔をしていた。

俺たちには当たり前のこと。

だけど神白さんには、一つ一つが新しい世界なんだ。

「ほらほら!」

青嶌さんが俺たちの背中を押した。

「中庭行こ! お腹空いた!」

「急がないと昼休み終わっちゃうよ!」

笑い声を交わしながら、俺たちは再び歩き出した。


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