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第61話「極秘のトルネード・ツイストと、時給1180円のケバブ屋稼業」

 防衛省の敷地内。

 先日の「超巨大結石・落下事件」によって見事に全壊したメイン庁舎の代わりに、空き地にポツンと建てられた【プレハブ仮設司令室】の中で、炎城司令官はパイプ椅子に座りながら吠えていた。

「ぬぉぉぉ……! 全方位だ!! アースディフェンダーには、敵の群れに囲まれた時の【360度の死角なき攻防】が欠けている!!」

 炎城が、ホームセンターで買ってきた折りたたみ机をバンバンと叩く。

「Gキャノンは前方の敵には強いが、背後や側面からの奇襲には対応が遅れる! スーパーロボットたるもの、自らが独楽コマのように回転し、全方位の敵を弾き飛ばす『竜巻トルネードアタック』が必要なのだ!」

 氷室査察官が、プレハブの隙間風に震えながら、ひび割れたタブレットを無表情でスワイプする。

「50トンの機体の上半身を高速回転させる大型旋回モーターなど、現在の【予算ゼロ(実質マイナス)】の我が防衛省には逆立ちしても買えません。機体にフラフープでも巻き付けておきますか?」

「馬鹿者! 回転とは己の軸! パイロットの魂のひねりで、竜巻を起こすのだ!!」

 インカムから、鈴木の掠れきった、もはや呪いのような声が響いた。

『……あの。俺、今は【バランスボール】の上で前傾姿勢を取りながら、【引き足でペダル】と【かかとでブラストビート】を踏み、【両手で150キロのグリッパー】を握り、【肩でパイルバンカーのシュラッグ】をして、【脇をパタパタ】させ、【口でゴム骨を咀嚼】して、【首に20キロのヘルメット】を被って索敵してるんですよ。これ以上、体をどう捻れって言うんですか。俺の背骨はドリルじゃないんですよ……』

「それだ鈴木ィ! ドリルだ!! おとこの軸は、強靭な腹斜筋ふくしゃきんで回すものだぁぁっ!」

 一方その頃。

 秋葉原の電気街の片隅に停まった移動販売車の前で、トルコ風の帽子とエプロンを身につけた青年――巨大未確認生物3シルバーガイが、巨大な肉の塊を長い包丁で削ぎ落としていた。

(時給1,180円の『ドネルケバブ屋の店員バイト』! 肉の焼けるいい匂いがたまらないし、まかないでケバブサンドが食える最高の職場だぜ)

 彼が「オイシイヨ! アニキ寄ッテッテ!」と客引きをしていると、販売車の裏手から、白衣の天才科学者ハカセイダーが音もなく現れた。その手には、店からくすねたばかりの【ケバブ肉を回転させる巨大な鉄の串とモーター台座】が握られていた。

「ハカセイダー! お前また勝手に店の商売道具を! しかもまだ肉がちょっと付いてるぞ!」

「フフフ。シルバァ、アースディフェンダーの次なる進化は【超高速旋回トルネード・ツイスト】だ。あのポンコツの腰のジョイントをぶった斬り、このケバブの回転軸を組み込む!」

「上半身と下半身をケバブの串で繋ぐのか!?」

「そうだ! パイロットがバランスボールの上で、腰を左右に猛烈に捻る運動……いわゆる【ロシアン・ツイスト】を行えば、その腹斜筋の運動エネルギーがダイレクトに回転軸に伝わり、機体の上半身が独楽のように360度大回転するのだ!」

 その夜、二人の宇宙人は屋外演習場へ侵入。

 アースディフェンダーの腰部分を強引に切断し、ケバブの回転軸とベアリングをガムテープで固定。コクピットの鈴木の腰には、ツイスト運動の力を逃がさないためのガチガチのコルセットが装着されたのである。

 翌日。

『緊急事態発生です!』

 佐藤が、プレハブの窓から外を眺めながら報告した。

『幕張メッセ周辺に、巨大未確認生物43号が出現! 全長40メートルの【宇宙アルマジロ】です! 奴は体を丸めて巨大な球体となり、マッハの速度で回転しながらビルを削り取っています!』

「出たな回転獣め! 出撃だ鈴木ィ!」

 幕張・新都心。

 宇宙アルマジロ(43号)が「ギュイィィィィンッ!」と丸鋸のように回転しながらアスファルトを削り、猛スピードで暴れ回っていた。

 そこへ、ズシンッ、ズシンッという重い二足歩行の足音と、極太の有線ケーブルがアスファルトを「ズリズリズリッ……」と擦る鈍い音と共に、Gキャノンが到着する。その後方には、相変わらず国交省の電源車がピタリと追従していた。

『――ふん。回転していようが関係ない。トヨハタのフルパワー・ビームで消し炭にしてやる』

 コマンドカーの中の神崎流星が、タブレットをタップした。

 ズドバァァァァァンッ!!

 Gキャノンの両肩からビームが放たれるが、マッハで回転する43号の丸い装甲に当たった瞬間、ビームは「ギュンッ!」と明後日の方向へと弾き飛ばされてしまった。

『な……!? 超高速の回転が、光学兵器のエネルギーを物理的に逸らしているだと!?』

 驚愕する神崎。その隙を突き、43号がGキャノンに向けてマッハの速度で体当たりを敢行した。

『ズガァァァァンッ!!』

 凄まじい衝撃に、50トンのGキャノンが吹き飛ばされ、あろうことか自らの【電源ケーブル】にグルグル巻きになって転倒してしまった!

