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第42話「極秘の手回しシールドと、時給1150円の夜間警備」

 深夜の防衛省・屋外演習場。

 ジメジメとした夏の夜風の中、懐中電灯を持って巡回している警備員の青年がいた。

 巨大未確認生物3シルバーガイである。

(時給1,150円の『深夜の施設警備バイト』。防衛省の裏口警備なんて退屈な仕事だと思ってたが、まさかこんな形で役に立つとはな)

 3号は周囲に誰もいないことを確認すると、暗がりに向かって小さく口笛を吹いた。

 すると、音もなく白衣を着た宇宙人――天才科学者ハカセイダーが、両手に廃品回収で拾ってきたガラクタを抱えて姿を現した。

「よくやったシルバァ。まさかお前がここの警備員に潜り込んでいるとは、好都合だ」

「ハカセイダー、頼むぜ。トヨハタ自動車の『Gタンク』に負けない、最強のロボットにしてくれるんだよな! すぐにビームとか飛ぶようにしてくれ!」

「馬鹿を言え」

 ハカセイダーは、アースディフェンダーの装甲の隙間からコクピットへと侵入しながら鼻で笑った。

「一晩でいきなりビーム兵器を積んだり空を飛んだりしたら、防衛省の連中に『中身がすり替わっている』とバレて、機体を解体・研究されてしまうだろう。我々の目的は、あくまであのパイロット(鈴木)の力を底上げし、少しずつ……ジワジワと本物のロボットに【進化】させることだ」

「なるほど……。じゃあ、今日の改造は?」

「Gタンクは圧倒的な火力を持つが、周囲の被害を顧みない。ならば、アースディフェンダーが持つべきは、彼らにはない【絶対的な防御力】だ」

 ハカセイダーは、コクピットのダミーコンソールに、持参した【サビだらけの手回し式コーヒーミル】のハンドル部分と、【廃車になった軽トラのダイナモ(発電機)】を取り付け始めた。

「よし、完成だ。名付けて『マニュアル・クランク式・電磁防護シールド』。明日、あのおっさんは地獄を見つつも、真の守護者への第一歩を踏み出すだろう」

「……なんか、嫌な予感がするシステム名だな」

 翌朝。防衛省の地下司令室は、重苦しい空気に包まれていた。

 メインモニターには、連日ワイドショーで特集される『Gタンクと神崎流星』の華々しい活躍が映し出されている。

「……昨日の戦闘によるさいたま新都心の被害総額は数百億円。しかし、国交省傘下のゼネコンが即座に復興工事を受注し、経済効果はそれを上回ると報道されています」

 氷室査察官が冷ややかに報告する。

「国民の支持は完全にGタンクに傾きました。来期の我々の防衛予算は、ヘタをすればゼロ……アースディフェンダーの廃絶もあり得ます」

「馬鹿な!」炎城司令官が机を叩く。「企業の金儲けの道具に、我々の熱き防衛魂が負けるというのか! 鈴木ィ! 今日こそGタンクより先に怪獣を倒し、防衛省の意地を見せるのだ!」

 インカム越しに、鈴木の疲労困憊の声が響く。

『無理言わないでください! ペダル漕ぐだけで足がパンパンなんです! というか、コクピットになんか変な【手回しハンドル】が増えてるんですけど、これ何ですか!?』

「知らん! 氷室がまた中古の健康器具でも付けたのだろう!」

 その時、緊急警報が鳴り響いた。

『緊急事態です!』佐藤がスマホの画面を連打しながら叫ぶ。『お台場の臨海副都心に、巨大未確認生物27号が出現! 全長30メートルの【宇宙ハリネズミ】です! 体毛のトゲをミサイルのように乱射して、周囲を破壊しています!』

「出撃だ鈴木ィ! ペダルを踏みちぎる勢いで東京湾へ向かえ!」

 お台場・臨海副都心。

 宇宙ハリネズミ(27号)が、巨大なトゲを「シュパパパパッ!」と四方八方に乱射し、ビル群の窓ガラスを次々と粉砕していた。

 「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……!」と息を切らしながら、アースディフェンダーがペダル駆動で到着した、その直後。

