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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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102/127

9

その後母さんと夕奈は、ナポリタンにメロンソーダ、食後のあんみつまでしっかりと味わうと、満足そうに席を立った。

「ごちそうさま。」

「全部美味しかったわ。」

「お兄ちゃん!」

「またね!」

夕奈が大きく手を振る。

「ありがとう。」

「楽しんでいって。」

俺も笑顔で二人を見送った。

母さんは最後にクラスの皆へ軽く頭を下げると、夕奈と手を繋ぎながら教室を後にした。

その後も慌ただしい時間は続いた。

次々と運ばれてくる注文。

料理を運び、空いた食器を下げ、席を片付ける。

満席だった教室も、お客様が入れ替わるたびにまた埋まっていく。

「ナポリタンお願い!」

「ドリンク追加です!」

「こちらのお席へどうぞ!」

教室中に飛び交う声。

気づけば時計の針はあっという間に進んでいた。

忙しかったはずなのに、不思議と時間が過ぎるのは早い。

そして――。

「交代時間でーす!」

クラスメイトの声が響く。

文化祭も前半が終了し、俺たちの担当時間もここまでだった。

「ふぅ……。」

思わず大きく息を吐く。

「朝陽、お疲れ。」

厨房から出てきた黄瀬がエプロンを外しながら笑う。

「思った以上に忙しかったな!」

「うん。」

「でも、楽しかった。」

その言葉に黄瀬は嬉しそうに笑った。

「ほんと。」

「文化祭最高だな!」


それから俺たちは更衣室で白シャツと黒ベストを脱ぎ、文化祭用のクラスTシャツへ着替える。

黒を基調としたTシャツ。

左胸には白い小さな文字で、

『一年B組』

そして背中には、筆で豪快に書いたような力強い文字で、

『北条軍』

クラス全員で何度もデザインを出し合い、最後に選ばれた一枚だ。

戦国武将の軍勢をイメージした渋いデザインは、派手さはないものの、全員で並ぶと妙に存在感があった。

「やっぱこれ、かっこいいよな。」

黄瀬が背中を見せながら笑う。

「最初見た時は渋すぎると思ったけど。」

「全員で着ると様になるね。」

青嶌さんも頷く。

「うん。」

「こういうシンプルなの、私は好きかな。」

小紫さんは自分の左胸の『一年B組』の文字を指先でなぞりながら微笑む。

「みんな同じ服って、不思議と一体感がありますね。」

「……そうだな。」

俺も自然と頷いた。

さっきまで袴姿で店を切り盛りしていた仲間たちが、今は全員同じクラスTシャツに袖を通している。

その光景を見ているだけで、

俺たちは同じクラスなんだ。

そんな当たり前のことを、改めて実感した。

教室を出た瞬間――。

「よーし!」

青嶌さんが両手を高く上げた。

「せっかくだし!」

「他のクラスを荒らしまくるぞー!」

「おいおい。」

黄瀬が苦笑する。

「荒らすのはまずくね?」

すると青嶌さんはジトッとした目で黄瀬を見る。

「……。」

「黄瀬君に言われると、なんか腹立つ。」

「なんでぇぇぇ!?」

黄瀬が大袈裟に肩を落とす。

「俺、まともなこと言っただけじゃん!」

「普段の行い。」

「一言で片付けられた!」

そのやり取りに、皆から笑いがこぼれる。

「まずはお昼食べませんか?」

小紫さんの一言で全員が頷いた。

校庭へ向かうと、屋台の前には長い列ができている。

香ばしいソースの匂い。

ジュージューと鉄板で焼ける音。

「焼きそば、美味しそう……。」

神白さんが小さく呟く。

「じゃあ決まり!」

五人分の焼きそばを買い、近くのベンチで昼食を取る。

「うまっ!」

黄瀬が一口目から声を上げる。

