13話 思っていたよりもやばい?
「じゃあ、そろそろ潜ろうか! 今日は上層で練習みたいなものだから、みんな、安心してね」
りおちゃんは、視聴者さん達に向けてそう言った。
個人用のドローンも持っていて、すでに配信を開始しているらしい。
(……安心……)
りおちゃんの『安心』は信用できるのか、できないのか。
たぶん、本人は本気で安心だと思っている。
それが……ちょっと怖い。
――――――――――
ダンジョンのゲートをくぐると、いつものように空気が一気に変わる。
静かで冷たい雰囲気……氷の世界に来たかのよう。
「みんなー! おはりおー! 今日はね、なんとね!」
りおちゃんは、私の方を見てにっこり笑う。
「ひなちゃんと一緒に潜るよー!」
さっきまでのことを見ていなかった人達がざわついた。
>え!? ひなちゃん!?
>コラボ!?
>まじで友達になってたw
>個人勢なのにコラボになるのか?
>というか個人勢と言っていいものか
>俺はありがたい
>美少女二人、とてもありがたい
>ははー!
美少女とか止めて。
『美少女』という単語に土下座したくなるから。
「そんなわけで、ひなちゃんと一緒にがんばるよ! ひなちゃん、意気込みをどうぞ!」
「ふぇ!?」
無茶振りやめて。
「え、えと、その、あの……ひぃん」
「上層の魔物を一掃するくらいがんばる、とのことでしたー!」
>なんも言っとらんやんけw
>りおちゃん翻訳機
>びくびくしてるところも小動物みたいで可愛い
>りおちゃん見に来たのに、ひなちゃんに目が行くぞ
>大丈夫だ、俺もだ
>でも浮気してないから!
>りおちゃん一筋!
「あはは、ありがとう♪」
りおちゃんと視聴者さんのやりとりを見て、うまいなあ、と尊敬する。
りおちゃん経由なのか、私の方にもいくらか人が来ているのだけど……
どんなコメントが流れているか確認するのが怖くて、配信UIから目を逸らしていた。
うぅ……
私に、りおちゃんの十分の一でいいから配信スキルがあれば。
別に配信をしたい、っていうわけじゃない。
私がダンジョンに潜るのは生活費を稼ぐためだ。
ただ……
こんな私のチャンネルにも来てくれる人がいるのなら、なんとかして向き合いたい、とは少しだけ思った。
ほんの少しで、まだまだ実行できそうにないけど。
「じゃあ、ひなちゃん、行こう? レッツゴー!」
「お、おぉ……」
テンション高いなぁ……
しばらく歩いて魔物の気配。
ちょっと大きな蜘蛛という感じで、上層には多く、群れで出てくるタイプだ。
「よーし、いくよっ!」
りおちゃんは、すでに二丁拳銃を抜いていた。
正確に照準を定めて、そして連射。
タタタンッ! という軽快な音が響いて、三匹の蜘蛛を一瞬で魔石に変えた。
>さすがりおちゃん!
>二丁拳銃かっこいい!
>エイムうま!
>りおは儂が育てた
>黙れ小僧!
私も、素直にうまいと思った。
それと……かっこいい。
アイドル系ダンジョン配信者。
よく知らなかったけど、こんなにすごいものだったんだ……
「あっ」
一体、魔物を取りそこねた。
蜘蛛の魔物は八本の足を器用に動かして壁を登り、天井へ。
死角からりおちゃんを狙おうとする。
私は反射で動いた。
「ダメ……です」
「ギギィ!?」
蹴って、吹き飛ばして。
そして、魔石に変えてやる。
「ひなちゃん、ありがとー!」
「あ、いえ……ど、どういたしまして?」
>今、何が起きた?
>ひなちゃん消えた?
>フレーム飛び?
>ドローンが追いきれていないというか、ひなちゃんが消えたことにも気づいてない
>機械の探知をごまかした?
>機械でも捉えきれないほど速い?
「やっぱりひなちゃん、強いねー!」
「……い、いえ……私なんて……」
謙虚。
人間、謙虚が一番。
……それから、何度か戦闘が続いて。
特に問題なく魔物を倒して。
そうして戦闘が終わり、りおちゃんが魔石と素材を拾いながら言う。
「ひなちゃん、ほんとに助かるよ! 何度も助けられちゃった」
「気の所為……です」
「そんなことないよ。なんていうか、こう……ひなちゃんと一緒だと、がーってなって、ぐわーってなって、やる気がずごごごってなるの!」
どういうこと?
「だから、すっごく助かっているんだよ!」
「あ、ありがとうございます……?」
「あはは! お礼を言いたいのは私の方だよー」
よくわからないけど……
私なんかでもりおちゃんの役に立てているみたいだ。
よかった。
ほっと、安堵の吐息をこぼした。
その一方で……
>ひなちゃんが消えたら魔物が倒されてばかりだな……
>りおちゃんの活躍よりも気になってしまう
>りおちゃんファン失格だ、切腹する
>どうぞ
>どうぞ
>引き止めろよ!
>でも、これ切り抜き案件じゃね?
>検証班、頼む
>ドローンの不具合とか?
>いや違う。移動速度が明らかにおかしい
>スローで見ても手が見えない
なぜかコメント欄が盛り上がっていた。
私について、みたいだけど……
特に気になるようなところなんてないはず。
単純に動いて殴るだけ……それだけだし。
「ひなちゃん、今日の配信、楽しいね!」
私は、返事に詰まった。
楽しいという感情を信用できない。
楽しいと思った瞬間に壊れる気がする。
壊れる前に逃げたくなる。
でも、りおちゃんは笑っていた。
なんだかんだ視聴者さん達も楽しそうだ。
そして……私も、ほんの少しだけ。
ほんとうにほんのちょっとだけだけど、呼吸が楽になっているような気がする。
「……そ、そうですね……」
「でしょー! ねえねえ、またやろうね!」
また。
それは約束。
次も一緒に、というもので、私を束縛するもの。
だから私は……
「……はい」
気がついたら、そんな返事を返していた。
少しだけ悪くないかもしれない。
そう思ってしまった自分に、私はまたびっくりしていた。




