表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
PR
105/127

12

彼女は俺を真っ直ぐ見つめたまま、静かに口を開いた。

「……だから。」

「感情だけで動く子供は嫌いなのよ。」

一歩、俺との距離を詰める。

「いいこと、楓が今日まで歩んできた道は」

「本来、あなたたちとは決して交わることのない世界だった。」

「楓は、そういう世界で生きてきたの。」

淡々とした口調で、彼女は現実を語る。

そこには脅しも怒りもない。

ただ、事実だけを並べていた。

「楓が、あなたたちと一緒にいるということは」

「あなたたちも、これまで通りの普通ではいられなくなるということ。」

「それだけ…。」

「こちら側の世界は、甘くないのよ。」

彼女は一瞬だけ、小紫さんへ視線を向けた。

その瞳には、ほんの僅かに心配するような色が宿っていた。

「そして今の楓は」

「あなたたちと関わったことで、危険な立場へ自ら身を置いている。」

「それでも。」

「あなたは、その責任を負えるの?」

彼女は再び俺を真っ直ぐ見据える。

「彼女を守る覚悟がある?」

「命を懸ける覚悟がある?」

静かな問いだった。

しかし、その一言一言は俺の胸へ重くのしかかる。

夕暮れの風だけが二人の間を静かに吹き抜けていった。


彼女は何も言わなかった。

ただ、真っ直ぐに俺を見つめている。

答えを待っていた。

彼女の問いは単純だった。

覚悟はあるのか。

命を懸けてでも、小紫さんを守れるのか。

俺は口を開こうとする。

だけど、言葉が出ない。

覚悟。

責任。

命を懸ける。

その重さを、俺はまだ知らない。

何か言わなきゃいけない…だけど――。

答えは、出なかった。

「……そう。」

彼女は小さく呟く。

気のせいだろうか。

その表情には、ほんの僅かに期待外れだと言いたげな色が浮かんだ気がした。

「もういいわね、楓。」

「……。」

「聞かれた以上、あなたももうここにはいられない。」

「帰るわよ。」

小紫さんは俯いたまま、小さく頷く。

「……はい。」

その返事は、あまりにも弱々しかった。

彼女が踵を返す。

小紫さんもその後を追うように歩き出した。

だが、数歩進んだところで足を止める。

そして、ゆっくりと振り返った。

夕日に照らされたその瞳は、涙で滲んでいた。

「……黒鉄君。」

「神白さんに。」

「ごめんねって、伝えてくれるかしら……。」

その声は震えていた。

だけど、小紫さんは無理やり笑顔を作る。

きっと。

今にも泣き出しそうな自分を隠すために。

そうして、小紫さんは再び前を向く。

色々な感情を押し殺したまま、全てを諦めたように。

立ち去ろうとした、その瞬間。

俺は気付けば動いていた。

伸ばした右手が、小紫さんの腕を掴む。

「……!」

小紫さんが振り返る。

俺は俯いたまま、小さく呟いた。

「まだ……。」

「まだ、聞いてないよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