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その後母さんと夕奈は、ナポリタンにメロンソーダ、食後のあんみつまでしっかりと味わうと、満足そうに席を立った。
「ごちそうさま。」
「全部美味しかったわ。」
「お兄ちゃん!」
「またね!」
夕奈が大きく手を振る。
「ありがとう。」
「楽しんでいって。」
俺も笑顔で二人を見送った。
母さんは最後にクラスの皆へ軽く頭を下げると、夕奈と手を繋ぎながら教室を後にした。
その後も慌ただしい時間は続いた。
次々と運ばれてくる注文。
料理を運び、空いた食器を下げ、席を片付ける。
満席だった教室も、お客様が入れ替わるたびにまた埋まっていく。
「ナポリタンお願い!」
「ドリンク追加です!」
「こちらのお席へどうぞ!」
教室中に飛び交う声。
気づけば時計の針はあっという間に進んでいた。
忙しかったはずなのに、不思議と時間が過ぎるのは早い。
そして――。
「交代時間でーす!」
クラスメイトの声が響く。
文化祭も前半が終了し、俺たちの担当時間もここまでだった。
「ふぅ……。」
思わず大きく息を吐く。
「朝陽、お疲れ。」
厨房から出てきた黄瀬がエプロンを外しながら笑う。
「思った以上に忙しかったな!」
「うん。」
「でも、楽しかった。」
その言葉に黄瀬は嬉しそうに笑った。
「ほんと。」
「文化祭最高だな!」
それから俺たちは更衣室で白シャツと黒ベストを脱ぎ、文化祭用のクラスTシャツへ着替える。
黒を基調としたTシャツ。
左胸には白い小さな文字で、
『一年B組』
そして背中には、筆で豪快に書いたような力強い文字で、
『北条軍』
クラス全員で何度もデザインを出し合い、最後に選ばれた一枚だ。
戦国武将の軍勢をイメージした渋いデザインは、派手さはないものの、全員で並ぶと妙に存在感があった。
「やっぱこれ、かっこいいよな。」
黄瀬が背中を見せながら笑う。
「最初見た時は渋すぎると思ったけど。」
「全員で着ると様になるね。」
青嶌さんも頷く。
「うん。」
「こういうシンプルなの、私は好きかな。」
小紫さんは自分の左胸の『一年B組』の文字を指先でなぞりながら微笑む。
「みんな同じ服って、不思議と一体感がありますね。」
「……そうだな。」
俺も自然と頷いた。
さっきまで袴姿で店を切り盛りしていた仲間たちが、今は全員同じクラスTシャツに袖を通している。
その光景を見ているだけで、
俺たちは同じクラスなんだ。
そんな当たり前のことを、改めて実感した。
教室を出た瞬間――。
「よーし!」
青嶌さんが両手を高く上げた。
「せっかくだし!」
「他のクラスを荒らしまくるぞー!」
「おいおい。」
黄瀬が苦笑する。
「荒らすのはまずくね?」
すると青嶌さんはジトッとした目で黄瀬を見る。
「……。」
「黄瀬君に言われると、なんか腹立つ。」
「なんでぇぇぇ!?」
黄瀬が大袈裟に肩を落とす。
「俺、まともなこと言っただけじゃん!」
「普段の行い。」
「一言で片付けられた!」
そのやり取りに、皆から笑いがこぼれる。
「まずはお昼食べませんか?」
小紫さんの一言で全員が頷いた。
校庭へ向かうと、屋台の前には長い列ができている。
香ばしいソースの匂い。
ジュージューと鉄板で焼ける音。
「焼きそば、美味しそう……。」
神白さんが小さく呟く。
「じゃあ決まり!」
五人分の焼きそばを買い、近くのベンチで昼食を取る。
「うまっ!」
黄瀬が一口目から声を上げる。
「これ文化祭レベルじゃねぇ!」
