205 キスマークは突然に
ガラガラッ__!
教室の扉が勢いよく開かれる。
「はあ…はあ…おはようございます…」
「おはようございます…」
二人仲良く遅刻して来たのは、最近学内で話題のカップルだった。片方はあまりパッとしない普通の男だが、もう片方は普通では無い。
アイドルのように整った顔立ちに、モデル顔負けの長い四肢。雪のように綺麗な銀色の髪は急いでいたせいかいつもより少し乱れているが、それも彼女の魅力を引き立てている。
「珍しいですね…二人揃って遅刻なんて…」
「あはは…色々ありまして…」
そこで教師に話しかけられる。しかし想像よりも彼女は怒っておらず、むしろ二人を落ち着けるように優しい声をかけてきた。
「まあ良いでしょう。とりあえず息を整えながら席に着いてください。授業を続けます」
「わかりました…」
そこで二人は教師に背を向けた。だがその判断は間違いだった。
「ちょっと待ってください…!?」
「え、あ、はい」
「二人とも…今日はどうして遅刻したのですか…???」
突然彼女は怒っているような迷っているような目を向けてきた。
しかしその意図が分からず、柊はとりあえず適当に誤魔化すことにした。
「えと…俺が寝坊してしまって…。待っててくれた佳奈美も遅れちゃった感じです…」
とりあえず佳奈美のせいでは無いことにしておきつつ、事実をしっかり隠しておいた。
だがしかしそんな嘘は通用しないと言わんばかりの視線を向けられてしまう。
「本当ですかねえ…?」
「…っ」
「まあ良いです。とりあえず早く授業を再開しましょう」
なぜ彼女に嘘がバレたのか分からないが、とりあえずこの場は見逃してくれるようだ。
「あ、でも二人とも後で職員室に来てくだ__いややっぱり生徒指導室に来てください。話があります」
「!!??」
「わ、わかりました…」
まさか遅刻だけでこんなにも大事になるとは。しかし一応佳奈美のことは庇っておいたので怒られるのは自分だけで済むだろう。
(とりあえず反省文ぐらいは覚悟しとくか…)
たかが一回の遅刻でそんなの面倒だが、佳奈美を守るためだと思えば別に苦労はない。
そんなことを考えつつ柊は席に着いて授業を聞き始めたわけだが、なぜかいつになってもみんながこちらの方を向いている。
(なんかめっちゃ見られてる…!?何でだ!?授業に集中しろよ!?)
前で先生が説明しているのにみんな無視してこっちを見て来ている。理由はよく分からないが、首の辺りをよく見られている気がする。
「はい皆さん!ちゃんと前を向いて授業を受けてください!」
そこで視線に気づいた教師が助けてくれた。まあ普通に授業を聞きてほしかっただけかもしれないが。
どちらにしろ柊からすれば助けられたことになるので心の中でひっそりお礼を言っておく。
(助かった…。なんかありがとうございます…!後で怒られるらしいけど!!)
しかしあれだな。やけに首が痒いな。内出血でもしてるんだろうか?
(ん、あれ…なんか絆創膏があるな…?)
首を掻いてみようとしたが、絆創膏があるせいで上手く掻けない。
だが柊はそこまで鈍感ではないため、そこで背筋が冷えるような感覚を味わった。
(あ、そういえば…)
佳奈美の方を見てみる。彼女も首筋に絆創膏が貼られていて、その部分をひっそり掻いている。
それで全てを思い出し、皆んなや教師から向けられた視線の正体に気付いた。
(…俺、無事で帰れるかな…)
首筋には絆創膏なんて明らかにキスマークだ。つまりこの二人がそういう行為をしていることが公になったということだ。
すなわち学内のアイドルを独占していることが発覚し、特に男子からボコボコにされる可能性が出てきてしまった。流石の柊でも複数人とか不意打ちとかはかなり厳しい。
つまり簡単に言うと夜道に気をつけろというわけだが、ここで簡単に死ぬわけにはいかない。
(とりあえず佳奈美だけでも守らないとな…)
仮に自分の命燃え尽きようとも、佳奈美のことだけは守ってみせる。
そう考えつつ退屈な授業を乗り切るのだった。




