217 嬉しい目覚め
目覚めに感じる温かい手。自然と心が休まる。
「…柊…?」
「おはよ、姉さん」
背筋が異様に寒くて目を覚ますと、目の前で最愛の人物が心配そうにこちらを見つめていた。直後、彼の心配の正体に気付いた。
「汗…すごいですね…」
「俺が帰ってきてからずっとうなされてたよ。大丈夫か?」
「一応大丈夫…だと思います」
身体中をチェックしてみる。汗を結構かいていてかなり寒い気はするが、それ以外にこれといった問題は見当たらない。いやこの大量の汗を柊に嗅がれるかもしれないのは大問題すぎる。
咄嗟に柊と距離をとった。
「あの、私汗臭いと思うので…」
「ん?別に臭くなんてないけど。いつも通りいい匂いだぞ?」
「っ…!?」
この人はまた平気でそんなことを言う。彼のこういう態度に何度ドキッとさせられたことだろうか。
いやドキドキなんかしている場合ではない。きっとこの発言はお世辞だから実際にはかなり臭うはず。とりあえず早くシャワーを浴びないと本当に柊に嫌われてしまう。
花音は急いで立ち上がろうとするのだが、柊にガッチリ手を掴まれてしまう。
「おっと…どうしたんだよ急に」
「シャワーを浴びようかと…」
「今日は身体拭くだけでいいんじゃないか?まだ体調も治ってないだろ?」
「そういう問題ではなくてですね…」
「ん?ドユコト?」
何でわかってくれないんだろう。体調不良ながらも拗ねてしまう。
「…柊のわからずや。女の子のこと何もわかっていないですね」
「え!?そんなに!?」
「そのままだと佳奈美ちゃんに嫌われてしまいますよ?」
「マジかよ…」
柊を本気で困らせてしまったけど、わからずやなのは彼だから仕方ないよね。
そう自分に言い聞かせつつ柊の言葉を耳に入れる。
「ちなみにどういうところがいけなかったんだ…?」
「はあ…仕方ありませんね。私はお姉ちゃんですから無知な弟に教えてあげましょう」
「ありがとうございます__!」
弟の教育も姉の仕事。柊が将来苦労しないためにも女心というものを教えてあげることにした。
「いいですか?まず女の子は匂いを気にする生き物なんです。仮に少しであっても汗をかいたらほとんどの人がシャワーを浴びたいと感じます。それは気になる人や好きな人に少しでも自分のいい状態を見せたいと思うからです」
「なるほど」
「私は柊のことを愛していますからもちろん汗をかいたらシャワーを浴びたくなります。それの理由はわかりますよね?」
「はい」
「つまり私は柊に身体を拭いてもらう権利があるんです」
「うん。は???」
相変わらずいい感じの反応を見せてくれた。
「いや理解不能なんだけど。どうしてそうなる?」
「柊の言う通り私はまだ体調が良くないのでお風呂に行くのは良くありません。でも身体は綺麗にしておかないといけません。つまり私は柊に身体を拭いてもらう以外ないんです」
「?????」
柊の頭に疑問符がたくさん浮かび上がっている。でも多分彼なら受け入れてくれる。
「母さんにしてもらったら良くない?」
「…はぁ、何もわかってないですね」
我ながら教育に失敗してしまっている気がする。流石に呆れてしまう。
「いいですか?身体を拭いてもらうというのは極めて親密でないと発生しない珍しいイベントなんです。そういうものを楽しみたいと思うのは女の子として当たり前のことなんですよ?」
「なるほどわからん」
「ちなみにこれは柊にもメリットがあるんです」
「ふむ」
「私の裸を触り放題です!!」
「タオル持って来るから自分で頼む」
「もっと素直になればいいのに」
柊が女の子の身体に興味があるのは知っている。一緒にお風呂に入る時も胸やお尻の辺りをチラチラみてくるし、恋人とは毎晩のようにイチャイチャしているみたいだし。だから姉とはいえ絶好のチャンスだから素直に乗ってくれればいいのに。こちらも満更でもないし。
でもそこで素直になれないのが我が弟であり、とても愛おしい部分だ。まあ結局欲に負けて自分の手にタオルを持ちそうな気はするけど。
「はぁ…仕方ねぇな。とりあえず服脱いで待ってな。タオル取って来る」
「え???」
まさか本当にこうなるとは思わなかった花音であった。