「食べながら喋らない。」
青嶌さんが呆れながら笑う。
「でも、本当に美味しいですね。」
神白さんも嬉しそうに頷いた。
昼食を終えると、今度はデザート代わりにチョコバナナを買うことになった。
「見てください。」
神白さんは嬉しそうにチョコバナナを見つめる。
「可愛いです。」
「食べ物に可愛いってあるんだ。」
俺が思わず笑うと、
「あります。」
神白さんは真剣な表情で答えた。
チョコバナナを片手に校内を歩いていると――。
「あっ!」
青嶌さんが廊下の奥を指差す。
「見て!」
「あれ面白そう!」
視線の先には、一つの教室。
入口には大きく、
『巨大迷路 ~君は脱出できるか!?~』
と書かれた看板が立っていた。
その下には、
『※最大二名まで参加可能』
の文字。
「迷路か。」
俺が呟く。
「面白そう!」
神白さんが嬉しそうに微笑む。
「行ってみたいです。」
「せっかくだし、一緒に入ろうよ!」
青嶌さんがそう言うと、黄瀬が周りを見回した。
「ん?」
「俺たち五人か。」
「一人余るな。」
「本当ですね。」
小紫さんも小さく頷く。
「どうしましょう。」
その時だった。
「お。」
「何してんだ?」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
振り返ると、クラスTシャツ姿の緋乃が立っていた。
「緋乃君!」
神白さんが手を振る。
「店番終わったの?」
「あぁ。」
「今終わったところ。」
緋乃は迷路の看板を見上げる。
「迷路か。」
「ちょうどいい!」
黄瀬が緋乃の肩をバンッと叩く。
「緋乃!」
「お前も来い!」
「これで六人!」
「綺麗に三組作れる!」
緋乃は少しだけ笑う。
「なるほど。」
「俺が入ればちょうど六人か。」
「わかった、俺も付き合おう。」
緋乃の合流が確定した所で青嶌さんが両手を合わせる。
「よし!ペア決めよう!」
その一言で、全員の視線がお互いへ向く。
「どうする?」
黄瀬が辺りを見回した、その時だった。
「黒鉄君。」
神白さんが遠慮がちに俺を見つめる。
「もし、ご迷惑でなければ……。」
「私と一緒に回っていただけませんか?」
「え?」
突然の申し出に思わず声が漏れる。
「もちろん。」
「俺でよければ。」
「ありがとうございます。」
神白さんは、ぱっと笑顔を見せた。
「はい、一組決まり!」
青嶌さんがパンッと手を叩く。
「じゃあ残りは……。」
黄瀬が期待に満ちた目で青嶌さんを見る。
「青嶌さん!」
「お願いします!」
「え?」
「なんでそんな必死なの。」
「必死にもなるよ!」
「好きな女子と一緒にいられるチャンスなんだから!」
「……正直だね。」
青嶌さんは苦笑しながら肩をすくめる。
「まぁ、いいよ。」
「えっ?」
「ほんとに!?」
「よっしゃぁ!」
黄瀬は両手を突き上げて喜んだ。
その様子を見て、小紫さんがくすりと笑う。
「では、私は緋乃君ですね。」
「あぁ。」
緋乃は短く頷く。
「よろしく。」
「こちらこそ。」
こうして、
朝陽と神白。
黄瀬と青嶌。
緋乃と小紫。
三組のペアが決まった。
「それじゃあ!」
係の生徒が入口のカーテンを開ける。
「前の組が出てきたので、ご案内しまーす!」
「一組ずつスタートになります!」
「最初は――」
係の女子生徒は予約名簿に目を通すと
「黒鉄君と神白さん、どうぞ!」
神白さんは小さく深呼吸すると、俺の方を見て微笑んだ。
「行きましょう。」
「うん。」
俺たちは顔を見合わせ、小さく頷くと、薄暗い迷路の入口へ一歩足を踏み入れた。




