229 ふわふわパジャマ
次の日の夜、柊の部屋にて。
彼は相変わらず佳奈美のことが大好きで、つい先程まで二人でビデオ通話をしていた。そこで存分に癒されて日々のストレスや疲れを忘れ去ったところで気持ち良く眠るのが最近のルーティンだ。そして今ももちろん良い感じに眠気が襲ってきているので早く眠りにつきたいところなのだが、そこで部屋の扉が開かれて邪魔をされてしまう。
「一緒に寝ましょう♪」
「なんで」
「姉弟だからでしょうか?♪」
「答えになってないだろ…」
相変わらずこの人は。そう呆れつつもちゃんと断れないのが柊のダメなところであり良いところでもある。
「まあいいじゃないですか♪今夜は姉弟仲良く添い寝しましょう?♡」
「今夜はって、いつものことじゃねぇか…」
今のところ百五パーセントぐらいの確率で添い寝が実行されている。だからどうせ今夜もそんなことだろうと思ってはいたので、特に断らずに部屋に花音を入れる。
「じゃあ早くこっち来てくれ。今良い感じに眠いんだよ」
「あ、それはその…」
なぜかわからないが花音はさっきから顔だけをこちらに覗かせていている。まるで身体を隠すかのように。
流石に鈍い柊でも何かサプライズでもするのかなとは気づいているが、あまり時間はとりたくないので急かしていく。
「あ〜なんか今めっちゃ油断してるな〜。例えばサプライズとかされたら死ぬほど驚くだろうな〜」
「っ…!」
明らかにわざとらしい発言だ。流石の花音も気づき、諦めたように息を吐いた。
「はぁ…柊には敵いませんね」
そう言いながらようやく身体をこちらに見せてくれた。そしてその瞬間に柊の頭に雷が落ちた。
「どう、ですか…?新しく買ったんですけど…」
全身を露わにした彼女は、荒野に咲く一輪の花のように美しかった。ピンクを基調としたふわふわで暖かそうな生地に、ところどころに散りばめられている赤い花柄。少しオーバーサイズで手が萌え袖になっている姿は、柊の心をいとも簡単に射止めることができた。
「__っ!?…えっと…良い感じだと思う…」
「それだけですか…?」
「…っ」
褒め言葉が山ほど浮かんでくる。しかしそれを全部表現するには語彙力が欠けていて、咄嗟に思いついた言葉だけを並べていく。
「その色…いつもとは雰囲気が違って可愛いと思うし…。ところどころに花があるのも女の子らしくて綺麗だと思うし…。いつもよりサイズ大きめだから暖かくて包容力ありそうだし…。なんかもうすごく良いと思う」
「__!?そ、そうですか…」
普段の彼女ならこんなパジャマは選ばない。それは柊を誘惑するために身体のラインがそこそこわかりやすいものを選ぶのと、単に花音が落ち着いた柄の服を好むからだ。なのでおそらくこのパジャマは友人に選んで貰ったのだろうと察し、その人のセンスの良さに感服する。
「ああ…。こんな姉さんに似合うパジャマが存在したのか…って思うぐらい完璧だと思う」
「〜〜っ!!」
真っ赤に顔を染める花音。その珍しい光景にまた心を打たれ、ついお触りしたくなってしまう。
「なあ、触っても良いか?」
「え!!??あ、えとその…良いですよ…??」
「ありがとう」
もふもふの生地があまりにも気持ち良さそうだったからついお願いしてしまった。
でもなぜだろう?こんなに恥ずかしそうにモジモジしているのは。何か勘違いされている気がする。まあでもそれは今の柊にとって些細な事なので無視してパジャマに手を伸ばす。
「ひゃっ__!?」
「ふむふむ…これはなかなか気持ちいい素材だな」
これを抱き枕にしたらどれだけ素晴らしいだろうか。それは想像せずとも理解できた。
「よし、今日は俺の抱き枕になってもらうからな」
「ふぇ…?ほ、本当ですか…?」
「もちろん。今日はよく眠れそうだ」
「うぅ〜…」
頬に目を置いて恥ずかしがる姉を無視してベッドに連れ込んだ。




