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第43話「極秘の芝刈りキャノンと、時給1050円のスクラップ回収」

 真夜中のスクラップ工場。

 高く積まれた廃車の山の中で、ジャージ姿の青年――巨大未確認生物3シルバーガイが、額に汗して鉄クズの仕分け作業をしていた。

(時給1,050円の『深夜のスクラップ分別バイト』。鉄とアルミを分けるだけの単純作業だが、ここならハカセイダーの改造パーツが無限に手に入るぜ)

 彼の背後で、白衣の天才科学者ハカセイダーが、廃品の山から嬉々としてガラクタを漁っていた。

「見ろシルバァ! この廃棄された【乗用芝刈り機のエンジン始動用リコイルスターター(引っ張るヒモ)】! そして【工事用の極太塩ビパイプ】! これらを組み合わせれば、アースディフェンダーに遠距離用の射撃兵器を搭載できるぞ!」

「マジか! ついにビームとか撃てるのか!?」

「馬鹿を言え。ビームなど撃てば一発で国交省にバレる。今回作るのは、純粋な大気の力を用いた【手動リコイル式・圧縮空気砲アナログ・エアキャノン】だ」

 ハカセイダーは手際よくパーツを組み立て、演習場で待機しているアースディフェンダーの左腕に、バズーカのように極太の塩ビパイプをガムテープでぐるぐる巻きにして固定した。

 そして、そのパイプに繋がった「ヒモの持ち手」を、コクピットの左側の壁に設置したのである。

「よし。これで、あのパイロットはさらなる力を手に入れた。……肉体への負荷はさらに増すがな」

「頼むぜ鈴木のおっさん。トヨハタの戦車なんかに負けるなよ……!」

 3号は、夜空にそびえるハリボテの巨神に向かって、熱く祈りを捧げた。

 翌朝。

 防衛省の地下司令室では、炎城司令官が頭を抱えていた。

「ぬぉぉぉ……! 国民の支持率が! Gタンク一色ではないか!」

 氷室査察官が、冷酷なデータを示す。

「昨日のさいたま新都心の防衛戦以降、トヨハタ自動車の株価はストップ高。一方、我が防衛省への批判の電話は鳴り止みません。『ポンコツは道を空けろ』『自転車ロボットは粗大ゴミに出せ』など、散々な言われようです」

「おのれぇぇっ! 資本主義の犬どもめ! 我々の熱き魂が、宣伝費に負けてたまるか!」

 インカムから、鈴木の掠れた声が響く。

『……あの。世間の声より、俺の体の心配をしてください。両足は筋肉痛でパンパン、右手はシールドの手回しで腱鞘炎です。もう限界ですよ……ん? なんだこの、左壁から生えてる【芝刈り機のヒモ】みたいなのは……』

 鈴木が困惑していると、警報が鳴り響いた。

『緊急事態発生!』

 佐藤が、スマホの画面にタッチペンを走らせながら報告する。

『代々木公園の上空に、巨大未確認生物28号が出現! 全長30メートルの巨大な【宇宙セミ】です! 上空を旋回しながら、鼓膜を破壊する殺人ノイズを撒き散らしています!』

「空を飛ぶ敵だと!?」西園寺の代わりに冷や汗をかく広報の広瀬が叫んだ。「まずいです! アースディフェンダーには対空兵器がありません!」

「気合いで飛べ鈴木ィ! 気合いでペダルを回してジャンプしろぉぉっ!」

『自転車で空が飛べるかぁぁぁっ!』

 鈴木が絶叫しながらペダルを立ち漕ぎし、代々木公園へと向かう。

 現場では、宇宙セミ(28号)が「ミンミンミンミン!!」という超音波のノイズを撒き散らし、周囲のビルの窓ガラスを粉砕していた。

 そこへ、キャタピラの轟音と共に、漆黒のGタンクが姿を現した。

『――耳障りな羽虫だ。トヨハタの業火で消し炭にしてやる』

 神崎流星のニヒルな声と共に、Gタンクの背部に搭載された対空ミサイルハッチが開いた。

『ターゲット・ロック。……散れ』

 シュババババババッ!!

