第91話 事務所防衛戦だ!
すっかりAちゃんとして知られてしまった恵美奈を連れて、あたしは事務所にダッシュ!
よく考えたら、退魔師がまた襲撃してきたってことは事務所が危なかったりするんじゃないの?
こういうのは、身内を人質にして攻めてくるって決まってるのだ。
父がそういうマンガやアニメをたくさん知ってて、子供の頃に教えてもらった。
まあ、あたしは母が持ってたアイドルもののコレクションの方が好きだったんだけど。
でもその時の記憶がここで役立つとは!
「ひぃー、わ、わ、私は限界ですぞ~!!」
「ええい恵美奈、おぶされ! 背負って走る!」
「い、いやあ、私今汗臭くて」
「うるさーい!! おらぁっ!」
「あひー!」
ごちゃごちゃ言う恵美奈を背負った。
あっ、確かに汗でしっとりしているな。
背中に熱量を感じる……!
「おぉぉ~! 上鳴くんにおんぶされてしまって、これはもう青春じゃないの……!? 学校に入り込んでよかった~!!」
入り込んだ!?
もしかして恵美奈ってちゃんとした学生じゃなかったりするのか?
いや、そんなことは今はどうでもいい。
「うおおおお!! 体、鍛えておいてよかった! 恵美奈を背負ってても加速できるぜーっ!!」
なお……まだ配信は続いている!
※『ラブラブと言うかすげえ青春を見せつけられているぜ!』『そうか、Aちゃん一人置いておいたら人質にされるか!』『さっきAちゃんの本名呼んでたくない?』『背中の上でもう恋する乙女の顔じゃない』『匂わせどころかその遥か先まで達している!!』『炎上なんか恐れない! 男らしいぜ!!』
「そういう関係じゃねーっ! だけど同接のパワーですげえ加速できる! オラオラオラ!! どいてくれどいてくれ!」
通行人を飛び越えて、ガードレールを踏み台にし、対面の歩道までジャンプ!
着地と同時にダッシュ!
我ながら信じられない身体能力だ。
事務所の場所バレ?
そんなん、グググールでグググればすぐ出るでしょ!
なんならAIが適当なこと言うから!
「よーし、事務所到着!」
※『明らかに三鷹駅』『場所がモロ過ぎるw』『ええんかw』『緊急事態だからな!』
「いいの! 他は後でどうにかする! あ、恵美奈! 宇宙さんに連絡しといて!」
「宇宙さん……? あ、あ、安倍宇宙明!? い、いやあ私はちょっと遠慮を……」
「やれーっ!」
「ひゃ、ひゃいぃ! あっ、上鳴くんが宇宙明を普通にフレンド登録してる。SNSから掛けていい? インターネットを挟んだほうが、まだ式神の力が弱まる……あの、もしもし? あ、はい、あー、ご無沙汰しております……。ああ、ええ、はい、悪さはやめて女子高生として……はい」
宇宙さんと知り合いか!?
だが今はそれどころではない……。
なぜなら、事務所があるビルが明らかに結界に包まれていたからだ!
「恵美奈! 掴まっとけ! 両手を離して、全力で行くから!」
「えっ、ええーっ!? よいしょーっ!」
※『あーっ、いけませんいけません』『女の子がサンダーの体に足を回してギュッと!』『むちむちしてやがる』『アーカイブ残るんですかこれ』
「全部後! 後で考える! おらっ!おらおらおらおらっ!!おららららららららららららららっ!!」
パンチ!
パンチパンチパンチパンチパンチ!
パンチ電撃パンチ電撃パンチ電撃パンチ電撃パンチ……雷撃!!
『条件を満たしました』
拳が!
SSRになる!
その瞬間、猛烈な勢いで結界が崩れだした。
紫色の光の欠片になり、辺りに飛び散っていく。
「か、上鳴くん! 宇宙明さんが速攻で式神よこすって!」
「マジ!? 助かるー!!」
「あと、野次馬が凄く集まってる!」
「そんなん後!! 行くぞ!!」
結界を消し飛ばした中に、突っ込むあたし!
エレベーターに飛び込むと、普通に動き出した。
すると……エレベーターの中に現れる、巨大な骸骨の頭!
半透明で、エレベーターに頭だけを突っ込んでいる形みたいだ。
それが大口を開けて『もがーっ!!』とあたしに食いついてくる!
「ひいーっ! 上鳴くーん!!」
「うおーっ! 今のあたしの拳はーっ! SSRだーっ!!」
狭い空間だろうが、パンチなら問題なし!
電撃がほとばしるパンチは、半透明な骸骨に炸裂した。
『ウグワーッ!?』
一発で顔面が半ばまで粉砕され、骸骨が慌てて引っ込んでいった。
※『つえー!!』『サンダー、乗りに乗るとやべえな!』『ずっとレアリティ維持されてるからな』『これもしかして、その上に至るか?』
エレベーターの扉を蹴り破りたい衝動を抑えて……開け、開けー!
開いた!
「ひ、ひぃーっ!? 馬鹿なーっ!!」
いきなり退魔師がいた!
狙いは良かったけど、あたしが速攻で駆けつけて、結界を殴り壊し、こいつが連れてる妖怪も殴り飛ばして一気にたどりついたのが予想外だったらしい。
腹の出たおじさんなんだけど、そんなんどうでもいい!
「おらぁーっ!!」
「ぬおおーっ!! 飛翔旋風!」
おじさんの回りに、刃がついた扇が大量に舞う!
「サンダーやっちゃえー!!」
「私たちは無事でーす!」
「死ぬかと思ったよー!」
スタッフ全員の無事を確認!
あたしは扇目掛けて、連続で殴る!
「おららららららららららららららららっ!!」
『条件を満たしました』
あたしの拳が青く輝いた!
「おらっ!」
その一撃で、全ての扇が粉砕、床に落ちる。
「ええええええええ!? 我が血統に代々受け継がれてきた神器が、素手でえええええええ!?」
※『達したな……』『URだ……!』『ウルトラレアになりやがった!』
よく分からないけど、今のあたしは超強い!
「卑怯すぎだろ! ぶっ飛べーっ!!」
あたしの拳がおじさんに突き刺さる……というところで、これ直撃したら死ぬなと思って寸止めした。
だけど、拳が起こした猛烈な風でおじさんが「ウグワーッ!!」と巻き上げられ、壁に向かってぶっ飛んでいく。
「おりゃー!」
社長が走ってきて、対面の窓ガラスをガラッと開けた。
おじさん、窓の外へ放逐!
「ウグワーッ!?」
悲鳴をあげるおじさんは、どこからか現れたカラスの群れに囲まれて、確保されてしまった。
そして窓の外から、スーツ姿の男の人がスイーッと登ってくる。
「宇宙さん!」
「ああ。よくぞ呼んでくれた。安倍宇宙明参上したよ。ま、これは私の代理に過ぎないがね」
宇宙さんは窓枠をよっこらしょ、とくぐり抜けて、あたしのところまで歩み寄ってきた。
「退魔師の上席を二名、即座に撃破するとは! やるようになったな上鳴くん! あ、配信が続いてる? 構わないとも。退魔師は卑怯にも、我ら陰陽師と迷宮省の包囲網を抜け、君を標的とすべく集まっているんだ。その動きを即座に察知できて良かった。これから事務所は私の式神に守らせよう。それと……」
ちらっと宇宙さんがあたしの背後を見た。
恵美奈が立っている。
「彼女のことは、オフレコで行こうか」
何か知っているのか宇宙さーん!?
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