「野球ボール」
パトカーから降りてきた男は神田正行。
隼人の父親だ。
「それにしても災難だな、まさかひと月に二回もホトケに会うなんてかあーついてないねえ。」
「そうですね。」
・・・体がさっきから重い。
なんでだろう。
「あとは本職に任せな。第一発見者は・・・。」
「・・・俺です。」
「・・・えっ。」
拍子抜けた顔をしている。
まあ、無理もない。
通常、人が事件に会う確率なんて多くても小数点以下だろう。
しかも、第一発見者としてなんて・・・。
「慎也?。」
「ああ、アレクシアどうしたの?。」
「いえ、なんか知り合いみたいだから。」
「おっと、紹介が遅れたね。刑事の神田正行だ。息子から話は聞いているよ。フランスの統合戦技生だって。」
「いえ、ドイツから来ました。アレクシア・ヴュルツナーと言います。」
「これは失礼。さて、どうしたものかな。まさかこんなことになるなんてね。二人はこの辺りで不審な人影は見たか?。」
「見ていません。付近を見回しましたが誰もいませんでした。」
「そうか・・・犯行から見てシルバーバレットではないな。新手か・・・こいつは手厳しいな。」
「・・・シルバーバレット?。」
「ああ、まだこの辺にもいるかもしれないからね。それに、今日はまだ誰も死んでない。まあ、あれが何のために殺し歩いてるかわからないけどな。」
「・・・・・。」
「誰一人も?。」
「ああ、そうだ。」
・・・シルバーバレットか。
確かに辺りには人がいなかったし、音も黒い砲丸?が地面にめり込んだ時に発生しただけで実際には無音だ。
しかし、そうだとしてもシルバーバレットの名前が出てくることはまずない。
シルバーバレットは人を殺す際純銀の弾を放つ。
けど・・・これは。
「投げたのか・・・。」
「えっ、慎也今なんて?。」
「いや、その・・・犯人はあれを投げたんじゃないのかな?。」
「何言ってんの、無理よそんなのふつうじゃ・・・。」
アレクシアの顔をが急に曇った。
「ふつうじゃない・・・犯人は・・・。だとすると・・・誰?。」
「アレクシア?。アレクシア?。」
「うん、そうよね。」
「・・・アレクシア?。」
「大丈夫よ。」
「本当に?。」
「ええ。」
「神田さん、ちょっと。」
「ああ、わかった。それじゃあ慎也また後で。お疲れのようだが事情聴取がある。なに早く終わるさ。それよりもさっきからふらふらしているが大丈夫か?。」
「はい。」
「神田さん、彼には気付け薬を飲ませています。その作用でしょう。」
「飲ませたのか、彼に?。」
「はい、刺激が強すぎます。着任初日にこれではあとあと治すのが大変なのでC型を投与しました。」
「そうか、それだと今夜事情聴取をするのは無理そうだ。日を改めてになるな。」
「はい、すみません。」
「いや、そんなことはない。良い判断だ。あれは私でもキツイからね。今回のは特に。それじゃあ、君も明日頼むよ。」
「私は今からでも・・・。」
「そういうわけにはいかない。慎也を家まで頼むよ。それでは、彼が呼んでいるのでね。お休み。」
「おやすみなさい。」
「はい、では明日。」
アレクシアに支えられながら家に帰った。
頭は冴えているのに、体が重い。
申し訳ないと思う。
そのあと、俺は紗奈から叱責を受け、なんとかご飯をもらい、風呂に入って寝た。
なんか疲れたな。
・・・いい夢が見れそうだ。
「・・・問題なしか。」
やっと落ち着ける。
なんとか彼を正常のままにできている。
症状がひどくなるとカウンセリングを受けさせる必要がある。
もしくは催眠暗示をかけるかだ。
カウンセリングはともかく暗示は避けたい。
いっそ見せてしまった方がよかったのだろうか。
心のキズを癒すのは容易なことではない。
しかし、こういうことが起きるたび薬を投与するのは合理的ではない。
