231 あの日がやってくる
それは数日前の夕方のこと。いつもみたいに晩御飯を食べている時、沙也加が話題を口にしたことで始まった。
「そういえば、二人はクリスマスの予定はあるのかしら?」
何気ない一言。それが地獄の始まりだった。
「もし暇なら毎年みたいに家族でクリスマスパーティーをしようと思っているんだけど…」
沙也加は柊に視線を送った。なぜなら彼には恋人がいるから。恋愛の先輩からすればクリスマスにデートしないなんてあり得ないと思っているのだろう。
正直なところあまり言いたくは無かったのだが、質問されてしまったので仕方なく全てを話すことにした。
「俺は一応予定あるけど…」
「ふ〜ん?♡ちなみに誰とどこに行くの〜?♡」
「そりゃ…佳奈美と…」
「どこに行くのかしら〜?♡」
「…温泉だよ」
「きゃ〜!青春してるわね〜♡」
「うっせ」
こうなるからあまり言いたく無かったんだよな。それに多分隣の姉はご乱心だろうし。
「佳奈美ちゃんと、二人で温泉…?つまり今年のクリスマスは柊がいないということですか…?」
「そうなるな」
「…!!私はどうやって生きていけば…」
「そこまでかよ」
花音は毎年クリスマスを楽しみにしていた。いや正確には柊と過ごすクリスマスを楽しみにしていた。毎年毎年デートに誘ってきて、その度にクリスマスパーティーで我慢してもらっていた。
しかし今回はそうは行かない。デートどころか会うことすらできないなんて今までにない事だ。流石の花音もかなり困惑しているようだった。
「まあまあ落ち着きなよ。柊にはまた今度遊んで貰えばいいじゃないか」
そこで話に介入してくる父。割とナイスタイミングではあるがデートを提案するのはいかがなものかと。しかしこれはチャンスなので柊も説得に加わる事にした。
「そうだな。クリスマスの分今度どっか遊びに行こうぜ。もちろん二人で」
「(…私はクリスマスにデートしたいのに…)」
ギリ聞こえるぐらいの声量で言われてしまう。でも予定があるのを今更どうにもできないことは彼女も理解しているため、本当は嫌だという感情を抑えて頷いてくれる。
「わかりました。また今度デートしましょうか」
「ありがとう」
別に彼女でもなくただの姉なのに何でここまで気を遣わないといけないんだ。いやそれを考えても無駄か。ブラコンに意味なんて無いから。
ひとまず窮地は脱することができたわけだが、まだ嵐は通り過ぎていない。さっきから沙也加がニヤニヤしていて、こちらを揶揄うように言葉をかけてくる。
「それで?♪具体的に佳奈美ちゃんと何をするの?♡」
「それ言わないとダメ?」
「親としては言ってくれといた方が助かるな。どうせ夜も帰らないんだろ?」
親権限を最大限活用してきやがる。
仕方ないので細かいことも説明することにした。
「それは…まあ泊まりのつもりだけど…」
「きゃ〜!♡二人で長い夜を過ごすのね〜♡」
「言い方やめろ」
あまり直接的なことは言わないでほしい。すごく気まずいから。
「まあ夜とかは良いとして。ちゃんと香賀さんを守るんだぞ?」
一応父が話を変えてくれたが、その真剣な眼差しには圧倒されそうになる。しかしこちらは自分なりの決意を目と口で語るだけだ。
「それはわかってる。佳奈美は俺が死んでも守る」
「決意は良いけど…命は大事にしてくれよ?せっかく沙也加が頑張って産んでくれたんだから」
「そうよ?安全第一でお願いするわ」
「それもわかってるよ。てかそもそも命に関わるようなことはそう起こらないでほしいけどな。一応警戒はしておくけど」
「それが一番良い」
二人が楽しそうにしている写真を親に送るのが一番安心だろうか。ひとまず柊は生きて帰ることを心に誓った。
「で、その温泉に混浴はあるの〜?♡」
「ねぇよ!?」
ある。




