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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
不思議な話・その五
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クロカスガ

 世の中には、自分とそっくりな人間が三人いると言う。

 中学生の頃、自分にそっくりな同級生がいた。目が細く、凹凸の少ない顔がそっくりな上、背丈も同じくらいだった。だけど、似ているのは顔と背格好だけで、性格はまるで違った。

 僕は真面目で大人しい性格、そいつは典型的な悪ガキだった。先生に見つからないように、同級生を虐めたり、女子生徒のスカートをめくったり、テストではカンニングをして成績を上げているという噂だった。

 僕がカスガという名前なので、みな、彼のこと、「クロカスガ」と呼んでいた。嫌な奴なので、彼の名前を呼びたくなかったのだろうが、僕の名前を使われるのは迷惑だった。

 もっと迷惑だったのは、彼が僕の振りをすることだ。人が僕と見間違うように、わざと振舞うのだ。

「カスガ~! 廊下は走るなよ」と先生に怒られたことがあった。

 僕は廊下を走ってなんかいない。きっとクロカスガの仕業だ。

「カスガ君。私のバッグを勝手に開けてみないでよ!」とクラスの女子に文句を言われたこともあった。僕はそんなことしない。

「カスガ! お前に貸した漫画、返してくれよ」と親しくも無い同級生から言われたこともあった。親しくも無い同級生から漫画を借りて読んだりしない。

「それは彼の仕業だよ」と弁解するのだが、なんだか彼に罪を擦り付けているような気がして、妙な気分になった。

 こうして、中学時代、僕はクロカスガに苦しめられた。

 幸い、彼は学校の成績が良くなくて、僕と同じ高校に進学することができなかった。僕は高校生になって、彼がいないことにほっとした。



 同窓会の招待状が来た。

 中学校の同窓会は十年振りだ。懐かしい。出席することにした。

 ふと、クロカスガのことが頭に浮かんだが、直ぐに忘れてしまった。嫌な思い出ではあったが、僕の中では、それほど強烈な思い出ではなかったようだ。

 会場に着く。

 懐かしい顔があった。

「よう、カスガ。久しぶり」と声をかけて来た同級生の中には、名前を思い出せないものがいた。好きだった初恋の彼女もいた。相変わらず可愛らしいし、まだ独身らしい。ときめいた。

 同級生たちで会場がいっぱいになった。

 宴もたけなわ、場が少々、乱れ始めた時、「カスガ君。久しぶり」と一人の男が声をかけて来た。


――誰だ?


 名前が思い出せなかった。

「俺、クロカスガだよ」と男が言った。

「クロカスガ?」

「君の友だちから、そう呼ばれていたことは知っているよ」

 あのクロカスガだ。中学生の頃は、僕に瓜二つだったのに、似ていない。高校に入って身長が伸びなかったようで、僕より随分、小柄だった。顔も、今の僕は面長だが、彼は丸顔のままだ。伸ばした無精髭が汚らしく見える。

 子供の頃にそっくりだったからと言って、大人になっても似ているとは限らないようだ。

「ああ、懐かしいね」


――お前のせいで学生時代、散々な目に遭ったよ。


 という言葉を飲み込んだ。

 ところが、彼は、意外なことを言った。

「中学の時は、散々、悪いことをしたけど、もとはと言えば君が悪いんだよ」

「僕が――⁉」


――冗談じゃない。


 と思った。迷惑を被ったのは僕の方だ。

「ナカイ商店、覚えている?」と彼が言う。

 ナカイ商店は近所にあった駄菓子屋で、学校の帰りに買い食いをする子供たちで毎日、盛況だった。

「覚えているよ」

「あそこで万引きしただろう?」

「万引き?」

 記憶にない。いや、待てよ。思い出した。うちは裕福でなかったので、お小遣いが足りなかった。ナカイ商店で万引きをしたことがあったかもしれない。そうだ。あった。店長のオヤジが忙しそうで、お金を払い損ねたことがきっかけだった。それから何度かお菓子やソフビを万引きした。

 そして、店長の目が気になり始めた頃、同級生の子が万引きで捕まったと聞いて、怖くなって、ナカイ商店に行くのを止めたのだった。

「ナカイ商店で僕、万引きで捕まったんだ。僕、万引きなんてやったこと、なかったのに。店主のオヤジにそう言ったんだけど、『お前だった。間違いない。顔を覚えている』と言って、聞いてくれなかった。親を呼ばれて、散々、怒られた。僕が悪さをし始めたのは、そのことがあったからだ。あれ、君だろう。僕ら、中学の時、そっくりだったから、ナカイのオヤジ、間違えたんだと思う」

 クロカスガが言った。

 僕は返事が出来なかった。僕がクロカスガをつくってしまったのだ。いや、僕自信がクロカスガだったのだ。

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