第98話 顔見知りの新人さん来たる!?
お料理ショート動画の再生数もなんか凄く伸びてる。
最近は50万人で足踏みしていた登録者も、またジワ伸びし始めた。
いやあ、50万人って凄まじいんだけどね。
なんか感覚がおかしくなる……!!
「正常な感覚を失ってしまったかも知れない」
梅雨の雨空の下、傘を差しながら事務所へ。
今日は学校で友達とお喋りしていたら、時間が経ってしまった。
同年代の女の子の話は貴重な配信のための取材でもあるのだ。
きっとそうだ。
そういうことにしておこう。
けっして、僕がどんどん女子化してるからではない。
「僕は男だ、僕は男だぞー!! うん、間違いない。間違いないから」
『もが?』
「うおわー! エレベーターの横から大きな骸骨が!! がしゃどくろ!? なんでここに妖怪が!?」
臨戦態勢~!!
『もがー! もがもが!』
がしゃどくろは急に小さくなって、手のひらサイズの二頭身になって壁から飛び出してきた。
なんか足元でぶんぶん手を振ってる。
身の潔白を主張してる……?
これってもしかして……。
花咲里さん、妖怪と契約した……!?
エレベーターの扉が開いて、がしゃどくろがトテトテ走っていった。
「あら、かざりちゃん! こんにちはー」
「こんにちは!」
リーシュさんが出迎えてくれた。
今日は鳥乃さん、大学が遅い時間まであるので来ないそうだ。
リーシュさんはしゃがんで、ちびのがしゃどくろを抱き上げる。
「あらー、お迎え行ってたのね? 偉いねー」
『もが! もがもが!』
「がしゃどくろがすっかりペットになってる……。でも、もしあれが花咲里さんと契約してたら、本人もいるはず……」
「うおーい」
「いた!」
隣に刑部さんもいる……。
なんでだ……?
社長がニコニコしながら、何か書類を差し出している。
刑部さんが神妙な顔で書類にサインをして、真新しいはんこを押して……。
「よーし、これで君もファイヤー・アンド・ウインドの仲間だ! ふうらいエレメンツとしてプロデュースしていくからね!」
とんでもないことを言い出す社長!
「ええーっ!? どういうことですか!? ちょっと待って! 待ってー!!」
僕は大混乱なのだ!
なんだなんだ!?
僕の知らない間に、何が起こっていたのだー!?
「あのね明、話せば長いことながら」
「私の正体がバレまして」
「刑部さんの正体……?」
刑部恵美奈さんは、ずっと僕の隣の席だった人だ。
高校一年の頃からで、大人っぽいメガネの美人さんだなーと思っており……。
決して、そう、決して夏場に見た汗で張り付く胸元の盛り上がりが脳に焼き付いて離れないとか、それがずっと気になってるとかは無くて……。
「魔眼使いとして影の世界で生きてきたのが、とうとう娑婆で仕事をすることに……。魔眼使いのみんな、見てるかー。私は……配信をする~」
なんか遠い目をしている。
魔眼使いは知ってるなあ。
半妖怪と言われる人々で、退魔師からは討伐対象になっている。
人の心を操り、法術にも影響を及ぼすほどの魔眼……妖術と呼ばれる類の技を生来持っている。
危険極まりない相手とされている。
だけど、身を隠すのがとても得意なので、見つけ出すのに一苦労。
ここ十年は魔眼使いは見つかってないと言われていた。
「まさか隣にいたなんて……」
「へへへ、木を隠すなら森の中と言いまして、退魔師である上鳴くんの隣にずっとおりました……。でも、まさかその上鳴くんが女の子になって、可愛さで大人気になっているとは……」
「えへへ、なんかどんどん軌道に乗ってしまっていて、研究したり、皆さんに協力してもらうほどに成果が出て……」
二人でへへへ、と笑い合う事になってしまった。
なお、先日募集したスタッフ二名に、ちょうど配信者のマネージャー経験者もいるということが判明。
「なんとイカルガエンターテイメントで、伝説の旅系エルフ配信者のマネージャーをやってたエルフの女性で……!」
「大物が来ますね社長~!!」
社長とリーシュさんで大いに盛り上がっている!
「女の人なんですか?」
「そうだよ」
「社長、たまたまかも知れませんけど……スタッフが女性ばかりじゃないですか?」
「たまたまだよ……。一応、今回は一人が男性……いや女性……? 男性? だし」
「曖昧な物言い!」
その謎はすぐに判明した。
翌日来たのが、金髪なエルフの女の人。
あと一人は、緑の髪をして、そこから葉っぱや枝が生えている人だった。
「どうもー。ルンテと言います。ベテランマネージャーなので頼ってくださいね! 母が私の手を離れたので、私も自分の道を歩き出そうと……」
「お母さんが手を離れた……?」
エルフの言葉は難しいなあ。
でも、このルンテさんが僕と花咲里さん、刑部さんの担当をしてくれる方。
もうお一人は。
「よろしくお願いします。パラスと申します」
「よろしくね。パラスさんって男の人なの? 女の人なの?」
ここで花咲里さん、デリカシーというものをどこかに置いてきた質問をする!
「自分はドライアドなので、雌雄同体です」
「ああ、そういう……!!」
「光合成したいので、大きな窓がある職場で、窓際で仕事ができる環境を探していたんです……!!」
「ああ、そういう……!!」
いろいろな意味で納得してしまった。
彼、とある大きな会社の通販部門で活躍してた凄い人らしい。
そしてうちの会社のスタッフ!
人間が一人もいないなあ!
「こ、これからデビュー予定の新人です、よろしくお願いします、へへへ……」
卑屈に揉み手する刑部さん!
これをルンテさんが包み込むような微笑みで迎えた。
「この十七年でどれだけの数の新人を育ててきたと思っているんですか? 任せてください。皆さんを全力でバックアップし、ビッグになるお手伝いをしますよ!」
「頼れる人だ!」
「十七年……? あたしたちが生まれた頃からずっと配信者のマネージャーしてるってこと!? というか、先日の事務所襲撃事件があったのに、よく入ってくる気になりましたねー」
ルンテさんはフフっと笑うと、人差し指を立てた。
「冒険配信業なんか、毎日鉄火場みたいなものでしょう? 危険と隣り合わせの職場ほど、これから伸びていくから面白いんですよ!」
「す、凄い人が来た……!!」
こうして、事務所がさらに大きく!
賑やかになったのだった。
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