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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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108/126

15

さっきまで張り詰めていた空気が、少しだけ柔らかくほどけていった。

「さて。」

青嶌さんがパンッと両手を叩く。

「そろそろ戻ろっか。」

「みんな心配してるだろうし。」

「あ……。」

俺は思わず時計を見る。

「やば。」

「ゴミ捨ての途中だった。」

「絶対黄瀬に文句言われる。」

その言葉に青嶌さんが吹き出す。

「それは言われるね。」

「黄瀬君は百パーセント騒いでる。」

「間違いない。」

久しぶりに自然な笑みがこぼれた。

小紫さんも、小さく笑う。

「……ふふ。」

その笑顔を見て、俺は胸をなで下ろした。

少なくとも今は。

ちゃんと笑えている。

「行こう。」

俺がそう言うと、小紫さんは小さく頷く。

「……はい。」

俺たちは校舎裏を後にし、教室へ戻った。

教室では案の定、文化祭初日を終えた後で慌ただしかった。

模擬店で使った器具を洗い、机や椅子を元の位置へ戻し、使用した備品を整理する。

明日も文化祭は続く。

そのため、完全な現状復帰ではなく、二日目の準備を残したまま教室を整えていく。

「そこ段ボールまとめてー!」

「こっち終わった!」

「黄瀬! サボるな!」

「サボってねぇって!」

いつもの騒がしい教室。

つい数十分前までの出来事が嘘のようだった。

小紫さんも、何事もなかったかのように皆と一緒に作業をしている。

時折見せる笑顔は少しぎこちなかったが、それでも無理に取り繕っているようには見えなかった。

その姿に、俺は少しだけ安心する。

やがて片付けも終わり、明日の準備も一段落した。

担任の号令で解散となり、俺たちはそれぞれ帰路につく。

まずは神白さんを自宅まで送り届ける。

「今日は楽しかったですね。」

神白さんはいつもの優しい笑顔を浮かべた。

「明日もよろしくお願いいたします。」

「うん、よろしく。」

短く返事をすると、神白さんは門の向こうへ消えていく。

その後、小紫さんと青嶌さんとも駅前で別れた。

「また明日。」

「うん、また明日。」

周囲から見れば、ごく普通の別れ際。

だけど、それは表向きだけだった。

本当は。

皆には内緒で、もう一度集まる約束をしている。

場所は、駅に隣接する小さな公園。

誰にも聞かれず、今日の出来事を話すために。

「じゃあ俺はこっちっす!」

黄瀬が大きく手を振る。

「また明日!」

「またな。」

黄瀬の姿が人混みの中へ消えていくのを見届けると、俺は静かに踵を返した。

向かう先は――駅横の公園だった。

駅前を歩く人混みを抜け、俺は約束していた公園へ向かった。

駅に隣接するその公園は、昼間は子どもたちで賑わう場所だが、この時間になると人影もまばらだった。

俺が辺りを見回していると、

「黒鉄君。」

聞き慣れた声が聞こえた。

振り向くと、小紫さんと青嶌さんが並んで立っていた。

「待たせちゃった?」

「いえ、私達も今来たところです。」

そう答えると、俺たちは三人は近くのベンチへ腰を下ろした。

昼間とは違い、聞こえるのは虫の鳴き声と、駅へ出入りする電車の走行音だけ。

誰も口を開かなかった。

文化祭での楽しい思い出。

体育館裏での出来事。

あの人の言葉。

すべてが頭の中を巡っていた。

やがて俺は、小さく息を吸う。

「……小紫さん。」

「まずは一つだけ、聞いてもいい?」

小紫さんは静かに頷いた。

「……はい。」

「今日いた、あの人。」

「小紫さんのお姉さん……なんだよね?」

その問いに、小紫さんは俯く。

握った両手へ力が入り、指先が白くなっていく。

長い沈黙。

やがて、小さく首を横へ振った。

「……違う。」

その一言に、俺と青嶌さんは思わず顔を見合わせる。

「え……?」

「実のお姉さんじゃ、ないの?」

青嶌さんが静かに尋ねる。

小紫さんはゆっくりと頷いた。

「あの人の名前は……ロゼ。」

「私の実の姉じゃない。」

「私の面倒をみてくれていたひと。」

静かな夜風が三人の間を吹き抜ける。

俺は思わず息をのんだ。

「あの人が……。」

「どういうこと?……。」

小紫さんは小さく頷き、どこか遠くを見るように空へ視線を向けた。

「全部話すね。」

「私が、どうしてあの組織にいるのか。」

「どうして神白さんを監視していたのか。」

「その前に……。」

「まずは、私の話を聞いてほしい。」

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