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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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115/127

22

扉を開けると、そこは落ち着いた雰囲気の書斎だった。

壁一面に本棚が並び、部屋の中央には大きなローテーブルと向かい合うようにソファが置かれている。

その奥で、一人の男性が静かに立ち上がった。

青嶌さんの父――源吾さんだった。

俺たちを見ると、穏やかに微笑む。

「よく来たね。」

「立ち話も何だから。」

「まずは座りなさい。」

その言葉に促され、俺と小紫さんは並んでソファへ腰を下ろす。

向かいには源吾さん。

その隣へ青嶌さんが座った。

部屋が静まり返る。

源吾さんは俺たちをゆっくり見回したあと、娘へ視線を向けた。

「電話では。」

「話したいことがある、としか聞いていない。」

「それに。」

「客人を二人連れて来るともね。」

そう言って俺たちへ穏やかな視線を向ける。

「さて。」

「何があったのかな。」

「順を追って聞かせてもらおう。」

青嶌さんは真剣な表情で頷いた。

「はい、お父さん。」

「今日あったことを、全部お話しします。」

そう言って青嶌さんは、小さく息を吸い込んだ。

俺たちは、今日あった出来事を最初から順を追って話した。

小紫さんの正体。

ロゼさんとの関係。

黒天狗との一件との繋がり。

そして、九十九会と公園で聞いた過去の話まで。

途中、源吾さんは一度も口を挟まなかった。

ただ静かに耳を傾け、時折、小さく頷くだけだった。

すべてを話し終えると、部屋は静寂に包まれる。

源吾さんはゆっくりと目を閉じ、一度だけ深く息を吐いた。

そして右手でこめかみを軽く押さえ、小さく首を振る。

「……なるほど。」

「話は、大体分かった。」

その穏やかな口調とは裏腹に、その表情は今までになく真剣だった。

「正直に言おう。」

「予想以上に厄介な話だ。」

「相手が単なる犯罪組織なら。」

「警察へ引き渡して終わりだった。」

「だが。」

「総帥という人物が本当に存在し。」

「その背後に、君たちが話したような組織があるのだとしたら。」

「話は全く変わってくる。」

「そして百鬼という名前だけは。」

「私も噂程度には耳にしたことがある。」

「だが。」

「所属も。」

「組織の名前も。」

「誰一人として掴めていなかった。」

「今回初めて。」

「その男の背後に、そこまで大きな組織がある可能性を知った。」

源吾さんは視線を小紫さんへ向ける。

「君は。」

「その組織を抜ける覚悟は、もう決まっているんだね。」

小紫さんは一瞬だけ迷うように目を伏せた。

だが、その迷いはすぐに消え、真っ直ぐ源吾さんを見返した。

「……はい。」

「もう。」

「戻るつもりはありません。」

「皆さんを騙し続けるのも。」

「組織の一員として生きるのも。」

「終わりにしたいです。」

源吾さんはその返事を聞き、静かに頷いた。

「分かった。」

「なら、私も腹を括ろう。」

その一言に、俺たちは思わず顔を上げる。

「ただし。」

源吾さんの表情が一段と引き締まる。

「これは君たち高校生だけで抱えられる問題じゃない。」

「ここから先は。」

「私たち大人も動く。」

「その代わり。」

「君たちは決して独断で動かないこと。」

「何かあれば、必ず私へ連絡する。」

「いいね?」

俺たちは顔を見合わせると、力強く頷いた。

「「はい。」」

源吾さんは一度息を整えると、俺たち三人を順番に見渡した。

「では。」

「これから、小紫さんをどうするかを考えよう。」

部屋の空気が再び張り詰める。

源吾さんは静かな口調のまま続けた。

「今の話を聞く限り。」

「小紫さんは、組織を半ば強引に抜けた形になる。」

