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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
結婚相手候補に、会ってみました。
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125/126

6

期末テスト初日。

教室には、いつもより静かな空気が流れていた。

「……終わった。」

一時間目のテストが終わった瞬間、黄瀬が机に突っ伏す。

「まだ一時間目だよ。」

青嶌さんが笑う。

「俺の期末テストはもう終わった。」

「勝手に終わらせないで。」

朝からそんな調子だった。

それでも、勉強会の成果はあった。

俺も思っていたより問題を解くことができたし、神白さんや小紫さんも順調そうだった。

そして――。

数日後。

「終わったぁぁぁ!」

最後のチャイムが鳴った瞬間、黄瀬が両手を上げた。

「期末テスト終了!」

「お疲れ。」

俺が鞄を持ち上げる。

「よし!」

青嶌さんが笑う。

「今日は打ち上げね!」

「賛成!」

黄瀬が即答する。

「神白さんと小紫さんも行こうよ!」

「はい。」

神白さんが嬉しそうに頷く。

「ぜひ、ご一緒させてください。」

「私も楽しみです。」

小紫さんも微笑んだ。

そのまま五人で駅前のファミレスへ向かった。

テストの答え合わせをしたり。

黄瀬の珍回答を笑ったり。

青嶌さんがそれを面白がってさらに話を広げたり。

気付けば、勉強よりも笑っている時間の方が長かった。

「いやー、今日は最高だったな!」

店を出た黄瀬が大きく伸びをする。

「テスト終わったし、しばらく自由だ!」

「結果が返ってくるまではね。」

青嶌さんが笑う。

「……それは言わない約束だろ。」

「ふふっ。」

神白さんが笑う。

小紫さんも隣で楽しそうに微笑んでいる。

俺もつられて笑った。

帰る頃には、勉強で疲れたのか、笑い疲れたのか分からない。

ただ――。

今日は本当に楽しかった。

そんな何気ない一日だった。

少なくとも。

この時の俺は、そう思っていた。



ファミレスを出ると、夜の空気が少しだけ冷たく感じられた。

「いやー、食った食った!」

黄瀬が満足そうに腹をさする。

「黄瀬、最後まで食べてたもんね。」

青嶌さんが笑う。

「テスト終わったんだからいいだろ!」

「まあ、それはそうだけど。」

「ふふっ。」

神白さんも楽しそうに笑っている。

小紫さんも、その様子を見ながら微笑んでいた。

五人はそのまま、いつもの帰り道を歩いていく。

「それにしても、期末終わったの最高だな!」

黄瀬が大きく伸びをする。

「これでしばらく勉強しなくて済む!」

「結果が返ってくるまではね。」

青嶌さんが笑う。

「……それは今考えたくない。」

「現実逃避するなよ。」

「朝陽、お前まで言うか!」

そんなくだらないやり取りをしながら歩いていると、やがて神白さんの家が見えてきた。

大きな門と、綺麗に整えられた庭。

夜の照明に照らされた邸宅は、相変わらず別世界のように見える。

「もう着いちゃったね。」

青嶌さんが言う。

「はい。」

神白さんが少し名残惜しそうに笑った。

「今日は本当に楽しかったです。」

「私も。」

小紫さんが頷く。

「また皆さんとこうして過ごしたいです。」

「じゃあ、また学校で!」

青嶌さんが手を振る。

「はい。また明日。」

神白さんも手を振り返す。

「気をつけて帰ってくださいね。」

「神白さんもね。」

「ありがとうございます。」

神白さんは門の前で一度頭を下げ、それから屋敷へ入っていった。

俺たちはそのまま、駅へ向かって歩き出す。

しばらく四人で歩いていると、青嶌さんが足を止めた。

「じゃあ、私たちはここで。」

「え?」

黄瀬が首を傾げる。

「いつもより早くないか?」

「うん。でも、ここからちょっと寄るところがあるんだ。」

青嶌さんがさらりと答える。

「寄るところ?」

「そうそう。」

青嶌さんは笑って、小紫さんを見る。

「小紫さんも一緒だから。」

