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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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118/126

25

翌日――。

文化祭二日目。

今日も朝から空は雲一つない快晴だった。

開路学園へ向かう坂道には、生徒たちの楽しそうな声が響いている。

「今日は最終日だ!」

「昨日回れなかったところ行こうぜ!」

そんな声を聞きながら、俺は校門をくぐった。

「おはよう。」

教室へ入ると、青嶌さんがいつものように笑顔で手を振る。

「おはよう、黒鉄君。」

その隣には、小紫さんの姿もあった。

昨日の出来事が嘘のように、落ち着いた表情を浮かべている。

目が合うと、小さく微笑み、ぺこりと頭を下げた。

「おはようございます。」

「おはよう。」

少しして。

静かに教室の扉が開く。

「おはようございます。」

神白さんだ。

「文化祭最終日ですね。」

「今日も楽しみです。」

その落ち着いた声に、教室の空気が和らぐ。

やがて始業時間が近付き、生徒たちはそれぞれの席へ着いていく。

北条先生のホームルームガ終わると

♪~♪

校内放送を知らせるチャイムが鳴り響く。

『おはようございます。』

『これより文化祭二日目を開始します。』

『各クラス、模擬店および展示の準備を始めてください。』

放送が終わると同時に、教室中が慌ただしく動き始めた。

「よし!」

「最後まで頑張るぞ!」

文化祭最終日が、幕を開けた。

校内放送が終わると同時に、生徒たちは一斉に教室を飛び出した。

「急げ急げ!」

「開場まであと三十分!」

クラス中が慌ただしく動き始める。

机や椅子を運び。

看板を立て。

調理器具を並べる。

昨日の経験もあってか、準備は驚くほどスムーズだった。

「黒鉄君、それお願い!」

「了解!」

「神白さん、お皿お願い!」

「任せて!」

誰一人として無駄な動きをしない。

あっという間に開場時間を迎えた。

『ただいまより、文化祭二日目を開始します。』

校内放送と同時に校門が開く。

来場者が次々と校内へ流れ込み、昨日以上の賑わいを見せ始めた。

午前中は接客に追われ。

気付けば時計の針は昼を回っていた。

「ふぅ……。」

ようやく一息ついたところで、青嶌さんが飲み物を持ってきてくれた。

「はい。」

「ありがとう。」

その時だった。

近くで女子生徒たちの楽しそうな会話が耳に入る。

その時だった。

近くで女子生徒たちの楽しそうな会話が耳に入る。

「ねぇねぇ!」

「今年も後夜祭のジンクスやる人いるかな?」

「もちろんでしょ!」

「毎年恒例じゃん!」

「私、今年こそ告白する!」

「頑張って!」

そんな会話を聞いていた俺は首を傾げた。

「後夜祭のジンクス?」

俺が呟くと、その場にいた四人が一斉にこちらを見る。

「え?」

黄瀬が目を丸くした。

「朝陽、知らねぇの?」

「知らない。」

「後夜祭ってキャンプファイヤーするくらいじゃないの?」

黄瀬は大げさに肩を落とした。

「お前、それマジかよ……。」

「開路学園で一番盛り上がるって噂のイベントだぞ?」

神白さんは上品に微笑みながら口を開く。

「文化祭最後の後夜祭には、昔から語り継がれているジンクスがあるんです。」

「キャンプファイヤーの火が消える瞬間。」

「想いを寄せる人と一緒にいられた二人は、結ばれる。」

「……そんな言い伝えがあるそうですよ。」

「へぇ。」

思わず感心すると、青嶌さんも笑みを浮かべる。

「毎年、この時間が近づくと校内の雰囲気が変わるだって。」

「告白する人も多いみたい。」

「カップルになる人も結構いるんですよ。」

「なるほどね。」

「だからさっきから女子が騒いでたのか。」

すると黄瀬がニヤニヤしながら俺の肩へ腕を回した。

「で?」

「朝陽は誰を誘うんだい?」

「……は?」

「神白さんかな。」

「それとも小紫さんかな。」

黄瀬はそこで青嶌さんを見る。

「まぁ、青嶌さんは駄目ね。」

「俺が誘うから。」

「な、何言ってんのよ!」

青嶌さんが慌てたように声を上げる。

「俺、本気だけど?」

黄瀬はいつもの軽い笑顔で言う。

「……もう。」

青嶌さんは呆れたようにため息を吐いた。

「で?」

「返事は?」

黄瀬が期待したように聞くと。

青嶌さんは少しだけ考えて。

「……ま、まぁ。」

「考えておく。」

そう答えた。

「え?」

黄瀬が目を丸くする。

「それって……。」

「勘違いしないで。」

青嶌さんは少し照れたように視線を逸らした。

「まだ、考えるだけだから。」

その言葉に。

黄瀬は満足そうに笑った。

「よし。」

「一歩前進ってことで。」

「何が一歩前進なのよ。」