「本人にその意思があったかどうかは関係ない。」

「向こうから見れば。」

「裏切った。」

「そう判断される可能性が高い。」

小紫さんは黙って頷いた。

「……はい。」

「そうなると思います。」

源吾さんは腕を組む。

「つまり。」

「今の小紫さんは。」

「非常に危険な状態に置かれているということだ。」

「いつ組織が動き出しても、おかしくはない。」

「もちろん。」

「自宅へ帰ることも難しいだろう。」

小紫さんは静かに目を伏せた。

「……はい。」

「もう、帰れません。」

源吾さんは少しだけ考え込むと、ゆっくりと口を開いた。

「そこで。」

「私から、一つ提案がある。」

俺たちは自然と姿勢を正す。

「小紫さん。」

「黒鉄君と同じように。」

「青嶌家で護衛の仕事をしてみませんか?」

「……え?」

小紫さんは驚いたように目を見開いた。

源吾さんは穏やかに続ける。

「話を聞く限り。」

「あなたは武術の訓練を積んでいる。」

「護衛としての素質も十分あるように思える。」

「その力を、ここで役立ててみませんか。」

「わ、私が……ですか?」

戸惑いを隠せない様子で、小紫さんが聞き返す。

「えぇ。」

源吾さんは静かに頷いた。

「青嶌家の敷地内には、使用人や護衛が生活している別邸があります。」

「そこへ住み込みという形になります。」

「もちろん。」

「他の女性従業員と一緒です。」

「そうすれば。」

「小紫さんの安全も。」

「住む場所も。」

「そして収入も保証できます。」

「私は。」

「決して悪い話ではないと考えています。」

あまりにも突然の提案に。

俺たち三人は、しばらく言葉を失っていた。

「……。」

「……。」

「……。」

最初に口を開いたのは、小紫さんだった。

「私なんかで……。」

「本当に、いいんですか?」

「こんな私を受け入れていただけるなんて……。」

「正直。」

「願ってもみない提案です。」

源吾さんは優しく微笑んだ。

「もちろんです。」

「では。」

「さっそく手続きを進めましょう。」

源吾さんは部屋の入口へ視線を向けた。

「国守。」

「入ってきてくれ。」

「はい。」

扉が静かに開き、一人の男性が入室する。

源吾さんは簡潔に事情を説明すると、住み込みの準備を進めるよう指示を出した。

話は驚くほどの速さで進んでいく。

その様子に俺が圧倒されていると。

隣から青嶌さんが、そっと身を寄せてきた。

「黒鉄君。」

小さな声で耳打ちする。

「実は、うちって神白家の護衛だけじゃなくて。」

「企業や個人の身辺警護も請け負ってるの。」

「だから慢性的な人手不足なんです。」

「それに。」

「女性の護衛が圧倒的に足りなくて。」

「お父さん、ずっと頭を悩ませてたから……。」

少しだけ笑みを浮かべる。

「たぶん。」

「お父さんにとっても。」

「願ったり叶ったりなんだと思う。」

「なるほど……。」

思わず苦笑いが漏れた。

すると、源吾さんが改めて小紫さんへ視線を向ける。

「もちろん。」

「これは当面、住み込みという形になります。」

「ですが。」

「今回の件が落ち着き。」

「もし、この仕事を気に入っていただけたのなら。」

「そのまま正規社員として働いていただいても構いません。」

その言葉に、小紫さんは驚いたように目を見開いた。

「せ……正規社員、ですか?」

「えぇ。」

「能力次第ではありますが。」

「私は、十分見込みがあると思っています。」

「ありがとうございます……。」

小紫さんは何度も頭を下げる。

その様子を見ながら、青嶌さんが俺の袖を軽く引っ張った。

「ね?」

小さく微笑みながら耳元で囁く。

「言った通りでしょ?」

俺は思わず苦笑する。

「確かに。」

「源吾さんにとっても、小紫さんにとっても。」

「お互い願ったり叶ったりだったんだね。」

青嶌さんは満足そうに小さく頷いた。

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