230 デキる男
寒さが立ち上り、夜が早くなった頃。
いよいよ学校も今日で終わり、冬休みが始まろうとしていた。もちろん生徒たちはハイテンションになっていて、教室では冬休みに何をするのか話し合われている。
「え、クリパ?」
「ああ。どうせ暇だろ?」
「ふざけんな!俺にも予定があるんだよ!」
「何の?」
「そ、それは…」
どうやら恋人を持たない生徒にとっては悲しい休みになりそうだ。では逆に恋人を持つ生徒はどうだろう?
「ねえねえ、クリスマスは何する?」
「そうだなぁ…温泉とかどうだ?」
「温泉!いいね!」
「じゃあ決まりだな」
楽しそうに会話を弾ませる二人。明らかにここだけ周りと雰囲気が違う。でもクラスメイトもそろそろ慣れてきたのであまり大袈裟には反応しない。
「いいな〜。あいつは香賀さんとデートか〜」
「もうなんか逆にイラつかなくなったよな」
「早く幸せになりやがれって感じだな」
「……」
一応声は柊の耳に届いている。正直恥ずかしいところではあるが、それよりも今は目の前の女の子に集中しないといけない。
「せっかくだし泊まりにするか?イヴと当日で」
「うん!!すごく楽しそう!!」
やっぱり女の子はこういうイベント好きだよな。まあ多分当日は大変なことになるけど。でも彼女が楽しそうに笑ってくれる姿を想像すれば全てがどうでも良くなってくる。やはり柊は佳奈美にベタ惚れしている。
そして肝心の佳奈美だが、少し焦ったように疑問符を浮かべていた。
「あ、でももう予約とか埋まってるんじゃ…?クリスマスは混んでるだろうし…」
彼女の言葉は真っ当だ。クリスマスとかいうカップルがイチャイチャするためだけのイベントはもちろん世の中のカップルが遠出する理由になり得て、有名なデートスポットなどは予約が取れなくなる。佳奈美はそれを心配して発言をしたわけだが、それは全くの杞憂だった。
「それなら大丈夫。もう予約してるから」
「え!?」
やはり前世で色んな経験をしてきた人間は違った。
「もう予約って…もしかして温泉行くつもりだったの!?」
「まあ佳奈美が行きたいって言ったらな。温泉好きだろ?」
「うん!大好きっ!!」
このスマートな対応。やはり夫を経験した人間は女の子の扱いをわかっている。これには流石の佳奈美も惚れ直してしまうみたいだ。
「まさかそこまで私とのことを考えてくれてるなんて、ドキッとしちゃうよ…♡」
「そりゃ彼女なんだからいつも佳奈美のこと考えてるよ」
「そういうところだよ…っ!」
嬉し恥ずかしそうに悶える彼女。流石に可愛すぎて柊も心を射抜かれてしまう。
でもここはあくまでも学校なので何とか抱きしめたい衝動を抑えて鞄を手に取る。
「…でさ、この後暇?」
「うん」
「じゃあどこか遊びに行かないか?」
「もちろん!というか私は最初からそのつもりだったけどね」
この子は時間があればすぐにデートしたがる。まあ悪い気はしないのでいつもついて行っているが。それは今回も例外ではなく、彼女の言葉に乗せられていく。
「どこ行く?」
「行きたいところあるか?」
「カラオケ行きたい!」
「珍しいな」
「密室だからね…♡」
「…カラオケでは何もしないぞ」
「じゃあお家帰ってからたくさんイチャイチャしようね?♡」
「ああ」
相変わらずこのバカップルは人目も気にせずイチャイチャしている。しかしそれはもうクラスの名物になっているのでみんな暖かな目で見守ってくれている。
どうかこんな幸せが永遠に続いてほしいと願うばかりだ。




