202 最愛でありたい
ひとまず花音との二日間に及ぶデートを乗り越えることが出来た。とても心に疲労が溜まる地獄のような二日間だった。
しかし絶望はまだ終わっていなくて、今現在柊は佳奈美の部屋で正座をさせられていた。
「あの…」
「何???」
「いつまで正座をすれば…」
「さあ??君が良いと思った時にやめたらいいんじゃない??」
「……」
こんな感じで佳奈美は非常に怒っている。
その理由は簡単で、この前花音とのデートで佳奈美と出くわした時に花音のことを選んでしまったからだ。
つまり恋人の自分よりも姉を優先されたことに腹を立てて今日呼び出しを食らったというわけだ。女の子の嫉妬というものは恐ろしい。いやそんなことを考えている場合ではない。とりあえず死ぬ気で謝らないと。
「その…ごめん」
「何が?」
「あの時姉さんを優先してしまって…」
心がじんわりと冷えてくる。そしてこれはいつも以上にマズイかもしれないことに気付く。
「そうだよね??私より花音さんを優先したよね??」
「はい…」
ゴミを見るような目を向けられてしまう。こんな彼女は前世で浮気を疑われた時以来だ。
つまり今回も浮気を疑われているということだろうか?いや普通に考えたら姉と浮気などあり得ないことなのだが、この姉弟は割と例外なので否定できない。簡単に言うと浮気を疑われても仕方ないということだ。
だがしかし柊は全くそんなつもりはないため何とか言葉で佳奈美に説明をする。
「でもあの時はミスコンのご褒美で姉さんとデートする約束があって…。俺にとって姉さんはこっちで一番俺のことを支えてくれた恩人だから…蔑ろにはしたくなくて…」
花音はずっと柊のことを見てくれていた。悪い夢を見て泣き焦がれた朝も、待ち人が現れなくて絶望した夜も、そばに居てくれたのは花音だった。柊にとって花音はずっと心を支えてくれた恩人であり、大切なたった一人の姉なのだ。
前世で妻に『優しい』と評された柊がそんな姉を蔑ろにする事など出来るはずがない。それは多分佳奈美も理解してくれている。
「そうだね。柊は優しいから花音さんも大切にするよね。それはわかってる」
しかし佳奈美にだって許せないものはある。誰しも譲れない想いの一つや二つは抱えているもの。そのうちの一つに柊は触れてしまったらしい。
「でも、私は常に柊の一番でありたい。ほんの一瞬でも他の誰かに一番を渡したくない。そう思ってるの」
「ああ…」
前世からの経験だが、彼女は結構独占欲が強い。そうでないとここまで姉に嫉妬したりしないだろう?いや柊と花音が仲良すぎるのも悪いが。
いずれにしろ佳奈美は最愛の人の一番であり続けることを望んでいて、その想いを柊にぶつける。
「柊が花音さんに感謝していてとても大切にしているのもわかる。でもね、私は__!!」
胸に手を当てて自身の心の叫びを語った。
「貴方の全てになりたいの!!」
「!!!」
柊の全て。言葉に言い換えるのなら、柊の脳内は全て佳奈美で埋め尽くして欲しいということだ。
しかしそれはほぼ不可能。常に彼女のことを考え続けるなんていくら何でも無理がある。
だったら彼女が望んでいるのは多分__
「柊が疲れた時、辛い時、悲しい時に頭にパッと浮かんできて、自然と笑顔になれるような、希望の光みたいな人に、私はなりたいの…!」
全てを独占したいとまでは言わない。でも心の疲れを癒せるような、痛みを分かち合えるような、光のような存在になりたい。
そういう彼女の意思が心を伝ってくる。しかし柊にはあまり響かなかった。なぜなら佳奈美はすでに彼のそういう存在になれていたからだ。
「ありがとう。やっぱり俺には佳奈美しかいない」
「うん…♡君の頭を私のことでいっぱいにしてあげるね…♡」
もういっぱいになってる。なんてことは口にせず、いい感じなので彼女を抱きしめて二人きりの時間を楽しむことにした。