「これ文化祭レベルじゃねぇ!」

「食べながら喋らない。」

青嶌さんが呆れながら笑う。

「でも、本当に美味しいですね。」

神白さんも嬉しそうに頷いた。

昼食を終えると、今度はデザート代わりにチョコバナナを買うことになった。

「見てください。」

神白さんは嬉しそうにチョコバナナを見つめる。

「可愛いです。」

「食べ物に可愛いってあるんだ。」

俺が思わず笑うと、

「あります。」

神白さんは真剣な表情で答えた。

チョコバナナを片手に校内を歩いていると――。

「あっ!」

青嶌さんが廊下の奥を指差す。

「見て!」

「あれ面白そう!」

視線の先には、一つの教室。

入口には大きく、

『巨大迷路 ~君は脱出できるか!?~』

と書かれた看板が立っていた。

その下には、

『※最大二名まで参加可能』

の文字。

「迷路か。」

俺が呟く。

「面白そう!」

神白さんが嬉しそうに微笑む。

「行ってみたいです。」

「せっかくだし、一緒に入ろうよ!」

青嶌さんがそう言うと、黄瀬が周りを見回した。

「ん?」

「俺たち五人か。」

「一人余るな。」

「本当ですね。」

小紫さんも小さく頷く。

「どうしましょう。」

その時だった。

「お。」

「何してんだ?」

聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

振り返ると、クラスTシャツ姿の緋乃が立っていた。

「緋乃君!」

神白さんが手を振る。

「店番終わったの?」

「あぁ。」

「今終わったところ。」

緋乃は迷路の看板を見上げる。

「迷路か。」

「ちょうどいい!」

黄瀬が緋乃の肩をバンッと叩く。

「緋乃!」

「お前も来い!」

「これで六人!」

「綺麗に三組作れる!」

緋乃は少しだけ笑う。

「なるほど。」

「俺が入ればちょうど六人か。」

「わかった、俺も付き合おう。」

緋乃の合流が確定した所で青嶌さんが両手を合わせる。

「よし!ペア決めよう!」

その一言で、全員の視線がお互いへ向く。

「どうする?」

黄瀬が辺りを見回した、その時だった。

「黒鉄君。」

神白さんが遠慮がちに俺を見つめる。

「もし、ご迷惑でなければ……。」

「私と一緒に回っていただけませんか?」

「え?」

突然の申し出に思わず声が漏れる。

「もちろん。」

「俺でよければ。」

「ありがとうございます。」

神白さんは、ぱっと笑顔を見せた。

「はい、一組決まり!」

青嶌さんがパンッと手を叩く。

「じゃあ残りは……。」

黄瀬が期待に満ちた目で青嶌さんを見る。

「青嶌さん!」

「お願いします!」

「え?」

「なんでそんな必死なの。」

「必死にもなるよ!」

「好きな女子と一緒にいられるチャンスなんだから!」

「……正直だね。」

青嶌さんは苦笑しながら肩をすくめる。

「まぁ、いいよ。」

「えっ?」

「ほんとに!?」

「よっしゃぁ!」

黄瀬は両手を突き上げて喜んだ。

その様子を見て、小紫さんがくすりと笑う。

「では、私は緋乃君ですね。」

「あぁ。」

緋乃は短く頷く。

「よろしく。」

「こちらこそ。」

こうして、

朝陽と神白。

黄瀬と青嶌。

緋乃と小紫。

三組のペアが決まった。

「それじゃあ!」

係の生徒が入口のカーテンを開ける。

「前の組が出てきたので、ご案内しまーす!」

「一組ずつスタートになります!」

「最初は――」

係の女子生徒は予約名簿に目を通すと

「黒鉄君と神白さん、どうぞ!」

神白さんは小さく深呼吸すると、俺の方を見て微笑んだ。

「行きましょう。」

「うん。」

俺たちは顔を見合わせ、小さく頷くと、薄暗い迷路の入口へ一歩足を踏み入れた。

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