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青嶌の父から話がある――。
その言葉が頭の片隅に引っ掛かったまま、俺は昇降口で待っていた神白と黄瀬のもとへ向かった。
「待たせた。」
「おっ、やっと来た。」
黄瀬が軽く手を挙げる。
神白さんも小さく会釈をした。
すると、その横で青嶌さんがパンと両手を叩く。
「昨日の今日だし、みんなで伊吹ちゃんを家まで送っていこー!」
さっきまで俺だけに話していた時とは別人のような、いつもの明るい声だった。
俺と黄瀬は思わず顔を見合わせる。
正直、その提案には賛成だった。
昨日襲われたばかりだ。
一人で帰らせるのは少し不安が残る。
神白家の屋敷は学園からそれほど離れておらず、駅まで向かう途中に少し遠回りをすれば立ち寄れる場所にある。
おそらく、その距離の近さも、この学園へ通うことを許された理由の一つなのだろう。
「俺も、それがいいと思う。」
「俺も賛成。」
黄瀬も頷く。
三人の視線が神白さんへ集まる。
神白さんは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「ですが……毎日送っていただくわけには……。」
「ありがとうだけでいんだよ!」
青嶌さんが人差し指を立てて笑う。
「それに、四人で帰った方が楽しいじゃん!」
その言葉に神白さんは少し迷うように俯いた。
だが、やがて小さく微笑み、
「……ありがとうございます。」
そう言って、どこか嬉しそうにゆっくり頭を下げた。
「それじゃ、出発!」
青嶌さんが先頭を歩き出す。
その後ろを俺たち三人が並んで歩き始めた。
夕日に染まる帰り道。
昨日とは違い、どこか穏やかな時間が流れていた。
少し歩いて、商店街を通る。
クレープ屋。
たい焼き屋。
アイス屋。
神白さんは気になるのか目を配る。
「気になるの?」
神白さんは慌てて首を振る。
「い、いえ。」
でも目だけはクレープ屋を見ているの雅分かる。
黄瀬がニヤッと笑う。
「めっちゃ気になってるじゃん。」
神白さんは真っ赤な顔を隠すように俯きながら。
「ち、違います!」
青嶌さんが笑いながら。
「じゃあ今度みんなで来よっか。」
神白さんは一瞬止まるがすぐに。
「……いいんですか?」
「もちろん。」
「放課後なんて寄り道するためにあるんだから。」
その一言は、神白さんの顔に印象的な嬉しそうな顔を浮かべさせた。
その後しばらくして
神白さんの屋敷が姿を表す。
「ここまでで大丈夫です。」
神白さんは振り返る。
「今日もありがとうございました。」
深く頭を下げる。
「じゃまた明日!」
神白さんが屋敷の中へ入っていくのを見届けると、俺たち三人はその場を後にした。
屋敷から少し離れた交差点で、青嶌さんが足を止める。
「あたしはこっちだから。」
さっきまでの明るい笑顔を浮かべたまま、ひらひらと手を振る。
「じゃあね、みんな。また明日!」
「また明日。」
「またねー!」
黄瀬も笑顔で手を振る。
青嶌さんは俺を一瞬だけ見た。
ほんの一瞬だけ。
昨日路地裏で見せた、あの冷静な瞳が顔を覗かせる。
だが、それも一瞬だった。
すぐにいつもの笑顔へ戻ると、そのまま人混みの中へ消えていった。
(……本日中に、父があなたへ接触します。)
別れ際に聞いた言葉が、ふと頭をよぎる。
「朝陽?」
黄瀬の声で我に返った。
「どうした?」
「いや、何でもないよ。」
「変なやつ。」
黄瀬は笑いながら肩を叩いてくる。
「帰ろーぜ。」
「うん。」
二人並んで駅まで歩く。
帰宅する学生や会社員で駅前は賑わっていた。
改札を抜け、それぞれのホームへ向かう。
「そういや。」
電車を待ちながら黄瀬が口を開いた。
「今日も何だかんだ楽しかったな。」
「そうだね。」
「明日はもっと面白くなる気がする!」
「根拠は?」
「自信!」
「適当だね。」
思わず笑う。
やがてホームに電車が滑り込んできた。
俺と黄瀬は反対方向のホームだった。
「じゃあな、朝陽!」
「また明日。」
「おう! また明日!」
手を振り合い、それぞれの電車へ乗り込む。
車窓から見えた黄瀬も、こちらに向かって大きく手を振っていた。
電車に揺られること十分ほど。
最寄り駅へ到着し、改札を抜ける。
いつものように駅前のロータリーへ足を踏み出した、その時だった。
一台の黒塗りのセダンが、ロータリーの端に静かに停車しているのが目に入る。
高級感のある車体。
磨き上げられた漆黒のボディが、夕暮れの街並みを映し出していた。
(……まさか。)
自然と、青嶌さんの言葉が頭をよぎる。
『本日中に、父があなたへ接触します。』
朝陽は無意識に、その黒いセダンへ視線を向けた。




