第86話 つまりエコバッグは数珠みたいなもので
広い事務所予定地を歩き回ってみる。
だだっ広いワンフロア。
必要ならパーテーションで区切って使うらしくて、そのパーテーションはこっち持ち。
あちこちから、ミシミシ、メキメキと音が聞こえてくる。
「なんかひろーい空間って落ち着かないよね……」
※『ハッ! さてはかざりん、ワンルームとかに住んでると見た』
「ぎくっ」
※『隠し事ができないw』『そう言えばかざりん、自宅でほとんど配信しないもんな』『ワンルームなら防音室も置けないもんね』御座候『致し方なし東京の部屋事情』
「あはははは、配信をしてなかった時は、寝て起きてお料理できるスペースがあるだけで十分だったんですけど。最近はサンダーもしょっちゅうご飯を食べに来るので」
※『えっ』『えっ』『えっ』『なぬ!?』『実質同棲!?』『いけません、いけませんぞ……』モチョチョ『だが待って欲しい中の人がお互いの同一人物』『お前ら自分の体に欲情するか?』『せやな』『ほな健全か』『解散』
「一瞬ものすごく盛り上がって、すぐに静かになった! そうですねー。何にもないですねー」
僕は雑談をしながら、事務所の隅から隅まで歩いた。
エコバッグをぶらぶらさせる。
幾つかの配信で使ってきた結果、このエコバッグに不思議な力が宿っているっぽい。
僕は退魔師の出自だから、密教系の魔祓いに親しい。
あれは最初、数珠とか経文を使って戦うんだよね。
エコバッグはあの時の、数珠みたいな感じになってるのかも知れない……。
威力は桁外れに高いけど。
「えー、何も無い事務所に見えます」
※『かざりん、元退魔師なんだからなんか分かったりしない?』『あれ? かざりんは元地下アイドルでは?』モチョチョ『魂が退魔師で肉体が地下アイドルで、2つが合わさって完璧で究極のアイドルなんだぞ』『なるほど分からん』
大変込み入った事情になってて混乱させます。
恐縮です。
「残念ながら、僕は法術が全く使えなくなったと同時に、そういう怪しいものを感じ取る力も全く無くなってしまったのです。つまりただの人です僕」
※『ハハッ』『ただの人がきら星を継承するもんかいw』『感性は一般人より、肉体はプロ寄り、というところで二代目は初代とは異質だもんな』
「そういうわけで、ここはAフォンの機能に頼ります。えっと、調べてきたんですけど、Aフォンには霊障を感知する機能があって……。風神号」
『了解しました。スピリットサーチを開始します。発見しました』
「はやーい!」
※『待機時間ゼロだったぞ!』『優秀~』回転『まあ待て。こういうパターンの場合、かざりんが持ってるからという可能性が高い……』
『ここです』
※回転『ほら!』『偶然立ち止まったところが目的地だった!』『何も分からんまま一切サーチしないで近づいてきて、ドンピシャなところで停止する!』『相手からすると本当にたちが悪いよな、防ぎようがない』
「えー、ではエコバッグで床をペチっと」
僕がエコバッグを振り回したら、その辺りの空間がぐにゃっと歪んだ。
『ウグワーッ!』
悲鳴をあげながら、ひょろ長くて輪郭の曖昧な怪物みたいなのが転げ出てくる。
なんだなんだー!?
本当にいた!
『迷宮……このフロアを迷宮に……迷宮に……!』
怪物がぶつぶつ言ってる。
なんだろうこれは。
※『有識者分からん?』回転『ちょっとネットで調べてくる』
待ってまーす。
ひょろ長い怪物はゆらゆら揺れたかと思ったら、その頭部にある丸く輝く目玉で僕を睨みつけてくる。
あっ、エコバッグの周りで何かがパリーンと割れた!
※『精神攻撃だ!』『全然効いてないぜ!』『かざりんは何の術も使えないが、良く分からんことに霊的防御が凄いのかも知れん』
かも知れない。
現役時代より鉄壁かも。
「じゃあ行きます! うりゃー!」
僕はひょろ長い怪物に駆け寄った。
そうしたら怪物が、体を揺らした次の瞬間、天井から足元から真っ黒な触手みたいなのが出てくる。
虚空から、ガタガタ、ミシミシと音が響き渡る。
「なんのー!」
僕は体を捻ってジャンプ。
間をくぐり抜けながら、着地ざまにエコバッグを振り回した。
ぺちぺちっと触手にエコバッグが当たると『ウグワーッ!?』触手が断末魔を上げて消える。
意思があるやつだ!
※『明らかに叡智な感じの触手だった!』『配信できなくなるところだったな!』『最近のAフォンはそういう画面だとオートモザイクする機能もだな』回転『分かったぞ! そいつは家鳴りだ! 妖怪の一種だったのが、ダンジョンとの接触でデーモン化したんだ! この物件の過去の情報で、ずっと音が鳴り続ける、ポルターガイスト現象が起こるって言うんでおかしくなってみんな退去するとあった!』
「なるほど、優秀~! ありがとう回転さん!」
※回転『認知された!』モチョチョ『オノーレ!』
それはそうとして、退治する方針に変わりはなし!
ひょろ長怪物が触手みたいなのを次々放ってくるけど、これはエコバッグで弾き、さらに下をスライディングでくぐり抜けて……。
「あちょー!」
ひょろ長の股間を抜けながら、股の上をバッグで叩いた。
『ウッグッワーッ!!』
※『痛い!』『痛い痛い痛い!』『や、やり過ぎだぁ』『いや、叡智攻撃を仕掛けたんだから股間を破壊されるのはしゃあない』
なんだかコメント欄が同情的!
ひょろ長は股間を抑えながら前のめりになると、がっくりと倒れ込んでから『ウグワ~……』消滅してしまった。
『反応が消失しました。デーモンの消滅を確認。ダンジョンコアが出現します』
振り返ったら、ダンジョンコアが二個あった。
手のひらサイズの丸い石だ。
「やったねかざりちゃーん!」
「うんうん、流石です」
「見てるこっちもヒュンッときた」
なぜか社長だけちょっと青い顔をしてたのだった。
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