『チッ……! AIの姿勢制御が効かん! ケーブルが絡まって起き上がれない!』

 もがくGキャノンに向け、43号がトドメの回転アタックに入ろうとする。

 そこへ、「ギゴ……ギゴ……」と鈍い音を立ててアースディフェンダーが到着した。

「神崎! ケーブルを解くまで持ちこたえろ!」

 鈴木がゴム骨を噛みながらシュノーケル越しに叫ぶ。

『来るなポンコツ! あの回転ノコギリに触れたら、お前のガムテープ装甲なんて一瞬でミンチだぞ!』

 その時、鈴木の腰にガッチリと巻かれた【見慣れぬコルセット】の裏側に貼られたメモが目に入った。

『パイロットの同志へ。腰を捻れ。極限まで左へ、そして右へ。君の腹斜筋のねじれが、全てを弾き返す鋼の竜巻となる。――名もなき宇宙の友人より』

「……またか! 今度は腹斜筋(わき腹の筋肉)の破壊かぁぁぁっ!!」

 鈴木は絶望の涙を流しながら、悪魔のマルチタスクに新たな地獄を追加した。

 バランスボールの上で【前傾姿勢】、足で【プッシュ&プル】、かかとで【ブラストビート】、両手で【150kgグリッパー】、肩で【パイルバンカーのシュラッグ】、脇で【パタパタ】、口で【咀嚼&呼吸】、首で【索敵】をしながら……!!

 ついに、腰を軸にして上半身を「グンッ! グンッ!」と左右に猛烈な勢いで捻り始めたのである!!

「(わき腹が! 腹斜筋が! 腸骨の付け根が引きちぎれるぅぅぅぅっ!!)」

 鈴木が「フンッ! ハッ!」と全力でロシアン・ツイストを行うたび、そのエネルギーが腰のケバブ回転軸に伝達。

 すると、アースディフェンダーの上半身(腰から上)だけが、下半身を固定したまま「ギュルルルルルルッ!!」と独楽のように360度の超高速回転を始めたのだ!

「いっけぇぇぇぇっ!! 超高速トルネード・ツイストだぁぁぁっ!!」

 マッハで突進してくる宇宙アルマジロ(43号)に対し、同じく超高速で上半身を回転させたアースディフェンダーが正面から激突した!

『ガギギギギギギギギギッ!!!!』

 凄まじい金属音と火花が散る。右回転と左回転の強烈な反発力! ベイブレードさながらの激しい削り合い!

 しかし、宇宙アルマジロの遠心力に対し、鈴木の「無限に捻り続ける腹斜筋のトルク」が完全に上回った。

 回転軸の摩擦熱(ケバブの匂い)を漂わせながら、アースディフェンダーの竜巻が、アルマジロの回転を強制的にストップさせたのである!

『ギャウゥゥッ!?』

 回転を止められ、無防備な姿を晒して目を回す43号。

「(今だぁぁぁっ!!)」

 鈴木は回転をピタリと止め、限界まで引き絞っていた左腕の【ショルダー・パイルバンカー】を至近距離で解放!

『ゴワァァァァァァァァンッ!!!!』

 巨大な鉄杭がアルマジロの柔らかい腹部を完璧に貫通し、怪獣は大爆発を起こして消滅した。

 プレハブ司令室では、炎城司令官が感動のあまりパイプ椅子をへし折っていた。

「見たか諸君!! これぞ男の竜巻!! アースディフェンダーの回転が、敵の独楽を弾き返したのだ!! 鈴木ィ! 貴様の腹斜筋は宇宙を回すブラックホールだぁぁっ!!」

 広瀬が、ケバブの匂いに腹を鳴らしながらキーボードを叩く。

「完璧です! 『ED、極秘開発の全方位トルネード・スピンを解放! ケーブルに絡まったGキャノンを救出し、回転獣を粉砕!』でリリースします!!」

 そして現場。

 秋葉原のケバブ屋の前でスマホを見ていた3号は、ガッツポーズをした。

「よしっ! 鈴木のおっさん、見事なひねりだったぜ! あれならくびれのある最高のボディラインになるな!」

 しかし、背後からトルコ人店長の怒号が飛んだ。

「オイ、シルバァ! オマエ、ウチの肉焼ク機械、軸ゴトドコヤッタ! 商売アガッタリダヨ! 弁償代トシテ、今月ノ給料カラ【2万5千円】天引キダ!!」

「うそぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 3号の絶叫が、電気街のネオンに虚しく響き渡る。

 そして、見事なツイストで世界を救った鈴木にも、氷室査察官からの事務的な死刑宣告が届いていた。

『……鈴木さん。お疲れ様でした。見事な大回転でしたね』

「(ガクガクガク……)ひ、氷室、査察官……俺の、わき腹が……痙攣して、体が常にナナメのまま戻りません……」

『ええ。ところで、あなたが機体を回転させた際、腰のジョイント部分から【大量の謎の肉汁(ケバブの脂)】が飛散し、幕張の道路を著しく汚染しました。食品衛生法違反および道路交通法(道路汚損)に該当します』

「えっ」

『さらに、極度の回転運動によりあなたがコクピット内で吐き気を催し、「勤務中に酩酊状態にあるのではないか」と疑われる挙動を見せたことによる品位保持違反。これらの罰金として、今月の給与から【3万5千円】を天引きさせていただきます。次はもっと清潔に、そして酔わずに回ってくださいね』

「理不尽すぎるだろおおおおおおおおっ!!」

 足、腕、首、体幹、肺活量、握力、咬筋、僧帽筋に加え、ついに【独楽のように強靭でしなやかな腹斜筋(わき腹の筋肉)と三半規管】まで強制習得させられた鈴木。

 プレハブ小屋に追いやられようとも、防衛省のブラック環境は鈴木の肉体を、全方位死角なしの「完全無欠のスーパー・アスリート」へと、今日も容赦なく削り出していくのであった。

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