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真・最終話(裏ルート)「鋼鉄の氷の女王と、甘すぎるプロテイン・ハネムーン」

 ――ウェディング・タンデム自転車による時速150キロの絶望のハネムーンから数時間後。

 東京都心、夜景を一望できる超高級タワーマンションの最上階ペントハウス

 大理石の床に膝をつき、純白のタキシードをボロボロにした鈴木は、ガタガタと震えていた。

「(……いよいよだ。ここから、一生自転車を漕がされるだけの、本当の奴隷生活が始まるんだ……! 地下室にハムスターの回し車みたいな巨大な発電機が置いてあるに違いない……!!)」

 ガチャリ。

 寝室のドアが開き、氷室が現れた。

 鈴木は「ヒッ!」と身構え、極限の【エアロフォルム】で防御姿勢を取った。

 しかし。

 そこに立っていたのは、冷酷なチタンフレームの眼鏡を外し、美しく長い髪をふわりと下ろした氷室だった。

 それだけではない。彼女はなぜか、ふりふりの**ピンク色のエプロン**を身につけていたのである。

「お疲れ様、あなた♡ タンデム自転車の運転、すっごくかっこよかったわよ♡」

「…………はい?」

 氷室の口から出た、砂糖を煮詰めたような甘ったるい声。

 防衛省時代から一度も聞いたことのない、高くて、柔らかくて、愛情に満ち溢れた声。

「ひ、氷室……さん?」

「『さん』は禁止って言ったでしょ、すーくん♡ 今日から私たちは夫婦なんだから、『玲子れいこ』って呼んでね?」

 氷室――いや、玲子は、トテトテと小走りで鈴木に駆け寄ると、その異常に発達した大腿四頭筋に「ぎゅっ」と抱きついた。

「ああ……すーくんのこの立派な筋肉……♡ 理不尽な世界に耐え抜いて、私を守るために(※違います)こんなに逞しくなって……! 痛かったわよね、辛かったわよね。もう大丈夫よ。私が、すーくんの心も身体も、ぜーんぶ癒やしてあげるからね♡」

「えっ……えっ? えっ!?」

 鈴木の脳内CPUが完全にフリーズした。

 悪魔の査察官はどこへ行ったのか。この、目をキラキラさせて自分の太ももにすりすりしている可愛い新妻は誰なのか。

「あ、あの……1,000億円の借金は……永遠にペダルを回し続ける罰は……」

 すると、玲子は「ふふっ」と優しく微笑み、鈴木の巨大な手を両手で包み込んだ。

「ばぁか♡ あんなの、世間やJKAのハイエナどもから、すーくんを完全に守るための**『防壁ダミー』**に決まってるじゃない」

「えっ!?」

「すーくんは優しすぎるから、私が法的な『妻』になって完全に囲い込まないと、また別の悪い大人に利用されちゃうでしょ? だから、一生誰も手出しできないように、私がすーくんのすべてを管理してあげることにしたの。……借金なんて1円もないわ。私が裏で運用した資金で、このマンションも、一生遊んで暮らせるお金も、ぜーんぶ準備してあるんだから♡」

 玲子は、鈴木の頬にチュッと可愛らしくキスをした。

「競輪も、すーくんが『風になりたい』なら続ければいいし、嫌なら明日引退したっていいのよ? あなたが走るなら、私が全力でサポートする。あなたが休みたいなら、一生私が養ってあげる。……私はね、あのプレハブで、誰よりも純粋に頑張り続けるあなたを見て……ずっと、ずっと大好きだったのよ……♡」

 **大・ど・ん・で・ん・返・し。**

 冷徹無比な氷の女王の正体は、仕事のオンと家庭のオフが完全に分断された、**究極の「良妻賢母&激甘デレデレ妻」**だったのである。

### 甘やかされる筋肉の怪物

「さあ、すーくん! ご飯にしましょう!」

 ダイニングテーブルには、高級レストランも顔負けの豪華なディナーが並んでいた。

 しかしそれは、ただのディナーではない。

 **【最高級A5ランク和牛の赤身ステーキ】【トリュフ香る無農薬ブロッコリーの山盛り】【キャビアを添えた高タンパク・オムレツ】**など、鈴木の異常な筋肉を維持・回復させるために栄養学の限界まで計算し尽くされた、**究極の『愛のプロテイン・フルコース』**であった。

