第80話 6月の計画について
「ファイヤーくんとは6月からの経営計画について話していたんだけど」
母に連れられてやって来たのは、個室タイプのレストラン。
ここなら話を聞かれる心配もない……らしい。
それってつまり、聞かれたら困る話をあたしたちにしようってこと!?
「まず、きら星かざりとサンダーマスク。この二人を、事務所は配信者グループとして売り出すことを決定しました」
「ほえー」
明が変な声を出す。
自分の娘の体から、聞いたことがない声が出たので、母が一瞬目を見開き、すぐにニコニコした。
「明日奈もこんな声出せたのねえ」
「す、すみません変な声出して」
恐縮する明。
「おい、あたしの体で変な声とか変な動きとかやめるんだ。いつもやってるけど、お母さんの前では勘弁して欲しい」
「ど、努力します」
大丈夫かなあ。
「それはそれとして、あたしと明がグループ? ユニットってこと?」
「つまりね、今までは会社の名前があって、そこに所属する個人の配信者として活動してたわけ。これからは、会社が作った配信者グループがあって、それに所属する配信者になるわけよ」
なるほど……?
確かに他の配信者企業も、同じ企業内に複数の名前のグループを抱えてたりするもんね。
ただ、母が言うにはデビュー時期が同じ配信者たちを集めてひとまとめにするグループ化ではなく……ファイヤー・アンド・ウインド合同会社が所有する、配信者プロジェクトの名前をこのグループ名にするんだとか。
会社の名前と、配信者たちを切り離す。
それによって親しみを持ちやすくしてもらうんだって。
「難しいことになってますね……」
「明、考えるのやめたでしょ。絶対あんたのお師匠さんの影響強いって」
「そ、そうかなあ……。日々、細かいことがどうでもよくなっていくんだよね……」
「絶対にあたしの資質じゃないなそれ……。あの、それでお母さん、グループ名って?」
「ふふふ、それは私が考えてきたわ。お父さんと一緒に、二人がかりで三日掛けたわよ」
そこまで!!
母は父の才能にベタ惚れなので、さぞやその三日間は楽しかっただろうなあ……。
「風雷エレメンツ! これよ!」
「風雷!」
「エレメンツ!」
うおーっと驚く、あたしと明なのだ。
確かに、かざりとサンダーで風雷とは言われていた。
明の場合、風と言うより野菜とエコバッグなんだけど、明らかにアバターのデザインが風の妖精だもんね。
巷では、いにしえからのリスナーたちが「あんな清楚で可愛らしい見た目なのにきら星の後継者とは」「やはり見た目ではなく魂の形だったのだ」とかあちこちで話してるのをよく目にする。
で、あたしは打撃から雷を出せるようになった。
まんまサンダーだ。
なんで出るんだ……?
フレア曰く、魔法の才能があるということだったけど。
それって明の体が持ってた法術の才能でしょ?
え?
魔法って魂で使うから、魂の才能なの?
つまりサンダーマスクは、法術の才能と魔法の才能二つを併せ持ち、格闘によってそれを振るう配信者ってわけ?
スペックだけで見るなら最強かも知れない。
というところで料理が来た。
うおわっ、オシャレなハンバーガーをナイフとフォークで食べる系のやつだ!!
だが、あたしと明の前に来たのは、母のやつよりも肉が二段くらい多くて高さが10センチ近く高いハンバーガーだった。
食べ盛りのことをよく分かってるなあ……。
「いただきます」
「いただきまーす」
ガツガツ食べるあたしたち。
これを母が、ニコニコしながら見つめていた。
「明日奈が勝手に食事制限とか始めたでしょ? もう私、心配で心配で。そんなことしたら体壊すんじゃないかって思ってたけど、今は好きなものを好きなだけ食べてるみたい。安心したわ、どっちもね」
「いやあ……あの頃のあたしは視野狭窄だったので……。てか、男になったら制限するのもなんかアホらしくなって」
「僕の体でぷくぷく太るのやめてよね」
「おまっ、あたしの体で好き勝手食べまくって、こんなムチムチになっておきながら!」
このやり取りに、楽しそうに笑う母なのだった。
こうして始まった、風雷エレメンツ。
大々的な発表は6月の上旬ということになった。
もう何日もないじゃん。
思えば、入れ替わってからたった2ヶ月間の出来事なのに、恐ろしく濃厚な毎日だった。
アイドルが終わった時、人生も終わったかと思ったもんだったけどなあ。
母を駅まで見送り……。
「こっちから連絡するから。ちゃんと応答しなさいよ!」
なんて言われたりするのだった。
経営者やりながらこのフットワーク。
バイタリティ凄いな……。
「うーん、僕の両親とはぜんぜん違うタイプ。パワフルだった」
「でしょ。あたしは大いに影響を受けた」
「分かる」
納得されてしまった。
その後、事務所に帰ってからが大変だった。
適当なダンジョン配信を作業用BGMにし、風雷エレメンツの計画を練っていく。
まずロゴだよね、ロゴ。
「ロゴはちゃんとしたデザイナーにお願いしたよ。それからメインビジュアルも依頼してある……」
「いつになく仕事が早い社長!!」
「共同経営者に尻を叩かれてしまったからね! うおおお、俺はやるぞーっ!!」
「社長ファイトー!」
リーシュさんが無責任に応援するのだった。
さらに、事務所のお金関連を担当してくれる人を探さねばならない。
配信バックアップはリーシュさん。
事務所の事務と財務全般は、今は一般的な会計ソフトに頼ってるけど、これも限界だ。
「こっちの求人も今出した。いい人が来てくれるといいなあ」
こうして、風雷エレメンツが本格的に動き出す!
なお、事務関係の雇用希望者は翌日すぐに来たそうだ。
はやい!!
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