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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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23

一通りの説明と今後の段取りを終えると、源吾さんは壁掛け時計へ目を向けた。

「……もうこんな時間か。」

時計の針は、すでに夜を回ろうとしている。

源吾さんは俺たちへ穏やかな笑みを向けた。

「今日は色々ありすぎた。」

「皆、疲れているだろう。」

「黒鉄君は後で車で送ろう。」

「それまで。」

「リビングで少し休んでいてくれ。」

「小紫さんも。」

「今日からここが君の居場所だ。」

「緊張するだろうが、肩の力を抜いて過ごしなさい。」

「……はい。」

俺たちは源吾さんへ一礼すると、青嶌さんに案内され書斎を後にした。

廊下を歩き、広々としたリビングへ入る。

「飲み物を持ってくるね。」

そう言って青嶌さんがキッチンへ向かうと、部屋には俺と小紫さんだけが残った。

しばらく沈黙が続いたあと、小紫さんが静かに口を開く。

「……黒鉄君。」

「今日は、本当にありがとうございました。」

「もし皆さんと出会えていなかったら。」

「私は、きっと一人で抱え込んだままでした。」

「だから。」

「本当に感謝しています。」

そう言って、小紫さんは深々と頭を下げた。

俺は慌てて手を振る。

「そんな。」

「俺は何もしてないよ。」

「話を聞いただけだし。」

小紫さんは小さく笑う。

「ふふっ。」

小紫さんは優しく微笑んだ。

少しだけ部屋に穏やかな空気が流れる。

そして。

何かを思い出したように、小紫さんが口を開いた。

「そういえば。」

「今日で、一つ疑問が解けました。」

俺は首を傾げる。

「疑問?」

「はい。」

「入学前に。」

「青嶌家から、神白さんを護衛する人が一人、学園へいるとだけ聞かされていました。」

「だから私は。」

「その護衛は青嶌さんだけだと思っていたんです。」

「でも。」

「学園生活が始まってから。」

「黒鉄君も、護衛の人間のような動きをしていました。」

「神白さんに危険が迫れば真っ先に動く。」

「常に周囲を警戒している。」

「だから。」

「『護衛は一人のはずなのに……』と、ずっと不思議だったんです。」

小紫さんは少し微笑んだ。

「でも、今。」

「黒鉄君も神白家の護衛をされていると聞いて。」

「ようやく納得しました。」

俺は少し照れくさそうに頭を掻く。

「うん。」

「俺も青嶌家に雇われてるんだ。」

「神白さんの護衛は、アルバイトって形だけどね。」

小紫さんは小さく頷くと、どこか安心したように微笑んだ。

「そうだったんですね。」

「なら。」

「今日から同僚ですね。」

その一言に、俺は思わず笑みをこぼした。

その時だった。

コンコン――。

リビングの扉が静かにノックされる。

「失礼します。」

国守さんが一礼しながら部屋へ入ってきた。

「旦那様。」

「お車の準備が整いました。」

その後ろから、源吾さんもゆっくりと姿を現す。

「黒鉄君。」

「約束通り送っていこう。」

「もう夜も遅い。」

「君のお母様も心配されているだろう。」

「ありがとうございます。」

俺は立ち上がり、小紫さんへ視線を向けた。

「じゃあ。」

「また明日。」

小紫さんは少し寂しそうに笑う。

「……はい。」

「今日は、本当にありがとうございました。」

「皆さんのおかげで。」

「私は前へ進めそうです。」

「だから。」

「次に会う時は、ちゃんと胸を張っていられる私でいたいです。」

「うん。」

「無理だけはしないで。」

俺がそう言うと、小紫さんは優しく頷いた。

「はい。」

その隣で青嶌さんも微笑む。

「また学校でね。」

「これからは。」

「同じ仲間なんだから。」

「……はい。」

小紫さんの返事は、少しだけ力強くなっていた。

俺は二人へ軽く手を振ると、源吾さんと一緒に屋敷を後にした。

車は静かに夜の街を走る。

車内に流れるのは、エンジンの低い音だけ。

今日一日の出来事があまりにも濃すぎて、俺も源吾さんも自然と無言になっていた。

やがて見慣れた住宅街へ入る。

「着いたよ。」

源吾さんの一言で我に返る。

車はゆっくりと俺の家の前へ停車した。

「今日はありがとうございました。」

俺が頭を下げると、源吾さんは穏やかに微笑んだ。

「こちらこそ。」

「今日はゆっくり休みなさい。」

「また何かあれば、いつでも連絡してくれて構わない。」

「はい。」

「失礼します。」

俺は車を降りる。

ドアが静かに閉まり、黒塗りのセダンはゆっくりと夜の街へ走り去っていった。

俺はその姿を見送ると、小さく息を吐く。

「……疲れた。」

空を見上げる。

雲一つない夜空には、星が瞬いていた。

今日だけで知った真実は、あまりにも多い。

九十九会。

ロゼ。

百鬼。

そして、小紫さんの過去。

まだ何一つ終わってはいない。

むしろ――。

すべては、ここから始まる。

そう思いながら、俺は静かに玄関の扉を開けた。

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