 凄まじい数の追尾ミサイルが空へ放たれた。しかし、28号はミサイルの爆音に驚き、不規則な軌道で飛び回って回避した。

 結果、空振りしたミサイル群は、28号の背後にあった【都内の巨大な総合病院】の方向へと落下軌道を描いてしまったのだ。

「な、なんだと!?」

 遅れて到着したアースディフェンダーのコクピットで、鈴木が目を見開いた。

「病院にミサイルが落ちるぞ! 神崎、撃ち落とせ!」

『フッ……。正義のための些細なエラーだ。病院の一つや二つ、国交省がすぐに最新鋭のものを建て直す』

「ふざけるなぁぁっ!!」

 鈴木は、右手で「コーヒーミルのハンドル」を全力で回し、アースディフェンダーの電磁シールドを展開! 病院に降り注ごうとするミサイルと、宇宙セミの超音波ノイズを防ぐ。

「重いぃぃぃっ!! 右手がちぎれるぅぅ!」

 しかし、シールドを張り続けるだけでは、上空の宇宙セミを倒すことはできない。

 その時、鈴木の左手側にある【芝刈り機のヒモ】の横に貼られたメモが目に入った。

『パイロットの同志へ。その紐を力の限り引け。空気を圧縮し、空を撃ち抜け。――名もなき宇宙の友人より』

「……やるしかないのか!!」

 鈴木は、狂気のマルチタスク状態に突入した。

 機体を安定させるために両足で【ペダルを全力で漕ぎ】。

 シールドを維持するために右手で【コーヒーミルを猛回転させ】。

 そして、空中の敵を撃ち落とすために、左手で【芝刈り機のリコイルスターターのヒモを、何度も何度も猛烈な勢いで引いた】のだ!

「ブォン! ブォン! ブルルルルンッ!!」

 アースディフェンダーの左腕の塩ビパイプの中で、空気が異常な圧力に圧縮されていく。

「足がママチャリ! 右手がコーヒーミル! 左手が芝刈り機!! 俺は大道芸人かあああああああっ!!」

 全身の筋肉がバラバラの動きを強要され、鈴木の脳髄が悲鳴を上げる。

 だが、そのいびつで過酷な労働トレーニングは、確実にアースディフェンダーの左腕に致死量の圧縮空気を溜め込んでいた。

「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

 鈴木が左手のヒモを限界まで引き抜き、ロックを解除した瞬間。

『ボジュォォォォォォォォンッ!!!』

 凄まじい爆発音と共に、左腕の塩ビパイプから、目に見えない【超高圧の空気の砲弾】が放たれた。

 大気を切り裂き、真空の渦を巻き起こしながら空へ打ち上げられた空気弾は、上空を飛び回っていた宇宙セミ(28号)の羽を完璧にへし折り、そのまま空の彼方へと吹き飛ばしたのである。

「……えっ?」

 Gタンクのコクピットで、神崎が初めて驚愕の声を漏らした。

「あのポンコツが、対空射撃だと……!?」

 地下司令室では、炎城が机に飛び乗って号泣していた。

「見たか諸君!! アースディフェンダーが、見えない真空の波動砲で敵を空から撃ち落としたぞ!! これぞ気合い! これぞ男の飛び道具だぁぁっ!!」

 広報の広瀬が、狂ったようにキーボードを叩く。

「完璧です! 『ED、極秘開発の大気圧縮キャノンで空の敵を撃墜! Gタンクの誤射も見事にフォロー!』でリリースを出します!!」

 司令室は、久方ぶりの「Gタンクへの大勝利」に湧き上がった。

 そして現場。

 スクラップ工場で仕分けをしながら、遠くの空に弾け飛ぶ怪獣を見た3号は、汗を拭いながらニッと笑った。

「やったな、鈴木のおっさん! これで一矢報いたぜ!」

 しかし、背後から工場長の怒号が響いた。

「おいシルバァ! お前が仕分けてた山から、芝刈り機のエンジンヒモと塩ビパイプがなくなってるぞ! 鉄泥棒か! 弁償代として、今月の給料から【2万円】天引きだ!!」

「うそぉぉぉぉぉん!!」

 3号の絶叫が、真夏の空き地に虚しく響き渡る。

 そして、病院を守り抜いた鈴木にも、氷室からの非情な通達が入っていた。

『……鈴木さん。お疲れ様です』

「ひ、氷室査察官……俺、やりましたよ……!」

『ええ。しかし、あなたが放ったその【空気砲】ですが。高圧ガス保安法に基づく【高圧ガス製造設備】の無許可使用にあたります。法令違反による防衛省への罰金の補填として、今月の給与から【3万円】を天引きさせていただきます』

「えっ」

『さらに、左腕を激しく動かしたことで機体のバランスが崩れ、右肩のスポンサーロゴのガムテープが剥がれました。損害賠償として追加で【1万円】です。次はもっと法令を遵守して、静かに撃ってくださいね』

「理不尽すぎるだろおおおおおおおっ!!」

 両足の筋肉痛、右腕の腱鞘炎に加えて、左腕の極度な肉離れ。

 鈴木の肉体は、宇宙のオーバーテクノロジー(アナログ)によって、日々いびつに、しかし確実に超人的な進化を強制されていた。

 Gタンクとの予算獲得合戦はまだ始まったばかり。鈴木の過酷なワンマン・オーケストラ防衛戦は、さらに理不尽な音色を奏でていくのである。

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