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第22話「精鋭(タダ働き)たちと、アナログすぎる英才教育」

 防衛省の地下演習場に、初々しい、そして絶望的に【何も知らない】若者たちの声が響き渡った。

「日本創機学園、第1期生! 小池こいけ三国みくに亀井かめい! 本日より配属されました! よろしくお願いします!」

 パリッとした新品の制服(※防衛省の備品の作業着のワッペンを付け替えただけ)に身を包んだ三人の若者が、直立不動で敬礼をしている。

 彼らこそ、前回のデモンストレーションで莫大な出資を取り付けた超エリート教育機関【日本創機学園】の、記念すべき第一期生たちである。

 そして、その三人を、全高50メートルのアースディフェンダーのコクピットから死んだ魚のような目で見下ろしているのが、特別教官に任命された鈴木(手取り10万円)であった。

『素晴らしい返事だ!』西園寺管理官が、マイクで新入生たちを煽る。『君たちは数万人の志願者の中から選ばれた、次世代の防衛を担うエリートだ! 本日より、特別教官である鈴木の下で、実戦を想定した【高度な訓練】を行ってもらう!』

「はいっ! パイロットとして、最新鋭の操縦技術を盗んでみせます!」

 新入生の小池が目を輝かせる。三国と亀井も、これから始まる華やかなSF的訓練を想像して武者震いをしている。

 しかし、司令室の裏側では、氷室査察官が冷たい手つきでタブレットを操作していた。

「……よし。これで彼らを【実習生】という名目で、無給で使役できますね」

「さすが氷室査察官」法務の黒田が感心したように頷く。「先月、勤怠管理のスプレッドシートが【#VALUE!】エラーで崩壊して以来、整備班の残業代が全く計算できていませんでしたからね。彼らに【人力作業】という名のアナログバックアップを担わせれば、人件費はゼロです」

「ええ。彼らには徹底的に【基礎体力】と【アナログ操作】を叩き込みなさい」

 かくして、華やかなエリート学園の、地獄の授業が始まった。

「……えーと、じゃあ小池くんと三国くん」

 コクピットの鈴木が、インカム越しに力なく指示を出す。

「アースディフェンダーの右腕に繋がってる【手回しウインチ】を、全力で回してくれ。亀井くんは、足元に噛ませてある車止め(巨大な石)をどかして」

「きょ、教官! これは一体何の訓練ですか!?」小池が汗だくでウインチを回しながら叫ぶ。

「いかなる電子妨害ジャミングを受けても機体を動かすための、究極の【アナログ・バックアップ演習】だ。……たぶん」

「おおおっ! なるほど! 万が一システムがダウンしても、人力で巨神を動かす! ロマンですね!」

 純粋すぎる新入生たちは、ただの【塩ビパイプの腕を人力で引っ張り上げているだけ】という現実に気づかず、目を輝かせて汗を流している。

 整備班の高橋は、その様子を柱の陰から泣きながら見守っていた。

「ごめんな……俺がポンコツなばかりに、君たちの青春を【ガムテープの補修作業】と【台車押し】に費やさせてしまって……」

 一方その頃。

 地下基地の通用口のゲート前。

 出前用の巨大なおかもちを提げた、ジャージ姿の青年――巨大未確認生物3シルバーガイが、鼻歌交じりに自転車を停めていた。

「♪I'll be with you~ 思わず~♪っと。……あー、この『Steady』って曲、地球の90年代の歌らしいけど、テンポが良くて配達中につい歌っちゃうんだよな」

 3号は、先日フリマで得た利益もとうとう底をつき、今度は【某ラーメンチェーンの裏メニュー・こってり特製豚骨ラーメン(※山岡家インスパイア系)】の出前バイトをしていたのである。