青嶌さんが呆れたように返す。

そんなやり取りを見ていた小紫さんが、ふと俺を見る。

「……では。」

「黒鉄君はどうされるんですか?」

「え?」

「後夜祭。」

「どなたか、お誘いするご予定は?」

俺が答えに詰まっていると。

小紫さんは少しだけ微笑んだ。

「もし。」

「黒鉄君にお相手がいらっしゃらないのでしたら……。」

「私を誘って頂けますか?」

「……え?」

一瞬。

その場が静まり返る。

黄瀬が勢いよく俺を見る。

「朝陽。」

「お前……。」

「また何かやったのか?」

「いや、何もしてない。」

慌てて否定すると、小紫さんはくすりと笑った。

「何もしていない……ですか。」

「……私には。」

「初めての経験でしたのに。」

「……え?」

黄瀬の目が輝く。

「おいおい。」

「朝陽。」

「お前、何したんだよ。」

「いや……。」

「思い当たる節が……。」

俺が言葉を濁した瞬間。

神白さんがゆっくりこちらを見る。

「……黒鉄君。」

「本当ですか?」

「え?」

「今の話。」

「本当に心当たりが無いんですか?」

笑顔だった。

いつもの優しい笑顔。

……なのに。

なぜか少しだけ怖い。

「うん……。」

俺が答えると、小紫さんが静かに続けた。

「昨日。」

「帰り際に。」

「黒鉄君が……。」

「『行かせない』と仰って。」

「私の腕を引いて。」

「そのまま抱きしめられました。」

「……。」

「私。」

「誰かにあんな風に必要とされたのは、初めてで。」

「少し……。」

「ドキドキしました。」


「朝陽。」

黄瀬が真顔で俺を見る。

「お前。」

「それはもう説明が必要なやつだぞ。」

「違う、皆が思ってるようなことじゃないから!?」

俺が慌てて言う。

その言葉が響いた瞬間。

神白さんの表情が固まった。

「……。」

「神白さん?」

俺が声をかけると。

神白さんはゆっくり俺を見る。

「……黒鉄君。」

「はい。」

「昨日。」

「そんなことをされたんですか?」

「えっと……。」

「…流れで。」

小さく頷くと。

神白さんは少しだけ視線を落とした。

「……そうですか。」

「小紫さんは。」

「黒鉄君に抱きしめてもらったんですね。」

「いや、あれは……!」

慌てて説明しようとすると。

神白さんは首を横に振った。

「分かっています。」

「何か理由があったことくらい。」

「ちゃんと分かっています。」

そう言いながらも。

少しだけ頬を膨らませる。

「……でも。」

「少しだけ。」

「羨ましいです。」

「え?」

思わず聞き返す。

神白さんは自分でも驚いたように目を伏せた。

「あ……。」

「い、いえ。」

「これはですね……。」

神白さんは少し慌てたように手を振る。

「決して小紫さんに対して不満があるとか。」

「そういうことではなくてですね。」

「その……。」

言葉を探すように視線を泳がせる。

「黒鉄君が。」

「小紫さんのために必死になっていたと思うと…」

「少し羨ましいなと思っただけで……。」

「……。」

「……あ。」

そこまで言って。

神白さんは自分の言葉の意味に気付いたのか、少し頬を赤くした。

「違います。」

「今の言い方だと、また変な意味に聞こえてしまいますね。」

「えっと……。」

「つまり……。」

「もう…私何言ったんだろ…。」

小さくため息を吐いて、困ったように笑う。

「ただ黒鉄君の優しさを、少しだけ独占したくなってしまっただけです…」

最後の言葉は、とても小さかった。

「……。」

俺が黙っていると。

横から、わざとらしい咳払いが聞こえた。

「ゴホン。」

黄瀬がニヤニヤしながら口を開く。

「神白さんこっちまでドキドキしたよ。」

「黄瀬君…。」

神白さんが少し困ったように黄瀬を見る。

それに加え青嶌さんも小さく笑う。

「神白さん。」

「今のは、かなり素直だったね。」

「……青嶌さんまで。」

神白さんの頬が少し赤くなる。

小紫さんはそんな様子を見て、優しく微笑んだ。

「ふふ。」

「黒鉄君はやっぱり人気者ですね。」

「いや。」

俺は慌てて言う。

「神白さんもそういう意味で言ったんじゃ…」

「黒鉄君。」

神白さんが静かに俺を見る。

「今、否定されると。」

「少し悲しいです。」

「……。」

「ごめん。」

思わず謝ると。

黄瀬がすぐに反応する。

「ほら。」

「もうそれが答えじゃん。」

「黄瀬くん。」

青嶌さんが呆れた声を出す。

「少し黙って。」

「はい。」

黄瀬は素直に口を閉じた。

そんなやり取りに。

俺たちは自然と笑ってしまう。

九十九会との一件。

小紫さんのこと。

重いものを抱えたままだったけれど。

この瞬間だけは。

いつもの俺たちの日常が戻ってきた気がした。

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