第92話 刑部恵美奈の秘密!
あたしと恵美奈と宇宙さん。
三人でパーテーションの裏にある会議室に入った。
まあ、声は丸聞こえなんですけど。
「刑部姫という妖怪を知っているかい?」
「えっと……あんまり知らないかもですけど。そういや、恵美奈の苗字って……」
刑部恵美奈なんだった。
妖怪!?
恵美奈が!?
「うわーっ、じろじろ見られている~っ! も、もう今までの関係には戻れない~!」
「刑部姫……あるいは長壁姫、小坂部姫とも記述される。彼女たちは城の天守閣に住むとされた妖怪たちだ。ダンジョン禍によって、彼女たちもそこに住みづらくなったんだろう。今は城から出てあちこちにダンジョンを作り上げて生活している」
「そんな事実が……。恵美奈ってその刑部姫なんですか?」
「そのー、刑部姫に惚れた奇特な城主がいてねえ。それで生まれた子は代々、魔眼の力を持ってるの。迷宮省からは睨まれてるんで、ずっと逃げ回って暮らしてるんだけど……。私は一応、その血を継いだ魔眼使い」
「あー、なるほど! じゃあ別に妖怪ってわけじゃなかったんだ。じゃあ問題なくない?」
「へ? いいの? 私、妖怪に近いみたいなものなんだけれども」
「全然。だってうちの社長はオーガだし、モデレーターのリーシュさんはオークだし、財務の鳥乃さんはバードマンでしょ。今の世の中は人間じゃない人種で溢れてるんだから、恵美奈くらい普通じゃない?」
「あー、そ、そういう……! 時代が変わってた……」
恵美奈がへなへなと脱力した。
宇宙さんがからから笑う。
「まあ、魔眼使いの中にはその力を使って犯罪を行う者も多い。そういう意味で、人外を監視する目的もある迷宮省が目を光らせていたのは確かだよ。だが刑部恵美奈は学園生活に入り込み、高校生ライフを謳歌するばかりで何の罪も犯していない。なんなら、君の助けになっているだろう? 迷宮省側からも、この活動を続けていくなら問題ないと言われているよ」
「そ、そうだったんですかー! 良かった~!」
さらにへなへなになる恵美奈なのだった。
ちなみに恵美奈は見た目通りの年齢ではないんだそうで。
魔眼使いは妖怪の血が混じっているので、人の半分くらいの速度で老化するんだとか。
「実は三十年以上生きてまして。まあ、戸籍が無いんで正確には分からないんだけど」
「うおー」
「学校に通わず逃げ続けてて、それでようやく体が高校生くらいになったので学校に潜り込んで……そしたら隣りにいた大人しい上鳴くんが、いきなりイケイケになったんでちょっといいなって思いまして……」
「あー、それでペタペタしてきてた……。まあ、あたしは何も構いませんけど。ってか、あたし、中身は女だけどいいの?」
「元女とも思えないようなそのカラッとした感じと男らしさが……」
「褒められているのか……!?」
宇宙さんはこの話をニコニコしながら聞いた後、立ち上がった。
「さて、私は今後の対策を話に出かけよう。刑部くん。君は個人情報を作成する必要があるので、一緒に私の事務所に来るようにね。一度私に捕捉されたら逃げられないのは分かっているだろう?」
「ひゃ、ひゃい」
「まっ、恵美奈もAちゃんとして参戦しちゃったんだしさ。もう割り切って配信やればいいじゃん。あたしはいつでも歓迎してるぜー」
「な……なるほど……!! 隠れるのではなく、いっそ表に出てきてしまえばいいと。盲点~!!」
こんな話をしていたら、パーテーションの間からにゅっと社長が出てきた。
「聞いたよ聞いたよ~! 刑部姫の末裔で魔眼使いなんだって?」
「全部聞かれてる~!!」
「今は妖怪の血を継いでいるくらいでちょうどいいんじゃない? デビューするならうちが全面的にバックアップするよ! そろそろマネージャーを雇わないとだけど……。稼いでくれるタレントは何人いてもいいし!」
社長、どんどんたくましくなるなあ!
「ってことで恵美奈! いつでも歓迎するよ! あたしと明だけだと、やっぱ手が足りなくてさー。それに恵美奈が配信に映り込んだのも、これで計画的! って取られるんじゃない? みんな丸く収まる!」
「上鳴くんの口が上手い……!!」
「あ、乗り気? じゃあ宇宙さんに手伝ってもらって戸籍登録したら、うちに来てね! 絶対だからね! はい、これ俺の名刺」
社長が恵美奈に、ギュッと名刺を握らせた。
「あ、はい! ぐいぐい押してくるよこの人!」
「社長は本来パワー系だからね」
「社長~!! 宇宙明さんからの式神の常駐サービスの話がー!」
「はいはーい! じゃあね!」
社長がバタバタ戻っていってしまった。
会社の経営がどんどん軌道に乗ってきてて、社長もだんだん社長らしくなってきてるな。
なんか妙に嬉しいあたしなのだった。
「ではそろそろ、刑部くんは連れて行っていいかな?」
「どうぞどうぞ」
「ひぃ~、上鳴くーん」
「じゃあまた明日、学校でなー」
恵美奈が宇宙さんに連行されていってしまった。
いやあ、まさかずっと付き合いのある隣の女子に、こんな秘密があるとはなあ。
意外や意外。
だけど、あたしと明が入れ替わった時点で、世の中は何があってもおかしくはないのだ。
宇宙さんと恵美奈を見送ったあと、またエレベーターに乗り……。
『もが~』
「あれ?」
エレベーターの壁に、巨大な骸骨の顔がちょっとだけ出っ張ってる。
「お前、あの退魔師と一緒に出てきた妖怪じゃん。どうしたの?」
『もが』
「もしかして契約みたいなのが切れたとか?」
『もが』
「そっかー。じゃああたしと契約する? なんつって」
『もがー!!』
『使い魔との契約が成立しました。使い魔を登録します』
Aフォンが変なことを言い始めたぞ!!
画面に、見たことがない表記がダーッと流れていく。
最後に、あたしの指紋を認証する画面。
「まあいっか!」
ポチッとな。
『がしゃどくろが使い魔になりました!』
「あんた、がしゃどくろって言うんだ!? へえー。でかいけど、透き通って建物の中に入れるなら問題ないでしょ。おっしゃ、ついてきな!」
『もがー!』
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