「すいませーん、出前です! 豚骨ラーメンの脂多め、味濃いめ、3丁!」

 ゲートの警備員にラーメンを渡す3号。注文したのは、過酷な肉体労働で塩分と脂を欲していた新入生の三人組(小池・三国・亀井)であった。

「まいどありー! ……ん?」

 3号が代金を受け取って帰ろうとした、その時。

 ズズズンッ……と、地下基地全体が奇妙な振動に包まれた。

『緊急事態発生!』司令室の佐藤の声が響く。『基地の直上、千代田区のど真ん中に、巨大未確認生物10号が出現しました!』

 モニターに映し出されたのは、巨大な【セミ】のような外見の怪獣だった。

 10号が腹部を震わせると、『ジジジジジィィィィッ!』という凄まじい高周波が周囲に放たれた。

「な、なんだこの音は!?」西園寺が耳を塞ぐ。

『管理官! 10号の放つ高周波のせいで、基地内の電子機器が完全にダウンしました! 通信も、モニターも、全てブラックアウトです!』

 佐藤の言う通り、司令室の画面が次々と【NO SIGNAL】に変わっていく。

 電子制御が命(という設定)のアースディフェンダーにとって、これは致命傷……かに思われた。

「慌てるな皆様」

 真っ暗な司令室の中で、氷室査察官だけが冷静に立ち上がった。

「システムがダウンしようと関係ありません。アースディフェンダーは元々【一切の電子制御で動いていない】のですから」

「そ、そうか! そもそも配線すら繋がっていないんだった!」西園寺がハッとする。「鈴木くん! 新入生たちに指示を出して、人力で迎撃しろ!」

 しかし、通信システムもダウンしているため、コクピットの鈴木に指示を出す手段がない。

 現場の演習場では、突然の停電と警報に、新入生たちがパニックになっていた。

「ど、どうすればいいんですか教官! モニターが真っ暗です!」

「ええい、こうなったら!」

 鈴木はコクピットのハッチを物理的に蹴り開け、身を乗り出して地上に向かって【肉声】で叫んだ。

「小池! 三国! 亀井! 訓練の成果を見せる時だ! 今すぐEDの右腕のウインチを全開で回せ!! そして牽引車のサイドブレーキを外せぇぇっ!」

 教官の必死の形相に、新入生たちの目に炎が灯った。

「はいっ!! アナログ・バックアップ、起動します!」

 三人の若者が、火事場の馬鹿力で巨大な手回しウインチをぶん回す。

 ギギギギギギッ!という音と共に、アースディフェンダーの巨大な右腕(先端には新しい発泡スチロールの拳が接着されている)が、カチカチと持ち上がっていく。

 その光景は、さながら巨大なからくり人形であった。

 一方、地上では。

 配達を終えて帰ろうとしていた3号の目の前に、巨大セミ怪獣(10号)が着地していた。

『ジジジジジジ……!』

「うわっ、うるっさ!」

 3号は思わず耳を塞いだ。

「こんな街中で大騒音出されたら、苦情で俺の出前バイトの注文が減るだろうが! ちょっと黙れ!」

 3号は人間の姿のまま、近くにあった【工事用の巨大な鉄骨】を拾い上げ、バッティングセンターのような構えで10号の頭部に向かってフルスイングした。

『ガキィィィンッ!』

『ミーッ!?』

 脳震盪を起こした巨大セミは、ひっくり返ってジタバタと足を動かしている。

 そこへ、地下基地の巨大なハッチが開き、鈴木を乗せたアースディフェンダーが、牽引車に乗って(サイドブレーキを外したため惰性で)地上へと飛び出してきた。

「いっけぇぇぇぇっ!」

 鈴木の合図と共に、新入生たちがウインチのストッパーを外す。

 持ち上がっていたEDの右腕が、自重で物凄い勢いで振り下ろされた。

 ドゴォォォォン!!

 ひっくり返っていた10号の腹部に、発泡スチロールの拳が(奇跡的に鉄骨の芯に当たって)クリーンヒット。

 10号は完全に沈黙した。

「や、やったぞおおおおっ!」

 小池、三国、亀井の三人が、涙を流して抱き合う。

「教官! 俺たち、やりました! アナログの力で、電子妨害を打ち破りました!」

「お、おう……よくやったな、お前ら」

 鈴木はコクピットから、複雑な表情で親指を立てた。

 数時間後。通信が復旧した司令室。

「素晴らしい成果です」氷室が満足げに頷く。「新入生たちの【無給の労働力】により、見事に怪獣を撃退しました。これで学園のカリキュラムの実用性が証明され、さらなる助成金が下ります」

「広瀬くん! 『ED、電磁パルスを無効化する完全独立駆動システムを搭載!』でリリースを出したまえ!」

「了解です!」

 大人の汚いスピンコントロールが、若者たちの純粋な汗を【莫大な現金】へと変換していく。

 そして基地の隅では。

 騒ぎに乗じてこっそりと帰ろうとしていた3号が、自分が配達したラーメンの空きどんぶりを回収し忘れたことに気づき、絶望の表情を浮かべていた。

「あああっ! どんぶり回収しないと、店長に怒られてバイト代から引かれるのに!!」

 宇宙最強の戦士の防衛戦は、常に自身の生活苦との戦いでもある。

 日本創機学園の第一期生たちは、今日も【最新鋭の防衛技術】と信じ込んで、単管パイプのガムテープ補修に精を出しているのであった。

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