「あーん、して?♡」

「あ……あーん……」

「美味しい? よかったぁ♡ 私、すーくんの胃袋を掴むために、三ツ星シェフの料理教室にこっそり通ってたのよ♡」

 もぐもぐとステーキを咀嚼しながら、鈴木の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

 それは、絶望の涙ではない。防衛省に巻き込まれてから今日この日まで、一度も味わったことのない「圧倒的な幸福と安心感」からくる、温かい涙だった。

「れ、玲子さん……美味しい……すごく、美味しいよ……っ!」

「泣かないで、私のすーくん……♡」

 食後。

 ふかふかの特注キングサイズベッド(※前傾姿勢でも寝られるように特殊なクッションが敷き詰められている)の上で、玲子は最高級のアロマオイルを手に取り、鈴木の大腿四頭筋とハムストリングスを優しく、そしてプロのマッサージ師も驚くほどの手技で解きほぐしていった。

「(……ああ。極限まで酷使した筋肉が、愛の力で溶けていく……)」

 今まで、無理やりマルチタスクを強要され、罵声を浴びながら孤独に回してきたペダル。

 だが今は、隣に世界一自分を愛し、甘やかしてくれる絶対的な味方がいる。

「すーくん。明日からは、私のために走ってくれる?」

 玲子が、鈴木の胸板に耳を寄せながら、幸せそうに微笑んだ。

「……うん。僕、走るよ。玲子のために、世界で一番速い風になるよ」

 鈴木が優しく玲子の頭を撫でると、彼女は「えへへ……幸せ♡」と、嬉しそうに目を閉じた。

### エピローグ:そして本当の伝説へ

 ――数ヶ月後。

 競輪のバンクには、かつての殺伐とした空気は微塵もなかった。

「いけええええっ!! 鈴木ィィィ!! 愛妻パワー見せてやれえええっ!!」

「今日も奥さんのお弁当食べて絶好調だな!!」

 観客たちは、満面の笑みで鈴木に声援を送っていた。

 玲子の天才的なプロデュースにより、鈴木は「借金まみれの化け物」から**「愛する妻のために走る、超愛妻家の最強サイボーグレーサー」**へと完全なイメージチェンジを遂げていたのだ。

 さらに玲子は、「鈴木が1着になったら、ハズレ車券はすべて地域の福祉施設に寄付される」という神のようなシステムを構築。結果、鈴木が走るレースは「国民参加型のチャリティーイベント」と化し、好感度は爆上がり、永遠のブーイングは永遠の大歓声へと変わっていた。

『さあ、鈴木が今日も風を切り裂く!! その視線の先には、特等席で応援する愛妻・玲子さんの姿が!!』

 VIPルームのガラス越し。

 玲子は「すーくん、がんばれーっ♡」とピンク色のうちわを振って満面の笑みで応援している。

「(玲子……! 今帰るからね! 今夜のメニューの『超回復・愛の鶏むね肉ハンバーグ』を食べるために!!)」

 鈴木は、もはや悲壮感ゼロの【エアロフォルム】で、幸せに満ち溢れた笑顔のままペダルを踏み込んだ!

 【ハッピー・メテオ・ストンプ】が炸裂し、桜吹雪のような美しい突風を巻き起こしながら、彼は圧倒的なスピードでゴールラインを駆け抜ける。

 その光景を、観客席の片隅で見ていたシルバァ(3号)が、満足げにホットドッグをかじっていた。

「……よかったね、鈴木くん。リリンの愛は、やっぱり最高で、最強だ」

 理不尽に巻き込まれ、人間の形を失いかけた青年は。

 最後に、世界一彼を愛し、甘やかしてくれる「最高の伴侶」を手に入れ、誰よりも幸せな絶対王者として、今日も愛する妻の待つゴールへと走り続けるのであった。

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