第94話 なんか来てた
「明らかに退魔師らしき人が来てたけど、あっさり撃破してしまった」
「配信見た見た! 超かっこよかった! スタイリッシュ~!! 先代様とは全然違うんよねー」
突発配信が終わったと思ったら、後ろからファノリーさんが走ってきたのだった。
なんかもう、大興奮。
「どうどう、そんなに興奮したら体に悪いよ」
「かざりんの活躍をリアルタイムで見たんだもん。燃えるに決まってるっしょー! あ、退魔師はうちの一族が通報してから連行したからね」
「ありがとう~。面倒なことになるかと思った。でもさっきの人の戦い方、なんか知ってる上席の人にそっくりで……いやまさか。僕が上席の人を一蹴できるわけが」
「明日奈は謙虚だよねー。かざりんになっても謙虚だけど。なんかあれなの? 悩んでたりするの?」
「うん。実はこう……毎日自分なりに訓練はしてるし、イメージトレーニングもしてるんだけど、なんか壁に当たった気がして……」
「ははあ……。それはあれだね。真っ当に鍛えた先に、きら星の道はないってやつ!」
「なにそれ!?」
「うちが今考えた」
「なにそれー!」
「あはは、明日奈、ツッコミ代わりにくすぐるのやめてー!」
でも、ファノリーさんが言うことも一理あるかも知れない。
僕が退魔師時代に知っている訓練内容だと、今くらいの動きをするのが精一杯。
大昔の退魔師は、もっと凄いことをしてたらしいからなあ。
今の世代は小粒になってしまった、と退魔師本堂の人が嘆いていたらしい。
「ってことで、うちの知り合いにそういうデータを集めてる人がいるから、一緒に見に行こー」
「そういうデータって?」
別のことを考えてて、ファノリーさんの言葉を聞き逃してた!
「つまりね、変な戦い方をするすっごい強い配信者のデータ!」
「えーっ! そんなの集めてる人がいるの!?」
「結構いるよー。うちの知り合いはね、その中でもかなり凄い人! 普段は大学の教授してるから忙しいんだけどー」
「教授さんと知り合いなの!? すごー」
「いやいや、人脈では明日奈の方が遥かに上だから……!! うちの仲間が教授のゼミで院生やってるの! 文化人類学つってー、今の時代だとダンジョンの来歴とか、配信者が影響した文化の変化も調べていくから凄い重要な学問なんだって」
「ほえー、知らない名前だ」
でも、紹介してくれるならありがたい。
どうやら、今日はその教授さん、講義が一通り終わっているらしい。
ファノリーさんが僕のことを伝えたら、是非会いたいと返答があったそうだ。
僕のことを知ってる教授の人……?
謎だ……。
ファノリーさんが用意した黒塗りのバンに乗り、僕は一路某大学へ……。
「あっ! 花咲里さんが黒塗りのバンに連れ込まれてる!」「事案だ!」
「違う! 違うからー!」
妙な誤解を生みそうになった!
「あっ、どうも二代目! お噂はかねがね……。二代目を乗せて運転できるなんて光栄ですよ!」
運転席には陽気なぽっちゃりしたおじさんがいた。
「うちのファノリーが失礼してませんか? してない? そりゃ意外。一族初の初等教育からずっと学校に通わせてた娘なんですけどね、まさかこんな出会いを我が一族にもたらしてくれることになるとは……。きら星はづきが通ってた高校に入れただけで驚きだったんですが、いやあ、運命ってのはあるもんですねえ」
「ちょっとー!! おじさん喋りすぎなんだけどー!! うちのプライバシーがー!!」
「わはははは、いいじゃないいいじゃない。俺はファノリーのおしめまで替えたことが」
「やーめてー! セクハラー! セクハラー!!」
「わはははは」
「あはははは」
僕も釣られて笑った。
こうしてバンは大学の駐車場へ。
近くをモノレールが走ってるところだ。
僕もファノリーさんも制服姿だから、目立つんじゃない?
目立った。
「あっ! 学内にかわいい女子高生が二人も!!」「清楚な娘とギャルだ!」「かーわいい」
「注目されてるんだけど」
「そりゃ明日奈はかわいいから目立つでしょ。あ、うちも目立ってる? やっぱ制服はよくなかったか? ま、いいや」
堂々と突き進むファノリーさん。
広い大学の中を、迷いなく。
「行き方知ってるの?」
「ううん、この大学初めて。でも、一族同士で判別できる音を出せるわけ。うちはそれが聞こえるから、迷わない!」
「すごーい」
ファノリーさんって、そう言えば異種族なんだった。
チスイコウモリみたいな大きな耳がぴょんと飛び出したところは見たことあるけど、正体はどんな姿をしてるんだろうなあ。
いやいや、そんなの詮索するのは失礼だ。
「ウグワーッ」
「ファノリーさん!?」
物思いから帰ってきたら、ファノリーさんが壁に激突したところだった。
「音を頼りにし過ぎて目をおろそかにしてた……。大学は構造が複雑過ぎる!」
「まあねえ、迷路みたいだよねえ」
僕たちの通っている高校も、多分俯瞰で見たら迷路みたい何じゃないかと思うけど。
校舎と体育館と校庭、プールを除いても謎の敷地が広がってるからね。
おっと、道に迷いかけたファノリーさんを導くべく、院生の人がやって来たみたいだ。
やっぱり肌の色が濃い、ファノリーさんより一回り大きなお姉さん。
「ごめんごめーん! 大学が立体なの忘れてた」
「ちょっとー! 超複雑で分かんなかったんだけどー! 屋内入ったら音が反射しまくってさらに分かんないしー!」
「あはは、ごめんってー! あ、こちらが二代目さん? どうもどうも、よろしくお願いします」
「ああ~っ、頭を上げてください!」
僕、年上の人に頭を下げられるの凄く苦手かも知れない!!
こうして案内されたのは、二階の一角にある教授の研究室。
扉には、文殊和史と書いてあった。
文殊教授かあ。
「もんさん、入りまーす」
「どうぞ」
院生の人がノックすると、落ち着いた男の人の声がした。
扉が開き……。
白髪をオールバックにした長身の男の人がいた。
おじいちゃんという感じではなく、若いけど白髪が早かった人かな?
凄くクールな印象。
横長なメガネの奥で、瞳が僕たちを見定めているみたいな。
……と思ったら、彼がガタッと立ち上がった。
「君が! 君が花咲里明日奈さんだね!? 待っていたよ! いやあ、本物に会うのは初めてだ……!」
「あ、は、はあ」
「明日奈に会って超興奮してるじゃん!」
「もんさん教授、年季の入った冒険配信ファンなのよー」
なるほどなるほど……?
「あの、よろしくお願いします……! 僕、常識的な訓練だといけないと思い始めてて、何かのヒントが欲しいんです」
「聞いています。君の判断は正しい。とんでもなく大きく、そして珍妙なものを受け継いでしまった君は……あまり他所では聞かないタイプの力を身につけていかなければならないでしょう」
なんだろう。
理知的な言葉遣いの中で、聞こえてくる単語が凄く不安にさせるんですけど!
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