心願成就(後編)~人に優しく
僕は「エースマン・バッジ」が欲しくてたまらなかった。
エースマンはキング星から宇宙の平和を守る為にやって来た超人だ。地球自衛軍の隊員、ゲンタ隊員がエースマンに変身して、町を襲う怪獣と戦い、地球を守っている。
「エースマン・バッジ」は「エースマン・スナック」というお菓子の付録、エースマン・カードの中のスペシャル・カードが当たると交換できる地球自衛軍のピンバッジだ。
地球自衛軍の隊員の胸に輝く地球自衛軍のバッジは子供たちの憧れの的だ。友だちは皆、「エースマン・バッジ」を持っているけど、僕はまだ持っていない。
何度も「エースマン・スナック」を買ったけど、スペシャル・カードは当たらなかった。友だちの中には二つ、「エースマン・バッジ」を持っている子がいる。友だちの胸でキラキラと輝く「エースマン・バッジ」を見ていると、僕だけバッジが当たらないことが悔しくて、悔しくて仕方がなかった。
――お願いポストに頼んでみれば良い。
友だちにそう言われた。
お願いポストの噂は聞いていた。駅前の寂れた商店街の路地裏に古い、古いポストがあって、願いごとを書いた手紙を投函すれば、願いを叶えてくれる。だけど、願いを叶えてもらう代わりに、自分が一番、大切にしているものを差し出さなければならない。そんな噂だった。
――僕が大切にしているものって何だろう?
と考えてみた。エースマン消しゴムが今の僕の一番の宝物だ。だけど、そんなもので願いを叶えてもらえるのだろうか? お金なんて、僕は持っていない。他に大事にしているもの? 自転車かもしれない。でも、自転車が無くなるのは困る。
何も思いつかなかった。
取り敢えず手紙を書いてみることにした。
お願いポスト様。
エースマン・スナックを買ってもスペシャル・カードが当たりません。友だちはみんな、エースマン・バッジを持っているのに、僕だけ持っていません。友だちが羨ましいです。僕にもエースマン・バッジをください。
代わりに差し上げることができるものがありません。良いことをします。人に優しくします。それではダメでしょうか?
放課後、僕は商店街を駆けた。
一気にお願いポストがある路地裏まで駆けると、手紙を投函した。そして、ポストに向かって一礼して、そのまま走り去った。
翌日、放課後に僕らは公園で野球をして遊んでいた。
友だちの打ったボールが大きく逸れて周りの草むらに飛び込んだ。僕はボールを追って、草むらに分け入った。
ボールを探していると、赤い紙のようなものが目に入った。
――なんだろう?
と手に取ると泥だらけの財布だった。お金は入っていなかった。カードが何枚かと運転免許証、それに写真が一枚、折り畳んで入っていた。
――どうしよう?
と思った。ボールを見つけて公園に戻る。友だちに「財布を拾った」と伝えると、「どれ?」と集まって来た。
「どうするの?」と聞かれたので、「今から交番に持って行ってくる」と答えた。
お願いポストと約束した。良いことをすると。
「じゃあね~」と僕は友だちに別れを告げると、交番へ向かった。
途中、おじいさんが歩いていた。ふらふらと歩いている。よく見ると、着ている服がパジャマのように見えた。
「おじいさん。大丈夫?」と声をかけると、「おおっ! タカシか」と聞かれた。
「ううん。僕、タカシって名前じゃないよ」
「そうかぁ~タカシじゃないのか」
「どうしたの?」と聞くと、「私はなんでここにいるのだ?」と聞かれた。
様子がおかしい。お願いポストと約束した。人に優しくすると。
「おじいさん。僕と一緒に交番に行きましょう」
「うん」
僕はおじいさんを交番に連れて行った。
お巡りさんに、財布を拾ったこと、おじいさんがふらふらと歩いていたので連れて来たことを伝えると、「君。偉いね~」と言われた。
お巡りさんが財布の中味を確認した。
最初からお金は入っていなかった。僕が取ったのではないかと疑われたら、どうしようとドキドキしたが、何も言われなかった。
財布は持ち主に返しておくよとお巡りさんが言っていた。
おじいさんは自分の名前を覚えていた。家族と連絡がついて、迎えに来てくれると言うことだった。
後で警察から感謝状が贈られるかもしれないから、住所と名前を聞かれた。良かった。良いことができた。人に優しく出来た。
「心願成就だね」とお巡りさんに言われたような気がした。
「何?」と聞き返すと、「何も言っていないよ」とお巡りさんが答えた。
翌朝、目が覚めると、制服の胸に「エースマン・バッジ」が刺さっていた。
警察から連絡があった。
満員電車で掏られた財布が見つかったと言う。子供が公園近くの藪の中で拾って届けてくれたそうだ。生憎、お金を抜き取られていたようだが、カードや運転免許証は残っていた。
財布を引き取りに交番に行った。
泥だらけになった財布を渡してくれる時、お巡りさんが申し訳なさそうに言った。
「子供が財布を持って来た時、写真が一枚、入っていたはずなのですが、今、見ると見当たらないのです」
「ああ~」私はにっこりとほほ笑んで言った。
――写真はもう戻って来ましたので大丈夫です。
財布を拾ってくれたお子さんに、何かお礼をしなくては。




