14話 コラボはダンジョンだけじゃないよ?
ダンジョンの外はやっぱりうるさい。
ゲートを抜けた瞬間、空気が一気に軽くなった。
軽い、明るい、人が多い……情報量が多すぎて目眩がしそう。
そんな中でも、やっぱりというか、りおちゃんは元気いっぱいだった。
「はーい! 今日はここまで! 来てくれてありがとみんなー! ひなちゃんとの初コラボ、どうだったかな?」
>すごく楽しかった!
>二人で戦うところ最高にかっこいい
>りおちゃんの笑顔が当社比300パーセント
>どこの社だよ
>ひなちゃんも、もっと映してほしい
>ひなちゃんのチャンネルを見ろよ
>りおちゃんのチャンネルが見れなくなるだろ!
>同時視聴しろ
>デバイスが足らん
「じゃあ、今日はこの辺りで。おつりおー!」
りおちゃんは笑顔で配信を終えた。
完璧な配信だ。
さすがアイドル。
「じゃ、じゃあ……私はこれで」
「ひなちゃん!」
「は、はいいいっ!?」
「このあとさ、ごはん食べに行かない?」
私は立ち止まった。
止まってしまった自分を呪う。
ごはんは危険だ。
座る、向かい合う、逃げ場がない。
しかも長時間。
胃が死ぬ。
「あ、あの……その……」
「大丈夫、大丈夫! すぐ近くだよ! 私ね、すっごくいいところを知っているの」
「……い、いえ……今日は……」
「それじゃあ、行こ! きっとひなちゃんもお気に入りになると思うな」
「ひあああ!?」
りおちゃんに手首を掴まれて、ぐいぐいと引っ張られていく。
力がすごい!
これが陽キャパワー!?
「ちょ、ちょっと……!」
「大丈夫だって、怖くないよ!」
「そ、そうじゃなくて、胃が……」
「うんうん。胃がきっと満足すると思うな!」
違いますううううう!
心の中で絶叫しつつ、私はりおちゃんに連行された。
――――――――――
店は駅前から少し離れた細い路地の一角にあった。
おしゃれ。
明るい。
若者向け。
つまり、私に向いていない。
「ここだよ、ここ! ここのパンケーキがもうすごく美味しくて最高なんだ♪」
扉を開けると、甘い匂いがふわりと。
砂糖とバターの暴力。
帰りたいとばかり思っていたけど、その匂いにちょっとやられてしまう。
店員さんに席に案内されて、りおちゃんと対面で座る。
「ひなちゃん、なににする?」
「……えっと……」
たくさんあって、キラキラと輝いているような名前ばかりで、どれにすればいいのやら……メニューを決めるだけで一日かかりそう。
「私のオススメは、このチーズかな? ひなちゃんって、甘いものは好き?」
「そ、そこそこ……です」
「大の甘党! っていうことは?」
「そ、そこまでは……です」
「なら、やっぱりチーズがいいと思うな。けっこう濃厚なんだけど、でも、甘さがしつこくないから、見た目のわりにすごく食べやすいの! 私、この前、ついつい二回おかわりしちゃった、えへへ♪」
「すごいね……です」
いけない、私。
会話がワンパターンになっている。
でも、ちゃんとした会話なんて知らないし……
「え、えっと……じゃあ、それにします」
「オッケー! なら、私も同じものにするね。すいませーん、店員さーん!」
――――――――――
パンケーキは、来てしまえば普通に美味しかった。
ふわふわ。
甘い。
温かい。
「……美味しい」
「ね! 美味しいでしょ!」
「……は、はい……」
ぎこちないけど、会話はなんとか続いていた。
しかも……そんなに苦しくない。
主にりおちゃんがだけど、色々な話をして。
私がそれを聞いて、相槌を打つ。
そんな時間が続く。
「私ね、アイドル配信者になるのがずっと夢だったんだ」
「そう、なんですね……」
「だから、がんばってダンジョンに行くの。ダンジョン探索も楽しいけど、でも、アイドル活動っていう目的もあって、がんばってがんばって……でも、この前みたいに失敗しちゃうけど」
りおちゃんは、少しだけ目を伏せた。
「でも、見てくれる人がいるって思うと……頑張りたくなっちゃう」
私は、フォークを止めた。
(……すごいな)
怖いのに、行く。
私は、怖いと逃げる。
素直に、りおちゃんのことがすごいと、強いと思った。
「ひなちゃんは、なんでダンジョンに潜っているの?」
「それ、は……」
お父さんとお母さんがいないから、生活費を稼ぐため。
色々な補助はもらえているけど、それだけじゃ足りないから。
りおちゃんみたいにキラキラした理由じゃない。
とても泥臭い。
「……生活費のため、に」
呆れられるかな? 笑われるかな?
ビクビクしていたら、
「すごいね!」
なぜか、りおちゃんは尊敬の眼差しをこちらに向けてきた。
「え、で、でも……」
「ひなちゃん、私と同い年なので、生活費を自分で稼ぐとかすごいよ! 私なんて、お父さんとお母さん頼りだし。というか、アイドル活動ってけっこうお金を使うから、わりとカツカツでそんな余裕はなくて……たくさん助けられてもらっている感じ。だから、しっかりとがんばるひなちゃんは、すごいよ!」
(……そんなふうに、考えたことなかった)
仕方ないからダンジョンに潜る。
配信なんて興味ない。
そんな私を、りおちゃんは『すごい』って褒めてくれて……
少し。
ほんの少しだけ、『私』を褒めてもいいのかな、って思えた。
――――――――――
「はー、たくさん食べちゃった。美味しかったね!」
パンケーキを食べ終えて店を出る。
りおちゃんはとても満足そうだ。
ただ、私は、とあることをずっと考えていたから難しい顔をしていたと思う。
気を悪くしていないかな?
でも、このチャンスだけは逃したくなくて……
こんな私でも、前に進めるかもしれなくて……
「……あ、あのっ」
「ん? なーに?」
「わ、わた……私と……と、友達に……なって、くだにゃいっ!」
噛んだ。
終わった。
「え?」
りおちゃんが不思議そうな顔をした。
今の『え?』は、どんな『え?』なのだろう?
勘違いさせちゃった、とか。
思い上がらないで、とか。
そんな感じだったら……
「ひなちゃん、私達、もう友達だよね?」
「……え……?」
今度は、私が『え?』だった。
「だって、一緒にダンジョン潜って、それからごはん食べて、いっぱい話したし……そもそも、友達になろうね、って言ったし」
「そ、そういえば……で、でも」
「でも?」
「あれは、なんていうか、その……社交辞令的、な?」
「えー、そんなことないよ! そりゃあ、そういう社交辞令をする時はあるよ? でも、ひなちゃん相手にそんなこと絶対にしないよ! ひなちゃんはひなちゃんで、すっごくすごく友達になりたいもん! というか、もう友達だからね!」
返事は保留にしたつもりだった。
でも、りおちゃんの中ではもう決まっていた。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……嬉しい)
そっか。
これが『嬉しい』なんだ。
「……これからも……よろしく、お願いします」
「うん! よろしくね、ひなちゃん!」
友達って、契約書いらないんだ。
条件も、価値も、証明も。
『一緒にいたい』……ただ、それだけでいい。
胸の奥が、また少しだけ温かくなった。
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