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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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106/127

13


腕を掴まれ、小紫さんの肩が震える。

「……黒鉄君。」

俺は息を整えた。

彼女の言葉は正しかった。

俺は何も言い返せなかった。

だから――。

「……あなた。」

俺は真っ直ぐ彼女を見据えた。

「あなたの言う通りです。」

「俺は、小紫さんの過去も。」

「背負ってきたものも。」

「覚悟も。」

「何一つ知りません。」

「だから、何も言い返せません。」

「……だけど。」

「だけど、一つだけ納得できないことがあります。」

「さっきから。」

「あなたは。」

「小紫さんの答えを、一度も聞こうとしてない。」

「最初から答えを決めつけてる。」

「そんなの、納得できない。」

俺は静かに小紫さんへ向き直る。

涙で濡れた瞳が、まっすぐ俺を見つめ返した。

「俺は……。」

「まだ、小紫さんの気持ちを聞いてない。」

「任務がどうとか。」

「責任がどうとか。」

「そんなことじゃない。」

「俺が聞きたいのは。」

「小紫さん自身が、本当はどうしたいのか……。」

「小紫さん……それを聞かせてくれる?」

小紫さんの瞳が大きく揺れる。

俺を見つめたまま、唇が小さく震えた。

「私……。」

それ以上言葉が出ない。

涙だけが頬を伝い、地面へと落ちていく。

彼女は何も言わない。

ただ、静かに小紫さんを見つめていた。

やがて、小紫さんは胸元をぎゅっと握り締め、震える声で本音を絞り出した。

「私……。」

「皆と……。」

「皆と、いたい……。」

「神白さんと。」

「青嶌さんと。」

「黄瀬君と。」

「緋乃君と。」

そして――

「黒鉄君と……。」

「もっと一緒にいたい……!」

堰を切ったように涙が溢れ出す。

今まで押し殺していた想いが、一気に溢れ出していた。

「もう……。」

「皆を騙したくない……。」

「任務なんて嫌……。」

「普通の友達として……。」

「皆と一緒にいたいよ……!」

その叫びは、夕暮れの静かな校舎裏に響き渡った。



もう、このまま行かせるわけにはいかなかった。

俺は掴んだ小紫さんの腕を、ぐっと自分の方へ引き寄せる。

「行かせない。」

短く、はっきりと言い切った。

「……っ。」

その一言を聞いた瞬間。

今まで必死に張り詰めていたものが切れたように、小紫さんの体から力が抜ける。

抵抗することも。

踏ん張ることもなく。

小紫さんはそのまま、俺の胸へ倒れ込んできた。

震える肩。

堪えていた涙が、ぽろぽろとクラスTシャツを濡らしていく。

俺は倒れ込んできた小紫さんを受け止めるように、そっと肩へ手を回した。

震える肩を支えるように、その手に少しだけ力を込める。

「もう一人で全部抱え込まなくていい。」

彼女は、小紫さんを抱き寄せる俺を静かに見つめていた。

その瞳に怒りはない。

呆れでもない。

ほんの一瞬だけ、どこか寂しそうな色が浮かび、すぐに消える。

「……優しいのね。」

ぽつりと漏れたその一言は、誰へ向けられたものだったのか。

「だから、楓はあなたたちといることを選んでしまった。」

小さく息を吐き、彼女は俺を真っ直ぐ見据える。

「でも。」

「もう遅いわ。」

「楓が組織を抜けるということは。」

「組織を裏切るということ。」

「裏切り者は追われる。」

「それが、私たちの世界。」

「逃げれば終わるほど、甘い世界じゃない。」

「あなたに、組織を抜けた後の楓を守れるという確証がどこにあるの!!」

俺は一瞬だけ黙る。

そして、小さく息を吸った。

「……ありません。」

「確証なんてありません。」

「でも。」

「だからって。」

「小紫さんの手を離す理由にはならない。」

「俺は。」

「小紫さんを、一人にはしない。」

張り詰めた空気の中。

静寂を破ったのは、青嶌さんだった。

「黒鉄君だけじゃない。」

一歩前へ出る。

その瞳には、一切の迷いはなかった。

「私もいる。」

「小紫さん。」

「もうあなたを、一人にはさせない。」

「青嶌の名に懸けて。」

「必要なら、家の力だって使う。」

「誰が相手でも。」

「私はあなたの味方。」

「だから。」

「もう一人で抱え込まないで。」

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