21
夕暮れに染まった公園を後にし、俺たちは歩き始めた。
誰も口を開かない。
さっきまで交わしていた話が重く胸に残り、それぞれが考え込んでいた。
駅前へ出ると、人の行き交う賑やかな景色が広がる。
笑い声。
電車のアナウンス。
仕事帰りの人たち。
そんな日常の音が、俺たちだけを現実から切り離しているように感じた。
「……。」
ふと隣を見る。
小紫さんは俯きながら歩いていた。
その横顔には、不安と覚悟が入り混じっている。
それでも。
もう一人で抱え込もうとはしていなかった。
そのことだけは、少し嬉しかった。
青嶌さんがスマートフォンを取り出し、どこかへ短く連絡を入れる。
「もしもし、お父さん?」
「今から帰るね。」
「うん。」
「話したいことがあるの。」
「それと……。」
「一緒に来てもらいたい子が二人いる。」
数秒、相手の話を聞いたあと、小さく微笑んだ。
「ありがとう。」
「もうすぐ着くよ。」
通話を切ると、俺たちへ振り返る。
「大丈夫。」
「お父さんには話を通したから。」
「二人とも安心して。」
そう言って微笑む青嶌さんに、俺と小紫さんは小さく頷いた。
駅を抜け、住宅街を十分ほど歩く。
やがて視界の先に、高い塀へ囲まれた大きな屋敷が姿を現した。
重厚な木製の門。
手入れの行き届いた庭木。
まるでテレビでしか見たことのないような立派な日本家屋だった。
思わず足が止まる。
「……すご。」
俺が思わず漏らすと、青嶌さんは照れくさそうに笑う。
「そう?」
「いや……。」
「想像してたより、何倍も大きい。」
「ふふっ。」
「じゃあ、入ろっか。」
そう言って青嶌さんが門へ近づく。
静かに門が開き、俺たちは青嶌家の敷地へ足を踏み入れた。
門をくぐると、外の喧騒が嘘のように静まり返った。
石畳の道が玄関まで真っ直ぐ伸び、その両脇には丁寧に手入れされた庭が広がっている。
風に揺れる木々の音だけが、静かに耳へ届いた。
「こっちだよ。」
青嶌さんの後を追いながら、俺は思わず辺りを見回す。
「……本当にすごい家だな。」
「そんなに?」
「うん。」
青嶌さんは少し照れくさそうに笑う。
小紫さんも青嶌家の広さに圧倒されたようで
「私も正直、緊張してきました。」
「ふふっ。」
「安心して。」
「お父さん、見た目ほど怖くないから。」
その言葉に小紫さんは少しだけ肩の力が抜ける。
玄関へ近づくと、扉がゆっくりと開いた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
出迎えたのは、五十代ほどの執事だった。
黒の燕尾服を身にまとい、一分の隙もない所作で深く頭を下げる。
「ただいま、国守さん。」
「お父さんは?」
「旦那様は書斎にてお待ちです。」
「皆様もご一緒にとのことです。」
青嶌さんは小さく頷き、俺たちを振り返った。
「行こう。」
「きっと。」
「ここからが本番だから。」
俺と小紫さんは顔を見合わせ、小さく頷いた。
玄関へ足を踏み入れる。
磨き上げられた床に、自分たちの姿が映る。
静かな廊下を歩くたび、胸の鼓動が少しずつ速くなっていく。
やがて執事が、一枚の重厚な扉の前で立ち止まった。
「旦那様。」
「お嬢様と、お客様をお連れしました。」
扉の向こうから、落ち着いた低い声が返ってくる。
「……入りなさい。」
その一言に、俺は無意識に息を飲んだ。




