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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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113/127

20

「……百鬼。」

「……あいつは、狂ってる。」

静かな声だった。

だけど、その一言には嫌悪と恐怖が滲んでいた。

「九十九会では。」

「主に尋問や。」

「暗殺みたいな……。」

「決して表には出せない仕事を任されている。」

「でも。」

「それは建前。」

「本当のあいつは。」

「仕事だから人を傷つけているんじゃない。」

「人を痛めつけること、そのものを楽しんでる。」

「まるで。」

「趣味みたいに……。」

小紫さんは小さく拳を握る。

「あいつにとって。」

「悲鳴も。」

「恐怖も。」

「命さえも。」

「ただの遊び道具。」

「だから。」

「九十九会の中でも。」

「あいつを好いている人なんて、ほとんどいない。」

「お姉さまでさえ。」

「百鬼だけは、本気で嫌っていたわ……。」

俺と青嶌さんは、無言のまま顔を見合わせた。

やはり――。

俺たちの考えは、間違っていなかった。

青嶌さんが静かに口を開く。

「……やっぱり。」

「私たちの見立ては、間違っていなかったようですね。」

俺もゆっくり頷く。

「……そうみたいだね。」

その様子を見た小紫さんが、不思議そうに首を傾げる。

「……何か、思い当たることでも?」

俺は小さく息を吸った。

「うん。」

「黒天狗事件の次の日に報道されたニュース、覚えてるかな。」

「御影グループの役員だった香取さんが殺害された事件。」

小紫さんは少し考えた後、小さく頷く。

「ええ。」

「神白グループの競合他社……。」

「御影グループの役員だった香取さんが、自宅の駐車場で殺害された事件よね。」

「ニュースでも大きく取り上げられていたから、覚えているわ。」

青嶌さんは真っ直ぐ小紫さんを見つめた。

「はい。」

「実は。」

「黒天狗の天宮たちは、その事件が起きる前に。」

「百鬼たちに拉致されていたんです。」

小紫さんは小さく頷いた。

「ええ。」

「それは知っているわ。」

「現場へ駆けつけた警察官の一人が、お姉さまでしたから。」

「でも……。」

「それと香取氏に、何の関係があるの?」

青嶌さんは真剣な表情のまま答える。

「実は。」

「黒天狗の鷹取たちは。」

「助けてもらう条件として。」

「神白さんの誘拐を依頼した黒幕の名前を話したんです。」

「その人物が――。」

「御影グループ役員、香取。」

その名前を聞いた小紫さんは、静かに目を閉じた。

「……そう。」

「それなら。」

「十中八九、百鬼で間違いなさそうね。」

重苦しい空気が流れる。

小紫さんはゆっくりと俺たちを見渡した。

「でも。」

「一つだけ。」

「皆さんには勘違いしてほしくないことがあるの。」

「お姉さまは。」

「人を傷つけることには躊躇しない。」

「でも。」

「人殺しだけは。」

「絶対にしない。」

「それだけは、どんな任務でも貫いてきた人なの。」

「だから。」

「香取氏を殺したのは。」

「お姉さまじゃない。」

「……私は、そう信じている。」

俺は小紫さんを真っ直ぐ見つめ、小さく頷いた。

「うん。」

「分かった。」

「信じるよ。」

小紫さんの瞳が少しだけ揺れる。

俺は静かに続けた。

「ロゼさんを信じる……っていうより。」

「俺は。」

「小紫さんを信じてるから。」

「小紫さんが、そういう人だって言うなら。」

「俺は、それを信じる。」

しばらく俺を見つめていた小紫さんは、ふっと力が抜けたように微笑んだ。

その横で青嶌さんも優しく笑う。

「私も。」

「黒鉄君と同じかな。」

「小紫さんがそう言うなら。」

「私は小紫さんを信じる。」

「……ありがとう。」

小紫さんは小さく呟くと、一度深呼吸をした。

「それじゃあ。」

「続きから話すわ。」

少し表情を引き締める。

「九十九会の頂点には。」

「"総帥"と呼ばれる人物がいる。」

「でも。」

「私は、一度も会ったことがない。」

「姿も。」

「名前も知らないわ。」

「その次が。」

「九十九会を統括している。」

「一条銀次。」

「私たちが"先生"と慕っていた人よ。」

「先生は。」

「組織全体の運営や。」

「幹部への指示。」

「人員の管理や育成。」

「九十九会そのものをまとめる役目を担っていた。」

「現場へ出ることは、ほとんどなかったわ。」

「そして。」

「実際に現場を取り仕切っているのが。」

