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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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111/126

18

しばらく、誰も口を開かなかった。

静かな公園に、虫の鳴き声だけが響く。

「……。」

俺は握っていた拳に力が入っていることに気付く。

「……そんなの。」

小さく漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。

「そんなの辛すぎる……。」

「子ども一人が背負うには重すぎるよ…。」

怒りだった。

小紫さんの両親にも。

九十九会にも。

そして……こんな理不尽な現実にも…。

全部が許せなかった。

青嶌さんも俯いたまま、小さく息を吐く。

「……ごめん。」

小紫さんが驚いたように顔を上げる。

「え……?」

「今まで。」

「そんな思いを抱えていたなんて。」

「全然気付いてあげられなかった。」

青嶌さんはそっと小紫さんの手へ自分の手を重ねた。

「寂しかったよね。」

「辛かったよね」

「苦しかったよね。」

「一人で頑張ってきたんだね。」

その優しい言葉に、小紫さんの目尻がまた少し赤くなる。

俺はゆっくり口を開いた。

「……小紫さん。」

「ありがとう。」

「話してくれて。」

「きっと。」

「話すのも辛かったよね。」

「でも。」

「俺たちは知れてよかった。」

「もう。」

「一人で抱え込まなくていい。」

小紫さんは涙をこらえながら、小さく笑った。

「……うん。」

「ありがとう。」

再び静かな時間が流れる。

さっきまで胸の中を埋め尽くしていた怒りは消えていない。

だけど今は、それよりも知りたいことがあった。

俺はゆっくりと息を吸い、小紫さんを見つめる。

「……小紫さん。」

「一つだけ。」

「聞いてもいいかな。」

小紫さんは少しだけ首を傾げた。

「……なに?」

「ロゼさんのこと。」

「さっきの話を聞いてても分かる。」

「あの人は九十九会っていう組織の人間だよね…。」

「なのに。」

「どうして、そこまで小紫さんを大切に育てたんだ?」

「俺には……。」

「そこだけが、どうしても分からない。」

小紫さんは少しだけ目を伏せ、どこか懐かしむように小さく微笑んだ。

「……お姉さまは。」

「自分のことを話したがる人じゃなかった。」

「だから。」

「私も、お姉さまの過去はほとんど知らない。」

「でも。」

「一度だけ。」

「昔の話をしてくれたことがあったの。」

小紫さんは遠くを見つめるように目を細める。

「お姉さまは。」

「どこか東南アジアの生まれだって言っていた。」

「とても貧しい家庭で育って。」

「学校にも通えなかった。」

「毎日。」

「路上で物を売ったり。」

「靴を磨いたり。」

「そうやって、お金を稼いでいたみたい。」

「それでも生活は苦しくて。」

「最後には。」

「家族も、お姉さまを養いきれなくなって。」

「捨てられたって……。」

小紫さんは静かに俯く。

「それからは。」

「同じように行き場を失った子どもたちと一緒に。」

「スリや。」

「窃盗を繰り返して。」

「その日を生きることだけを考えて暮らしていたらしいの。」

少し間を置いて、小さく息を吐く。

「そして、ある日。」

「いつものようにスリの標的にした日本人がいた。」

「その人が――。」

「九十九会の統括責任者。」

「一条銀次…。」

「私と、お姉さまが。」

「"先生"と慕っていた人だったの。」

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