真・最終話のそのおまけ「氷室玲子の完璧な戸籍ロンダリングと、無敵の愛」
――超高級タワーマンションのペントハウス。
朝の光が差し込むダイニングで、鈴木は氷室特製の『超回復プロテイン・パンケーキ』を頬張っていた。その時、ふと彼の脳裏に「ある重大な事実」がフラッシュバックし、持っていたフォークがカチャンと皿に落ちた。
「……ま、待って、玲子」
「どうしたの、すーくん? メープルシロップが足りなかった?」
ピンク色のエプロン姿の玲子(氷室)が、小首を傾げる。
「ち、違う! 僕……僕、そういえば防衛省に入る前から**『結婚』**してなかったっけ!? 戸籍上、すでに妻がいたはずじゃ……重婚は犯罪だぞ!?」
鈴木の顔面から一気に血の気が引いた。
しかし、玲子は少しも慌てることなく、にっこりと微笑んで「ふふっ」と笑い、ダイニングの引き出しから**【極秘・鈴木家婚姻関係調整ファイル】**と書かれた分厚いキングファイルを取り出した。
「すーくん、さすがに私がその程度の『法的バグ』を放置するような三流官僚に見えるかしら?」
「えっ」
玲子は眼鏡をクイッと押し上げ、かつての氷室査察官の【冷徹で完璧なトーン】へと一瞬だけ戻り、ホワイトボード(なぜかダイニングに設置されている)を指し示した。
#### 氷室流・既存婚姻関係の完全円満クリアリング・スキーム
* **① 850億円の借金による「合法的かつ円満な離婚」の成立**
> 「防衛省解体時、あなたが850億円の負債を抱えた瞬間、前の奥様は当然パニックになりました。そこで私は彼女に接触し、『今すぐ離婚届にサインすれば、借金の連帯保証から完全に外れる』と法的なアドバイスを提供。彼女は秒速でサインしました。責められません、それが一般人の正常な判断です」
>
* **② 国家機密保持名目による「莫大な慰謝料(国費)」の付与**
> 「もちろん、彼女をただ放り出すようなことはしません。防衛省の裏金(※すでに私が確保済み)から、『国家機密保持協力金』という名目で**5億円を非課税で贈与**しました。彼女は今、ハワイの高級コンドミニアムで新しい恋人と最高のバカンスを満喫しています。完全なWin-Winです」
>
* **③ 戸籍のロンダリングと「真実の愛」の証明**
> 「借金まみれで、世間から化け物と石を投げられ、誰からも見捨てられた(ように法的に偽装した)無一文のあなた。その地獄の底まで付き添い、1,000億の借金を共に背負う覚悟を見せたのは……この世界で、私ただ一人ということです♡」
>
玲子の説明を聞き終え、鈴木はポカンと口を開けたまま固まっていた。
恐ろしい。この女、国家権力と裏金をフル活用して「前の妻」を金で円満に追い払い、**『自分だけが鈴木の唯一の理解者で救世主である』**という状況を、盤上で完璧に作り上げていたのだ。
「……れ、玲子……あんた、本当に……」
「ひどい女、って思う?」
玲子は少しだけ寂しそうに目を伏せ、鈴木の分厚い胸板にそっと顔を埋めた。
「だって……欲しかったんだもの。国や組織の命令じゃなく、ただ真っ直ぐにペダルを回し続けるあなたの、その純粋な魂が。……手段を選ばないくらい、すーくんのことが好きになっちゃったの。許して……くれる?」
上目遣いでウルウルと見つめてくる、国家を裏で操る天才官僚。
その恐るべき執念と、自分に向けられた深すぎる愛情(と少しの狂気)を前にして、鈴木の心に「恐怖」よりも先に、どうしようもない「愛おしさ」が込み上げてきた。
「(……ああ。僕の身体も、そして僕の人生も……この人には一生、絶対に敵わないんだな)」
鈴木は、諦めと、それ以上の深い安堵のため息をつき、極太の腕で玲子を優しく抱きしめ返した。
「……許すよ。僕の方こそ、こんな化け物みたいな身体ごと愛してくれて、ありがとう。玲子」
「すーくん……っ♡ 大好きぃ……♡」
タワーマンションの窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
すべての矛盾を「権力と財力」でねじ伏せ、すべての悲劇を「甘すぎる愛」で上書きした二人に、もはやいかなるツッコミも無粋である。
こうして鈴木は、身も心も戸籍も過去も、すべてを完璧な妻に委ね、最高に幸せな【永遠のペダリングライフ】を満喫するのであった。
**(完)**




