200 最愛のあなた
私は彼の全てを知っている。
美味しい食べ物をたくさん食べるのが大好きなこととか、毎朝挨拶を交わせることに幸福を感じているいることも。
普段素っ気無いけどちゃんと家族を愛しているところも、私はちゃんと知っている。
そして最近新しく彼について知ったことがある。それは彼の恋人、佳奈美ちゃんを家族として見ているということ。
「………」
胸の中でぐっすり眠る可愛い弟。普段はあんなに格好いいのに、油断した時はすぐに子供みたいな顔をする。
そんな全く姉離れ出来ない柊を見ていると、つい母性を感じてしまう。いや、最近は私が産んだのではと感じ始めています!
まあそんな冗談は一旦置いておきましょうか。こうやって甘えてくれている間だけでも、彼の温もりをしっかり堪能しておきましょうか。
「………」
小さくて優しい吐息が、パジャマ越しに心臓に伝わる。それを感じるだけで胸がいっぱいになって、これ以上ない幸せを味わえる。
でもそれが出来るのは多分今だけ。将来はきっと佳奈美ちゃんと結婚して、家を出て行ってしまう。それが柊にとって一番幸せなことであるのは、普段の佳奈美ちゃんへの視線を見れば簡単に理解できる。
しかし最近、二人のことで疑問に思うことがある。それはあまりにも夫婦として完成し過ぎているという点。二人とも初めての恋人だから恋愛に慣れてなくて色々苦労したり胸を躍らせたりするもののはず。ではあの二人はどうだろう?今思い出してみると、明らかに慣れている。
そう、普通ならドキドキしたり戸惑ったりする場面でも落ち着いて行動しているんです!!そんなの二人の性格からしてあり得ないはずなんです!!
例えば前世で結婚していて、その記憶を持って転生したとしか思えないぐらいに二人は夫婦として完成されている。
(もしかして柊…小さい頃から演技を…?)
思い返してみれば、確かにおかしいなと感じる場面はあった。
まだ文字の書き方すら知らない年齢なのに普通に絵本を一人で読んでいたりとか、親ですら知らない四字熟語を言っていたりとか。
そしてまだ性欲という概念すら知らない年なのに母の胸をことなく愛していたり!!羨ましいです!!
ようやく腑に落ちた。柊がなぜ時々年齢に見合わない行動を見せるのか。きっと彼の中には彼とは違う誰かの記憶が宿っていて、その記憶をもとに行動している。そしてそれは、佳奈美ちゃんも似たようなもの。
(なるほど…だから二人はここまで…)
前世で長い間夫婦をしてました。そう言ってくれた方が納得できるぐらい二人の関係は親密になっている。それこそ普通のカップルではあり得ない速度で。
これは完全に推測になってしまうけど、二人は最近になってようやく前世の夫婦であったことに気付いたのかもしれない。いや、そうでないとこの進展の速さは説明がつかない。
(…でも、私は訊いたりはしません。きっと二人にも事情があるんですよね。柊が話したいと思えるその日まで、私はずっと待ち続けますね)
私から見れば、柊はまだまだ子供です。だってそうでもないと、姉の胸の中でこんな無防備に眠ったりしませんよね?
彼がどんな人生を歩んできて、どんな経験をしてきたのかはわかりません。もちろん、彼と関わってきた人も全く知りません。
ですが彼の信頼できる数少ない人の中に、いつか私が入れることを祈ります。その日には私とあなたで今までの辛かったことや楽しかったこと、あるいは幸せだった日々を、共に語り合いましょう。
最愛の柊。おやすみなさい。