「はい。」

小紫さんも自然に頷いた。

「少し用事がありまして。」

「へぇ。」

黄瀬は少し不思議そうな顔をしたものの、それ以上は聞かなかった。

「じゃあ、二人ともまた明日な!」

「うん! また明日!」

青嶌さんが明るく手を振る。

「はい。また明日。」

小紫さんも微笑みながら頭を下げた。

「気をつけて帰れよ。」

俺が声を掛けると、

「黒鉄君たちも。」

小紫さんが柔らかく笑う。

「じゃあね!」

青嶌さんと小紫さんは、そのまま並んで歩いていった。

「……寄るところってなんだろうな?」

黄瀬が二人の背中を眺めながら呟く。

「さあ。」

俺は適当に答えた。

「女の子同士の用事じゃないか?」

「なるほど。」

黄瀬はあっさり納得する。

「じゃあ、俺たちは駅行くか。」

「うん。」

俺たちは二人の背中を見送ってから、駅へ向かって歩き始めた。

さっきまで五人で歩いていた道が、妙に静かに感じる。

「今日は楽しかったな。」

黄瀬がぽつりと言う。

「うん。」

「勉強会も良かったけど、やっぱテスト終わった後の飯は最高だわ。」

「結局そこか。」

「当然だろ。」

黄瀬が笑う。

駅へ着く。

改札を抜け、ホームへ向かう。

「じゃあ俺、こっち。」

黄瀬が反対側のホームを指差す。

「俺は向こうだな。」

「じゃあ、また明日!」

「おう。」

黄瀬が手を上げる。

「気をつけて帰れよ。」

「朝陽もな。」

黄瀬はそのまま階段を下りていった。

俺も反対側のホームへ向かう。

こうして、いつものように別れた。

それが、今日最後の会話だった。





――。

黄瀬は最寄り駅へ到着すると、改札を抜けた。

時間は、夜の九時を少し回った頃。

駅前にはまだ人の姿がある。

コンビニの明かり。

遅い時間まで営業している店。

車の走る大通り。

いつもの見慣れた景色だった。

「……疲れた。」

黄瀬は肩を回しながら歩く。

テストが終わった解放感もあって、足取りは軽かった。

駅前の大通りを抜け、自宅へ向かう。

少しずつ人通りが減っていく。

住宅街へ入ると、車の音もほとんど聞こえなくなった。

街灯が一定の間隔で並んでいるだけ。

窓から漏れる明かりも少ない。

「……静かだな。」

黄瀬が独り言を漏らす。

その時だった。

「……。」

前方に、人影があった。

街灯の下。

一人の男が立っている。

灰色の長い髪。

肩まで伸びた波巻きパーマ。

黒い服に身を包み、顔の大半は髪に隠れている。

黄瀬は歩みを止めた。

「……誰だ?」

男は答えない。

ただ、こちらを見ている。

黄瀬は少し警戒しながらも、横を通り抜けようとした。

その瞬間。

男が一歩、横へ動いた。

道を塞ぐ。

「……は?」

黄瀬が眉をひそめる。

「悪いけど、そこ通りたいんだけど。」

沈黙。

「……聞こえてる?」

男はしばらく黄瀬を見つめたあと、ようやく口を開いた。

「……神白。」

たった一言。

「……神白?」

黄瀬の表情が変わる。

「神白さんのこと?」

男は答えない。

「お前、誰だよ。」

沈黙。

ただ、男の目だけが黄瀬を捉えている。

嫌な空気だった。

黄瀬は拳を握る。

「……喧嘩売ってんのか?」

男は答えない。

ただ、一歩。

また一歩。

ゆっくりと距離を詰めてくる。

「……なんなんだよ。」

黄瀬が身構える。

男の灰色の髪が、夜風に揺れる。

その奥から覗く目には、怒りも興奮もない。

ただ、何もない。

そして――。

男の身体が、一瞬で沈んだ。

「っ!」

次の瞬間。

黄瀬の目の前まで、一気に距離が縮まった。

「な――!」

拳が迫る。

黄瀬は咄嗟に腕を上げた。

ドンッ!!

衝撃が腕を突き抜ける。

「ぐっ……!」

想像以上の重さ。

黄瀬の身体が大きくよろめく。

男は何も言わない。

ただ、もう一度拳を握った。

黄瀬は歯を食いしばる。

「……上等だ。」

拳を構える。

「やってやるよ……!」

人気のない住宅街に、二人の足音だけが響いた。

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