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喫茶店を出た後、俺は青嶌さんと共に自宅へ向かっている。
青嶌さんから「アルバイトには保護者の承諾が必要です」と説明を受ける。
確かに高校生が働く以上、当然の手続きだ。
家の前へ着くと、俺は玄関のドアを開けた。
「ただいま。」
リビングから母さんが顔を出す。
「あら、おかえり……って。」
俺の後ろに立つ大柄な男性を見て、一瞬だけ目を丸くした。
「こちらの方は?」
「初めまして。」
青嶌さんは深く一礼する。
「青嶌源吾と申します。」
「突然の訪問、失礼いたします。」
母さんは慌てて頭を下げ返した。
「い、いえ!どうぞ上がってください。」
リビングへ案内され、俺たちはソファへ腰を下ろす。
青嶌さんは神白家のこと、仕事の内容、報酬、安全面への配慮などを母さんへ丁寧に説明した。
もちろん、話せない部分については伏せながら。
説明が終わる頃には、母さんも真剣な表情になっていた。
しばらく沈黙が流れる。
そして母さんは俺へ視線を向けた。
「朝陽。」
「あなたは、どうしたいの?」
その一言だった。
俺は少しだけ考える。
母さんを楽にしてあげたい。
夕奈のためにも、お金は必要だ。
だけど――。
頭に浮かんだのは、別の光景だった。
『この学校で本当に良かった……。』
商店街で嬉しそうに笑っていた神白。
焼きそばパンを抱えて笑う青嶌。
みんなで歩いた帰り道。
初めて見るもの一つ一つに目を輝かせていた神白の笑顔。
あの笑顔が頭から離れなかった。
俺はゆっくりと口を開く。
「俺……。」
「神白さんの笑顔を守りたい。」
その瞬間だった。
母さんが両手で口元を押さえた。
「あら、やだぁ!」
「え?」
「朝陽ったら!」
「好きな子だったのね!」
「…………は?」
頭の中が一瞬止まる。
「ち、違っ――!」
「いいじゃない!」
母さんはニコニコしながら俺の言葉を遮った。
「男の子なんだから!」
「好きな子を守りたいって思うのは素敵なことよ!」
「お母さん、応援する!」
「いや、違うって!」
「照れなくてもいいのよ~。」
「違うから!」
顔が熱い。
思わず隣を見る。
(青嶌さん、助けてください。)
視線だけで必死に訴える。
しかし――。
青嶌さんは先程とは全く異なった違う困ったような表情を浮かべていた。
「わ……私は。」
「保護者様のご承諾と、ご署名さえ頂ければ十分でございますので……。」
完全に巻き込まれている。
その姿に、逆に申し訳なくなってきた。
母さんは笑いながら承諾書へ目を通すと、迷うことなく名前を書いた。
「はい。」
「息子をよろしくお願いします。」
青嶌さんは両手で承諾書を受け取り、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「責任を持ってお預かりいたします。」
立ち上がると、青嶌さんは俺へ視線を向けた。
「詳細につきましては、羽唯から改めてご連絡いたします。」
「本日はありがとうございました。」
そう言い残すと、青嶌さんはどこか逃げるように玄関を後にした。
玄関のドアが閉まる。
静寂が訪れた――と思った次の瞬間。
母さんが俺の肩をぽんっと叩いた。
「朝陽。」
「頑張りなさい。」
「青春は待ってくれないわよ?」
「だから違うって言ってるだろーーー!!」
俺の叫び声だけが、夕暮れの黒鉄家に響き渡った。




