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第44話「極秘の首振りレーダーと、時給1200円のアンテナ撤去」

 防衛省の地下司令室は、重苦しい空気に包まれていた。

 メインモニターには、連日ワイドショーを賑わせているトヨハタ自動車の特務テストパイロット・神崎流星の姿が映っている。

『Gタンクの最新鋭AIターゲティングシステムは完璧です。どんな高速の敵も、ミリ単位の誤差で撃ち抜く。……それに引き換え、どこかの自転車ロボットは、いつも見当違いの方向に空気砲を撃っていますね。防衛省の皆さんは、視力検査からやり直した方がいいのでは?』

 神崎のニヒルな挑発に、炎城司令官が真っ赤なマフラーを噛みちぎらんばかりに激怒した。

「おのれぇぇぇっ! トヨハタの小僧め! 機械の計算(AI)に頼るから魂が濁るのだ! 鈴木ィ! 貴様の熱き眼力で、明日は絶対にGタンクより先に敵の眉間を撃ち抜けぇぇっ!」

『無理ですよぉぉ! アースディフェンダーのカメラ、ただの【中古のWebカメラ】じゃないですか! 解像度低すぎて、夜とか雨の日は完全にモザイク画なんです!』

 インカム越しに鈴木が泣き叫ぶ。

 そう、アースディフェンダーの最大の弱点は「索敵能力の圧倒的欠如」であった。

 一方その頃。

 都内の古いマンションの屋上で、ジャージ姿の青年――巨大未確認生物3シルバーガイが、真夏の直射日光を浴びながらボルトを回していた。

(時給1,200円の『不要アンテナ撤去バイト』! 熱中症になりそうだが、これも鈴木のおっさんのためだ!)

 彼の背後には、白衣の天才科学者ハカセイダーが立っていた。

「素晴らしいぞシルバァ! この錆びついた【直径2メートルの巨大BSパラボラアンテナ】! これをアースディフェンダーの頭部に接着し、アナログの音波・電波を拾う『全方位索敵レーダー』に改造するのだ!」

「すげえ! これでおっさんも、モザイク画から卒業できるんだな!」

「ああっ。モニターなどという軟弱なものは使わん。直接、パイロットの【三半規管と首の筋肉】に敵の座標を叩き込む究極のシステムを作ってやる!」

 その夜、二人の宇宙人は屋外演習場に忍び込み、アースディフェンダーの頭部に巨大なパラボラアンテナをガムテープと針金で固定した。

 そして、コクピットの天井から極太のワイヤーを吊るし、その先に【鉛が詰まったような重さの工事用鉄ヘルメット】を取り付けたのである。

 翌日。

『緊急事態発生!』

 佐藤が、スマホの画面に冷えピタを貼りながら報告した。

『多摩丘陵の森林地帯に、巨大未確認生物29号が出現! 全長35メートルの【宇宙カメレオン】です! 奴は特殊な光学迷彩と、電子機器を狂わせる電磁ジャミングを放っています!』