彼の心をどうにかして強くしなければならない。
薬を使うことで、ストレスから逃げられると思ってしまわれるのは困る。
なんにせよ安堵はできない。
事情聴取が終わったあと彼を何処かに連れていった方がよさそうだ。
「アレクシアさん?。」
「ん?どうかしたか?。」
「うん、何か考え事をしているみたいだから。」
「そうか。」
「うん、どうしたの?バカ兄貴がなんかした。」
「いや、慎也のことではないのだが。」
「それじゃあ、恋のお悩み?。」
この時期の女子は恋にあこがれを持つというか恋バナが大好きだ。
ドイツでもこの年ごろの女子はそういう話をしている。
やれ子供っぽいとか、大人っぽいとか、性的だとかそんなのばっかだ。
ただでさえ、男性が少ないのにその中から一番を選んでは取り合っている。
何をしているのか・・・。
自分が好きな人が一番に決まっているだろとは言ったのだがそういうとあんた彼氏いないじゃん、行き遅れるよ。
白馬の王子さまなんていつの時代?今は、女性から攻める時代だよ。
とか、彼氏の自慢とか逆に返される始末だ。
文句を言うわりには彼氏のことが大好きで仕方のないようだ。
セリアも学校にくる途中のヘリコプターの中で、日本にはいい男性がいるかなあ、愛してくれるかなとすごく惚けた顔をしていた。
・・・私にもできるかな。
さすがに一人ぼっちは寂しいが、自分が好きだと思う人じゃなきゃダメだ。
「違うよ。ねえ、紗奈ちゃんは慎也との思い出の場所ってある?。」
紗奈はびっくりしたのか目を丸くしている。
すると。
「あるよ。水族館。そこに行けばいいと思うよ。」
そう、恥ずかしながら紗奈ちゃんは言ってきた。
瞳の奥には期待の目がある。
私だって女の子だ。
隠し事があることくらいすぐに見破れる。
しかし、何に対しての期待なのだろうか。
「どこにあるの?。」
私はそう聞く。
そう、彼を失わないようにするために。
紗奈ちゃんからお兄ちゃんを失くさないようにするために・・・。
・・・・・。
・・・・・。
部下からの呼び出しでその場に来た。
慎也とドイツの嬢ちゃんはもう帰ったのだろう。
後ろ姿は見えない。
彼女たちと一緒にいた男性も警察への引継ぎが終わったので帰って行った。
「それで、どうしたんだ。」
「それが、このホトケさん防衛省の人なんですよ。」
「何?。」
「ええ、間違いありません。それに・・・。」
「まだあるのか?。」
「はい。今さっき連絡があってこのホトケと同じような事件が起きたと・・・。」
「まさか、同一人物ではないな。」
「・・・・・。」
「同一人物なのか?。」
「断言できませんがおそらくは・・・。」
「場所は?。」
「立川です。」
「・・・噓だろ。」
「いいえ、事実です。」
「しかしだ。その場合犯人はどうやって?。」
「立川でも周りには誰もおらず、何かを叩きつけたような大きな音が聞こえただけだと言っています。ホトケの身元は現在捜査中とのことです。しかし・・・おそらくは。」
「そうか・・・投げたのか。」
「なんですか?まさかこの玉を無理ですよ。」
「見せてくれないか?。」
「あっはい。今、鑑識が・・・。」
「これかね?。」
「はい、そうですですが・・・どうされました?。」
「野球ボールみたいだ。」
「・・・野球ボール。噓だ、そんなことは。」
「投げたんだろうよ・・・こういうことができるのはアレくらいだろ。」
「・・・すぐに特科に。」
「遅いかもしれないな・・・。」
ピーピー;
携帯電話のコールが鳴り響く。
部下は「なんだよこんな時に!。」っと荒っぽく受話器を取る。
すると、すぐに。
「神田さん!。」
「どうした?。」
「「「防衛省が攻撃を受けました。」」」
・・・今夜も徹夜だな。
そう神田正行は思った。




