44話 優しさと悪意と
「がんばってね」
と応援してくれる芹那さんに見送られて、私達はダンジョンのボス部屋を目指す。
芹那さんと零士さんは『障害』というだけじゃなくて……
無事に勝利したら通れるだけじゃなくて、ダンジョンのマップ情報も教えてくれた。
敗北しても、多少の時間ペナルティで通過することが可能。
でも、勝利したらボーナスとしてマップ情報をもらうことができる。
そのおかげで、私達は順調に進むことができた。
とはいえ、まだ上層のマップ全てを把握したわけじゃない。
途中、迷ったり行き止まりで引き返たものの、でも、その寄り道のおかげで全体の構造をさらに予想しやすくなり、だいたいを予想できた。
「えっと、今のルート、たぶん合ってますよね……?」
「うん、問題ないと思う! ね、みんな?」
>うんうん
>順調だと思うな
>いいペースだよ
>マジで優勝狙えると思う
「えっ、ゆ、優勝……!? む、無理です無理です、そんな……!」
「えー? そんなことないよ、ひなちゃん! ここまでかなりいい感じじゃない?」
「そ、そうでしょうか……?」
「魔物の処理も早いし、対人戦とかは連携でバッチリ! このまま行けばボス部屋もすぐだよ!」
「そ、そうですか……? で、でも私、ちょっと目立ちすぎている気が……」
>今さらすぎるw
>目立ちたくないのに目立つオモシレー女w
>命乞いしながら無双するのまだ笑えるw
>真面目に注目株だから諦めて
「ひぃ……!」
胃が、きゅっと縮む。
でも、りおちゃんは気にした様子もなく、にこにこしていた。
「大丈夫大丈夫! 目立つのはアイドルの仕事だけど、今日は二人で頑張る日だから!」
「そ、そうです……かね?」
「そうだよ! だから、一緒にがんばろう?」
「……はい!」
りおちゃんと一緒なら。
そう思って、もうちょっと、がんばってみることにした。
と、その時。
「す、すみません! 誰かいませんか!?」
ふらりと、物陰から見知らぬ人が現れた。
ドローンが追尾しているところを見ると、同じ参加者で配信者なのだろう。
「仲間が……仲間が倒れてしまって……! こっちで魔物に囲まれていて、助けていただけませんか!?」
「そ、それは大変です!」
私は反射的に一歩前に出た。
「ど、どこですか!? すぐ行きます!」
「ひなちゃん、待って!」
りおちゃんが袖を引く。
「こういうのは、まずは芹那さんに……運営に相談した方がいいんじゃないかな?」
>りおちゃんの言う通り
>マジのトラブルっぽいな
>こういう時のための運営だし
>ひなちゃんりおちゃんが無理する必要ないよ
>時間とられるし
「え、と……でも、それは……」
私なんかより運営さんに任せた方が確実。
それはわかるんだけど……
でも、緊急性が高かったら?
私なんかでも必要とされるような事態だったら?
男性配信者は必死な表情で頭を下げる。
「お願いします……! このままじゃ、本当に危ないんです! 運営を待っている時間も惜しくて……」
「え、と……りおちゃん。やっぱり私……」
「……うん、わかった。そうだよね。そうした方がいいよね。ごめん、私の方が間違っていた」
「りおちゃん……!」
「私達が行くよ、場所を教えて」
「は、はい! ありがとうございます、ありがとうございます!」
その時。
>待った待った
>そいつはダメ!
>騙されないで!
そんなコメントが流れていたんだけど、緊急事態ということで私達は気づくことができなくて……
「……え?」
案内された先。
広い部屋に踏み入れると、瞬間、空気が変わる。
ざわり、と不気味な気配が四方から押し寄せてくる。
そして、床に魔法陣が描かれて、それが光り輝いた。
同時に入り口の扉が重い音を立てて閉ざされる。
「……あ、あれ?」
「なに、これ……?」
さらに魔法陣が輝いて、そこから魔物があふれだした。
一体、二体、三体……いや、そんな数じゃない。
数え切れないほどの魔物が姿を見せる。
「え!? え!? えええ!?」
「ひなちゃん、これ……!」
りおちゃんが私の後ろについて銃を構える。
その背後で、男性配信者がワイヤーガンを使い跳躍して、部屋の上部にある安全地帯に移動した。
「……はは」
低い笑い声。
男性配信者のさっきまでの必死な顔はもうない。
代わりに浮かんでいるのは歪んだ笑みだ。
「ははは、はーはっはっは! こうもうまくいくとか……やべえ、まじ笑えるわ。引っかかったな、ばかが!」
「……え……?」
「助けてください? 仲間が倒れている? あはは! そんなの嘘に決まってんだろ、どれだけ頭お花畑なんだよ、バカが!」
「な、なにを……」
「さーて、ここからは最高のショーを俺が披露してやるよ! 最近人気のコンビが大ピンチ! 二人はどう切り抜けるか!? ……最高の絵面だろ?」
>なんだこいつ!?
>ひなちゃんりおちゃん大丈夫!?
>くそ気づいてもらえなかった!
>こいつ迷惑系配信者なんだよ!
>あちらこちらでバカなことして炎上目的で数字を稼いでいる
>なんだよそれ!?
>最悪すぎる
>通報しろ!
>もうしたけど間に合うかどうか……
「安心しろよ。ここ、上層だし? 死にはしねえだろ。せいぜい入院くらいで済むんじゃね? 知らんけど」
「あ、あなたっていう人は……!」
「おいおい、俺に気を取られてる場合じゃないだろ?」
魔物がどんどん増えている。
「ま、俺の撮れ高のためにがんばってくれ。俺はここから、じっくり撮らせてもらうからさ」
「あいつ!」
「りおちゃん、今は……!」
りおちゃんが狙い撃とうとするけど、それよりも魔物対処を優先しないと。
魔物は、もう……百を超えていると思う。
それらが……一斉に襲いかかってきた。