『キュララララララッ!!』

 土煙を上げ、圧倒的なスピードでGタンクが姿を現した。

『――遅いな、防衛省のポンコツ。また特等席で見物か?』

 外部スピーカーから、神崎流星のニヒルな声が響く。

「神崎……! 今日こそ、俺たちが……!」

『下がっていろ。民間人の税金の無駄遣いが。……ツイン・カノン、照準セット』

 Gタンクの巨大な二門の大砲が、27号に狙いを定めた。

 しかし、神崎の射線の先には、怪獣だけでなく【避難が遅れている一般市民が乗ったゆりかもめ(モノレール)】の姿があった。

「ま、待て! その角度で撃ったら、モノレールの高架ごと吹き飛ぶぞ!」

 鈴木が叫ぶ。

『正義には犠牲が付き物だ。撃てば国交省が新線を引く。……ファイア』

「やめろぉぉぉっ!!」

 Gタンクの主砲が火を噴こうとした瞬間、27号(宇宙ハリネズミ)が防衛本能から、凄まじい数のトゲの雨をモノレールに向けて一斉発射した。

 このままでは、市民がトゲの餌食になる。

 その時、鈴木の目の前のコンソールに貼られた、一枚のメモが目に入った。

『パイロットの同志へ。その手回しハンドルを全力で回せ。回した分だけ、君の闘志は盾となる。――名もなき宇宙の友人より』

(これか……!)

 鈴木は考えるより先に、左手でダミーの操縦桿を握り、右手でその【コーヒーミルのハンドル】をガシィッ!と掴んだ。

「うおおおおおおおっ!!」

 ギュルルルルルルルッ!!

 鈴木が全力でハンドルを回すと、繋がれた軽トラのダイナモが凄まじい回転音を上げ、宇宙の未知のテクノロジーによって変換された【青白く光る六角形の電磁シールド】が、アースディフェンダーの前面に展開された!

「な、なんだあれは!?」

 司令室の炎城が目を見張る。「アースディフェンダーから光の盾が!?」

「しかし司令官! シールドが点滅しています!」高橋が叫ぶ。「出力が足りません!」

 コクピットの鈴木は、地獄を見ていた。

「重いぃぃぃっ!! なんだこのハンドル! 回せば回すほど鉛みたいに重くなる!」

 シールドの強度は、完全に鈴木の【手回しの回転数と筋力】に依存していたのだ。

 しかも、モノレールを庇うためには、機体を前進させなければならない。

「足でペダルを漕いで! 右手でハンドルを全力で回す! ドラムセット叩いてるんじゃないんだぞぉぉぉっ!!」

 鈴木は両足の太ももを爆発させながらペダルを踏み込み、同時に右腕の二の腕の筋肉を引き裂かんばかりの勢いでハンドルを回し続けた。

 ガガガガガガガガッ!!

 宇宙ハリネズミの放った無数のトゲが、鈴木の汗と涙と乳酸の結晶である電磁シールドに激突し、すべて弾き返されていく。

 モノレールは、アースディフェンダーの光の盾によって完全に守り抜かれた。

『……チッ、余計な真似を』

 神崎が舌打ちし、Gタンクの主砲が火を噴いた。

 ズドォォォォン!!

 トゲを撃ち尽くした27号は、Gタンクの圧倒的火力によって粉砕された。

 怪獣を倒したのは、またしてもGタンクであった。

 しかし、現場に取り残されたモノレールの乗客たちは、逃げ惑いながらも、自分たちをトゲの雨から守ってくれた【青い盾を構えるアースディフェンダー】に向かって、「ありがとう!」と手を振っていた。

「……おっさん」

 避難誘導の警備バイト(時給1,150円)として現場にいた3号は、乗客たちを守り抜いたボロボロの巨神を見上げ、ヘルメットの下でニッと笑った。

「派手な大砲より、誰かを守るための盾のほうが、ヒーローらしくてかっこいいぜ」

 その夜。

 防衛省の医務室で、鈴木は【両足の重度筋肉痛】に加えて、【右腕の極度な腱鞘炎】により、全身に湿布を貼られてミイラのような姿になっていた。

「いててて……右腕が、右腕が上がらない……」

 そこへ、氷室査察官が冷ややかな足音を立てて現れた。

「……お疲れ様です、鈴木さん。本日のシールド展開、見事な防衛でした」

「ひ、氷室査察官……。怪獣は倒せなかったけど、市民は守れましたよ……!」

「ええ。しかし問題があります。あなたが無断で使用したあの手回しハンドルのダイナモですが、あれは廃棄された軽トラの部品です。国土交通省の『不法投棄車両の部品の無断使用』に該当するとして、国交省から防衛省へ厳重注意が来ました」

「えっ」

「よって、国交省への違約金および、業務中の過度な有酸素運動(手回しとペダリング)によるカロリー消費を『勝手なダイエット行為』とみなし、今月の給与から【3万円】を天引きさせていただきます。次はもっと省エネで回してくださいね」

「理不尽すぎるだろおおおおおおおおっ!!」

 鈴木の悲痛な絶叫が、お台場の夜風に虚しく消えていく。

 少しずつ、確実に本物のロボットへと近づいていくアースディフェンダー。

 しかしそれに反比例するように、鈴木の肉体への負担と、財布へのダメージは、底なしの泥沼へと沈んでいくのであった。

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