「出たな卑怯な怪獣め! 出撃だ鈴木ィ! Gタンクより先に敵を見つけ出せ!」

 森林地帯。

 木々がなぎ倒されているものの、怪獣の姿はどこにも見えない。

 そこへ、キャタピラの轟音と共にGタンクが到着した。

『――ふん。また来たのか、時代遅れの自転車ロボット』

 神崎の冷たい声が響く。だが、Gタンクの動きがどこかおかしい。

『……チッ。光学迷彩に加えて、強烈な電磁ジャミングだと? AIターゲティングが完全に機能不全に陥っている。メインカメラの映像もノイズだらけだ』

 最新鋭の電子機器の塊であるGタンクは、宇宙カメレオンのジャミングの前に完全に無力化されていたのだ。

「神崎! お前、敵の場所が分からないのか!?」

 アースディフェンダーのコクピットで、鈴木が叫ぶ。

『……黙れ。トヨハタの技術は無敵だ。その辺りに適当にミサイルを撃ち込めば当たる』

「馬鹿野郎! この近くには林間学校のキャンプ場があるんだぞ! 流れ弾が当たったらどうする!」

 鈴木が焦ったその時。

 目の前の天井からぶら下がっている【やけに重そうな鉄のヘルメット】に貼られたメモが目に入った。

『パイロットの同志へ。その兜を被り、首を振れ。見えざる敵は、君の頸椎けいついが捉える。――名もなき宇宙の友人より』

「……またか! また拷問器具か!」

 鈴木は覚悟を決め、その重さ約20キロの鉄ヘルメットを被り、あご紐をガッチリと締めた。

 その瞬間、頭部のパラボラアンテナとヘルメットが物理的なワイヤーで連動し、凄まじい「アナログの音響反響」がヘルメットを通じて鈴木の脳内に直接響き始めた。

「うおおおおっ!? なんだこれ、首が……首が鉛みたいに重い!」

 パラボラアンテナを回転させて索敵するためには、鈴木自身がその重いヘルメットを被ったまま、【首を力任せに振らなければならない】のだ。

 しかも、GタンクのAIを狂わせる電磁ジャミングも、完全なアナログ物理兵器であるこの「首振りレーダー」には一切通用しなかった。

「あっちか!? いや、こっちか!?」

 鈴木は、両足で【ペダルを全力で漕いで機体を安定】させながら、右手で【コーヒーミルを回してシールドを展開】し、左手で【芝刈り機のヒモを引いて空気砲のタメ】を作り、さらに【20キロのヘルメットを被った首を、ヘッドバンギングのように猛烈に振り回し始めた】のである。

 足、右腕、左腕、そして首。

 全身のあらゆる筋肉が別の運動を強いられる、完全なる一人オーケストラ地獄。

「首が! 頸椎がモゲるぅぅぅぅっ!!」

 鈴木が白目を剥きながら首を「グォンッ!」と右に振った瞬間。

 パラボラアンテナが怪獣の微かな足音を捉え、ヘルメットを通じて鈴木の首に「ガキィッ!」という強烈な反動(ロックオンの合図)を伝えた。

「見つけたぞぉぉぉぉっ!! そこだぁぁぁぁっ!!」

 鈴木は首を固定し、限界まで引き絞っていた左手の芝刈り機ヒモを一気に解放した!

『ボジュォォォォォォォォンッ!!!』

 放たれた超高圧の空気弾が、不可視の電磁ジャミングを物理的にぶち破り、何もない空間にクリーンヒットした。

『ギャェェェェェッ!?』

 悲鳴と共に光学迷彩が解け、宇宙カメレオン(29号)が姿を現し、そのまま腹部を打ち抜かれて大爆発を起こした。

「……ば、馬鹿な」

 Gタンクのコクピットで、神崎が絶句する。

「最新鋭のAIが捉えられなかったステルス怪獣を、あんなガラクタが……一撃で……!?」

 地下司令室では、炎城が机を叩き割っていた。

「見たかぁぁぁっ!! 電子機器に頼る脆弱な兵器とは違う! アースディフェンダーは、パイロットの魂と第六感で敵を捉える究極の生命連動型ロボットなのだ!!」

 広報の広瀬が泣きながらキーボードを叩く。

「完璧です! 『ED、トヨハタのAIを超える超絶アナログ・サイコミュ・システムを搭載! 見えざる敵を粉砕!』でリリースします!!」

 司令室は、ついにGタンクの鼻を明かした喜びに沸き上がった。

 そして現場。

 アンテナ撤去のバイトを終えてスマホのニュースを見ていた3号は、ガッツポーズをした。

「よしっ! 鈴木のおっさん、ついにGタンクのエリート野郎に勝ったな!」

 しかし、現場監督が鬼の形相で走ってきた。

「おいシルバァ! お前、屋上から撤去したはずのパラボラアンテナをどこにやった! 産業廃棄物の横領だぞ! 罰金として今月の給料から【2万5千円】天引きだ!!」

「うそぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 3号の絶望の叫びが、真夏の空に吸い込まれていく。

 そして、見事な勝利を収めた鈴木にも、氷室査察官からの氷のような通達が届いていた。

『……鈴木さん。お疲れ様です。見事な索敵でした』

「ひ、氷室査察官……俺の、首が……ムチウチで……」

『ええ。ところで、あなたが頭部に無断で設置したアンテナですが。電波法に基づく「無線局の開局手続き」を行っていない無許可の電波設備とみなされます。総務省からの罰金を補填するため、今月の給与から【3万円】を天引きします』

「えっ」

『さらに、勤務中に激しく首を振る行為は、「職務に集中せずヘヴィメタルを聴いている」と誤認される恐れがあり、防衛省の風紀を乱しました。減給処分として追加で【1万円】です。次はもっと静かに索敵してくださいね』

「理不尽すぎるだろおおおおおおおおっ!!」

 両足の太もも、両腕の酷使、そして頸椎の深刻なムチウチ。

 「本物のロボット」に近づくたびに、鈴木の肉体は恐るべき負荷に耐え、奇妙な筋肉ばかりが異常発達していく。

 来るべき競輪界デビューの日に向けて、生涯無敗の脚力と鋼の肉体を持つモンスターが、極限のブラック環境の中でジワジワと培養されているのであった。

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