「総司令。」

藪銅利やぶとうり。」

「作戦の指揮や。」

「戦闘部隊を率いるのが、あいつの役目。」

「それから。」

「幹部の一人。」

「霧ヶ谷灰きりがやかい。」

「私は会ったことがないけど。」

「名前だけは聞いたことがある。」

「最後に、お姉様ね。」

「他にも何人か幹部はいるみたいだけど。」

「私が知っているのは、そのくらい。」

小紫さんは一度言葉を切り、静かに俯いた。

「……本当なら。」

「皆さんが一番知りたいのは。」

「どうして神白さんが狙われているのか。」

「その理由よね。」

「でも。」

「それだけは。」

「私にも教えられていなかった。」

「監視して。」

「報告する。」

「私に与えられていた任務は、それだけ。」

「理由を聞くことすら許されなかった。」

小紫さんは申し訳なさそうに頭を下げた。

「……ごめんなさい。」

「一番大事なことなのに。」

「私は、何も知らないの。」

青嶌さんが腕を組み、静かに考え込む。

「つまり、現時点で分かったことを整理すると──。」

「九十九会には。」

「総帥。」

「統括・一条銀次。」

「総司令・藪銅利。」

「幹部の百鬼虹士郎。」

「霧ヶ谷灰。」

「ロゼさん」

「少なくとも、この六人がいる。」

俺も頷く。

「そして。」

「百鬼は香取さん殺害の実行犯である可能性が高い。」

「神白さんを狙っているのは九十九会。」

「でも、その理由だけは分からない。」

青嶌さんも静かに頷く。

「ええ。」

「それが一番の問題ですね。」

「理由が分からなければ。」

「次に何をしてくるのかも読めません。」

重苦しい空気が流れる。

その時だった。

小紫さんが、何かを思い出したように顔を上げる。

「……あと一つだけ。」

俺と青嶌さんが同時に小紫さんを見る。

「確証はないけど。」

「気になっていることがあるの。」

俺と青嶌さんは同時に小紫さんを見る。

「私が先生やお姉様から教わった武術。」

征砕流せいさいりゅうっていう流派なんだけど……。」

「黒鉄流とどこか似ているの。」

俺は思わず目を見開いた。

「……似てる?」

「ええ。」

「構えや体の使い方。」

「力の流し方まで。」

「細かい部分が、とてもよく似ていた。」

「私も最初は気のせいだと思っていた。」

「でも。」

「監視任務を始めた頃。」

「私がお姉さまへ電話で。」

『黒鉄流の使い手です。』

そう報告した時。」

「お姉さまの声が、一瞬だけ止まったの。」

「それまで冷静だったのに。」

『……黒鉄流?』

「そう聞き返した後。」

「少しだけ考え込んでいた。」

「結局、その時は何も言わなかったけど。」

「何かを引っ掛けている様子だった。」

「だから。」

「もしかすると。」

「征砕流と黒鉄流には。」

「何か関係があるのかもしれません……。」

その言葉に、俺と青嶌さんは顔を見合わせた。

今までバラバラだった点が、少しずつ一本の線で繋がり始めている気がしていたが、まだまだ分からないことの方が、圧倒的に多い。

重苦しい空気の中、俺は一つだけはっきりしていることを口にした。

「……とりあえず。」

「今、一番考えなきゃいけないのは。」

「これから小紫さんをどうするかだ。」

俺は少し考え込む。

そして、頭に浮かんだ案をそのまま口にした。

「母さんに相談して。」

「しばらく俺の家で暮らしてもらうっていうのは……。」

「え……。」

小紫さんが少し驚いたように目を瞬かせる。

「黒鉄君の……お家ですか?」

その頬が、ほんのり赤く染まる。

俺は慌てて首を振った。

「い、いや!」

「変な意味じゃなくて!」

「安全な場所が必要だと思っただけで……。」

そんな俺たちを見ていた青嶌さんは、小さく笑ったあと、すぐに真剣な表情へ戻った。

「黒鉄君らしい考えだけど。」

「私は、あまりいい案だとは思わないかな。」

「九十九会が本気で小紫さんを連れ戻そうとしているなら。」

「黒鉄君の家族まで危険に巻き込む可能性がある。」

「それに。」

「今までの話は、お父さんにも報告しないといけない。」

「九十九会のことも。」

「小紫さんのことも。」

「全部相談してみる。」

そして、俺たちへ向き直る。

「だから。」

「二人も、一緒に来て。」

「お願い。」

その瞳は真剣だった。

俺は迷わず頷く。

「分かった。」

小紫さんも、小さく息を吸ってから頷いた。

「……はい。」

「お願いします。」

三人は顔を見合わせる。

次に向かう場所は決まった。

青嶌家。

九十九会との戦いは。

ここから、本当の意味で動き始めようとしていた。

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