47話 本気
「りおちゃん!」
慌てて駆け寄り、りおちゃんを抱き起こす。
「うぅ……ひな、ちゃん……」
よかった……ぼんやりだけど意識はあるみたいだ。
でも……
左肩のあたりにはっきりとした火傷。
それと、血。
「大丈夫です」
声は落ち着いている。
自分でも驚くくらい冷静でいられた。
いや。
あるいは……
「少し待っていてください」
りおちゃんをそっと床に寝かせて。
そして、魔物の群れと対峙する。
魔法陣の輝きはだいぶ薄くなっていた。
これまでのことを考えて予想すると、残りは二百体くらい?
……なにも問題ない。
「パートナーをかばって孤軍奮闘、ってか? いいね、実に絵になるよ。お前、エンタメってのをちゃんと理解してるじゃねえか。その調子でもっとがんばって……は?」
男は無視。
まずは魔物だけに集中して、私は前に出た。
「おい……どこに行った? なんで消えた?」
やっぱり男は無視。
今は気にしていられない。
加速。
加速。
加速。
殴りつけて。
蹴り飛ばして。
手当たり次第に魔物を片付けていく。
砕ける。
潰れる。
四散する。
私の『全力』の加速と攻撃に耐えられず、魔物が次々と魔石になる。
一体、二体、三体……
十体、二十体、三十体……
私達の軌道上にある魔物達がことごとく消えていく。
邪魔をするな。
私達の邪魔をするな!
>なんだこれ……
>瞬間移動? 分身?
>今までで一番速い
>今まで本気じゃなかったってこと!?
私は止まらない。
ひたすらに動いて、魔物を撃破していく。
前へ、横へ、上へ。
床を蹴り、壁を踏み、天井すら足場にして、あらゆる方向からの攻撃をほぼ同時に叩き込んでいく。
「は、はあ? なんだよ、これ……」
男の困惑の声が聞こえてきた。
でも、今は無視。
魔物の相手だけに集中して……
「終わり」
増援を含めて、全ての魔物を殲滅した。
「……」
男は声がない。
「……」
りおちゃんも驚いているみたいだった。
「残りは……」
「ひっ!?」
男を見ると、びくっと震えられた。
「お、おいおい……冗談だろ? 盛り上げるための演出だろ、こんなもん。誰だってやってるさ」
「そんなことは関係ない」
「あ?」
「りおちゃんを傷つけた。絶対に許さない」
りおちゃん。
私の大事な友達。
守ることができるのなら、なんでもする。
私なんて『どうなっても』いい。
私は次なる一歩を踏み出して……
「あっ……!?」
ビキィッ! という感じで全身に激痛が走る。
神経を直接刺されているような感じで。
あまりの痛みにまともな悲鳴が出てこない。
しまった……もうタイムアウトだ。
さっきまでの『全力』の加速……あれは諸刃の剣だ。
人間、無意識のうちに体にリミッターをかけている。
本来はすごい力を出せるけど、でも、そうしたら体が傷ついてしまうから、そうならないように。
私はそのリミッターを意図的に解除して、いつも以上に『速く』動けるようにした。
私が持つ切り札の一つだ。
ただ、長時間は保たない。
時間切れになると同時に、無理をした反動でものすごい痛みに襲われてしまう。
今まで使わなかったのもそのせいだ。
「な、なんだ……? よくわからねえが、今がチャンス……ってことか? はは、俺ってツイてるな。日頃の行いがいいせいか?」
「くっ……!」
「ってなわけで……こいつも追加だ」
男がパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、足元から光の線が走る。
床、壁、天井。
一斉に展開される魔法陣が私の体を宙で拘束する。
「なに……これ……!?」
「ははははは!」
男は腹を抱えて笑った。
「ばーか! 無策で真正面から来るわけねえだろ? こういう保険はかけておくもんだ」
「……っ……」
「ま、確かにてめえは強いな。でも、対人戦の経験は薄いだろ? だから、こういう搦手にはとことん弱い……ははっ、ざまあねえな!」
「うぅううう……!!!」
「睨んでもなにもできなきゃ意味ねえよ。さて……今度こそ『いい絵』だな。もっかい魔物を呼び出して……」
「ひなちゃん!」
ダンッ!!!
「ぐぁ!?」
男の腕を弾丸が貫いて、手の平に集まりかけていた魔力が霧散した。
「りおちゃん!?」
「ひなちゃんを……これ以上……」
りおちゃんはぼろぼろで。
右手でしか銃を持てなくて。
そんな状態なのに、とても強く言う。
「やらせない!!!」




