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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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107/127

14

彼女は初めて青嶌さんへ視線を向けた。

その表情は変わらない。

「青嶌家のご令嬢が。」

「まさか、ここまで踏み込んでくるとは思わなかったわ。」

青嶌さんは一歩も退かない。

「関係ない。」

「目の前で困っている友達を放っておけない。」

「それだけ。」

彼女は小さく息を吐く。

「……その言葉。」

「あなたのお父様が聞いたら、頭を抱えるでしょうね。」

青嶌さんはふっと笑う。

「その時は、その時。」

「怒られる覚悟くらいできてる。」

「でも。」

「小紫さんを見捨てる覚悟なんて、私にはない。」

彼女は静かに俺たちを見渡した。

俺。

青嶌さん。

そして、俺の胸に身を預ける小紫さん。

しばらくの沈黙。

やがて彼女は、小さく目を閉じた。

「……そう。」

「そこまで言うのね。」

誰にも聞こえないほど小さく呟く。

「楓。」

「今日は帰るわ。」

小紫が驚いて顔を上げる。

「お、お姉さま……?」

「ただし。」

彼女の視線が俺へ向く。

「今日だけよ。」

「あなたたちに時間をあげる。」

「でも忘れないで。」

「私たちの世界は、あなたたちの日常を待ってはくれない。」

「次に会う時。」

「あなたたちが同じ答えを出せるとは限らない。」

彼女は踵を返す。

数歩歩いたところで足を止めた。

振り返ることなく、小さく呟く。

「楓。」

「……後悔だけはしないことね。」

そのまま夕暮れの校舎裏へ静かに消えていった。

残された三人。

誰も口を開かなかった。

やがて彼女の姿が夕暮れの校舎裏へ消えていく。

重苦しい沈黙に耐えきれず、俺は静かに口を開く。

「……とりあえず。」

「見逃してくれたってこと、なのかな。」

青嶌さんは彼女が去っていった方向を見つめたまま、小さく頷いた。

「たぶんね。」

「今だけ。」

「そういうことだろうね。」

今だけかもしれない。

それでも。

今、この瞬間だけは小紫さんを守れた。

その事実だけが、少しだけ俺の心を軽くした。

少しずつ落ち着きを取り戻した小紫さんは、俺たちを見上げる。

それでも不安なのか、俺のクラスTシャツの裾を小さく握ったまま、震える声で口を開いた。

「皆さん……。」

「ご迷惑をおかけして……。」

「本当に、ごめんなさい……。」

俺は小さく首を横に振る。

「俺たちは。」

「小紫さんを助けたかっただけだから。」

青嶌さんも優しく微笑む。

「そうだね。」

「でも。」

「話は、ちゃんと聞かせてもらうからね?」

その言葉に、小紫さんは涙を拭いながら頷いた。

「……はい。」

「全部、お話しします。」

青嶌さんは満足そうに頷く。

「うん。」

「なら、それでいい。」

そう言った直後だった。

俺たちを見た青嶌さんの口元が、ゆっくりと緩む。

「ところでさ。」

「二人は。」

「いつまで、そのまま抱き合ってるのかな?」

「…………。」

その一言で、ようやく自分の状況に気付いた。

「……あ。」

小紫さんも同じだったらしい。

ゆっくりと顔を上げ、俺と目が合う。

数秒の沈黙。

「っ……!」

みるみるうちに小紫さんの頬が真っ赤に染まる。

「く、黒鉄君……。」

俺も一気に顔が熱くなる。

離れようと体を動かしかける。

だけど。

まだ小紫さんの足元は少しふらついていた。

今、腕を離せば、そのまま倒れてしまいそうだ。

どうしていいのか分からず固まっていると――

青嶌さんが吹き出した。

「いや、離さなくていいんだけどさ。」

「そのまま固まってる二人が面白くて。」

「青嶌さん!」

思わず声を上げる俺を見て、青嶌さんは楽しそうに笑う。

「ふふっ。」

その笑いにつられるように、小紫さんも涙を拭い、小さく笑みを浮かべた。

さっきまで張り詰めていた空気が、少しだけ柔らかくほどけていった。

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