43話 負けた方が楽・後編
「終わりだ!」
体勢を崩す私に零士さんが迫る。
大剣を振り、衝撃波が迫る。
このまま負けたら楽になる。
それはいつものことで、今までと同じ事をしているだけ。
でも……
「ひなちゃん!」
りおちゃんの強い声が響いた。
振り向いた一瞬、目が合う。
すごく不安そうにしてて。
でも、私のことを信じてくれている、そんな目。
(……私が、選ぶんだ……)
誰かに決めてもらうんじゃない。
流されるんじゃない。
(私は……逃げない!)
そう決めた瞬間、身体が動いた。
防ぐのではなくて逃げるわけでもなくて、逆に前に出た。
「ちっ!」
踏み込む。
ぎりぎりで大剣の軌道を避けて、さらに奥へ。
密着するようにして……
全身の力を使い、零士さんを吹き飛ばす。
「りおちゃん!」
「オッケー!」
りおちゃんは迷わない。
こうなることをわかっていたかのように動いて、両手の銃を連射して、零士さんを追撃した。
さすがというべきか、零士さんは吹き飛ばされながらも、りおちゃんの銃撃を大剣で防御した。
盾のように使い、一発も被弾していない。
でも。
(まだ終わらない!)
息を吸って、止める。
その瞬間、世界が引き延ばされた。
芹那さんが糸を放ってくるのがしっかりと見えた。
その軌道を瞬時に予測して、安全な位置に体を逃がしつつ、さらに前に出る。
糸を抜ける。
吹き飛ばされた零士さんに追いつく。
走れ。
もっと速く。
どこまでも誰よりも速く。
私は『本気』で加速して……
瞬間、世界を置き去りにした。
「なっ!?」
世界から色が消えていく。
白と黒の二つだけ。
音もない。
水の中にいるかのように、みんながスローモーションで動いて。
でも、私だけはいつもと変わりなく動くことができて。
……たまに、こうなる。
極限まで加速すると、時間が遅くなるというか、時間を置き去りにするというか。
そんな世界。
意図して起こすことはできないけど……
でも、この時。
どんな相手にも、どんな魔物にも……負けたことはない。
殴り。
蹴り。
打つ。
叩く。
響く。
突く。
ガガガガガッ!!!
ありとあらゆる攻撃を叩き込んで……
そして、世界に色と音が戻る。
「ぐっ……!?」
零士さんの身体が後方へ吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられて粉塵が舞う。
静寂。
零士さんは立ち上がろうとするが、その動きは鈍い。
「……やるじゃねえか」
悔しそうに。
でも、どこか納得したような声だ。
「はい、そこまで」
ふと、芹那さんの声が響いた。
幻だったかのように、糸がすっと消える。
「……俺はまだ続けられるぞ?」
「その体で?」
「……」
「というか……これ以上は『勝負』じゃなくなるわ」
「それは……」
「そもそも、ひなちゃんりおちゃんは、とっくに勝利していたの」
「ふぇ……?」
「ど、どういうことですか……?」
「私達は、確かに『障害』だけど、『本気』で邪魔するつもりはないの。そんなことしたら、クリアー不可能だもの」
そう自分で言ってしまうあたり、芹那さんはすごいな、って思う。
「だから、いい一撃を与えたらそこで合格。あるいは、おっ、ていうところを見せてくれるとか。だから、ひなちゃんりおちゃんはとっくに合格なの。まあ……それを忘れて、本気で戦い始めていた困った子がいるけれど」
「むぐ……」
零士さんがバツの悪そうな顔をして、芹那さんから視線を逸らした。
「と、いうわけで……二人は合格よ。通っていいわ」
「「……」」
私とりおちゃんは、ぽかーんと互いの顔を見て。
ほどなくして笑顔が湧き上がり。
「「やったーーー!!」」
ぴょんぴょんと抱き合う。
>神連携
>黒羽にここまで言わせるとかやばいだろw
>成長したなあ……
>親戚のおじさんか
>祝勝会しよう!
>まだ早いだろw
>おめでとう!
温かいコメントが流れる。
それを見た私は、精一杯の勇気を振り絞り、ドローンのカメラの方を見て……
「お、応援……ありがとう、ございましゅた……!」
……最後まで締まらないけど、それはそれで私らしいのかもしれない。




