第81話 始まる動画撮影
5月最終日……。
狼我さんが押さえてくれたスタジオで、撮影をしたりする。
本日は、明の踊ってみた動画だ……!
ちゃんと撮影スタッフにお金を払って来てもらっている。
アバターに変身した明が、
「本日はよろしくお願いしまーす」
とペコペコ頭を下げている。
あたしも横で、
「よろしくお願いします!」
と挨拶だ。
「礼儀正しい! こちらこそよろしくお願いします。最高の動画にしましょうね」
ショート動画なのだが、だからこそ切り抜かれた一瞬の輝きが映える。
最高の一分間を作らなければ!
ということで撮影開始。
たった数日しか練習してないのに、ダンスの本質みたいなのを掴んできっちり仕上げている明。
流石過ぎる……。
「実は学校でも、みんなに付き合ってもらって体育館で踊る練習してた」
「なにーっ!! そんなん目立つでしょ!」
「なんか凄く注目されて、他の学年からも見に来る人がいて」
「そりゃそうでしょ……」
自分の持つ影響力というものを分かっていないな!?
これで明の潜在的ファンが増えたに違いない。
罪なことをする……。
現場には、昨日採用された経理の人も来ている。
バードマンの女性で、最近はバードマン界隈でこういう事務関係の資格取得がブームらしい。
「卵を守りながらでも、在宅で稼げますからね」
メガネをクイッと上げて、キラーンと目を光らせる彼女は鳥乃さん。
赤ちゃんの時にこっちの世界に来て、日本で育ったメンタル日本人のバードマン。
現役大学一年生でもある。
あれー?
うちの事務所のスタッフ、演者が人間で裏方が亜人だぞ……!?
彼女は勤務二日目にして、うちの事務所の予算権を握っている。
母がネット面接したからね。
あの人、見る目が確かだし鳥乃さんはかなり有能な人かも知れない。
「ここで撮影のオプションについて、予算ギリギリまでいいのを選ぶのが私の仕事なんです。いやあー、撮影とか配信だとガチガチになって何もできなくなるので、諦めてたんですけど……こうやって裏方としてエンタメに加われるなんて嬉しい~!!」
やる気満々!
ちなみに彼女は撮影されるとガチガチになるのは本当らしく、動画撮影スタッフが「鳥乃さんも映ってみます?」とカメラを向けた瞬間、カチーンと石のように固まってしまった。
「上がり症というレベルじゃなく本能的なものでは……?」
あたしは思わず突っ込んでしまったのだった。
だけど、彼女のチョイスのお陰で撮影はかなりいい感じに進み、きっちりと予算内で収まった。
社長だったら予算オーバーするか、逆に慎重にやり過ぎて映像がしょぼくなってたかも知れない。
あとはこれを編集してもらって、数日後に納品いただくだけ。
うちのリーシュさんも動画編集はできるけど、今回のは初の踊ってみた動画だから、きちんと技術があるところにお願いして……ということになったのだった。
「うーん、あたしもショートを作ってみたい。こっちはリーシュさんにお願いして内製で作るか!!」
ファイヤー・アンド・ウインドの主戦力である明は、いかなるプロデュースも全力でやらねばならない。
だってあいつの稼ぎで、事務所が成り立ってるからね。
反面、あたしは好きなことをやれるのだ。
よくよく考えてみるとありがたい。
「おっしゃ、やりましょうかー!!」
「やりましょう!!」
ってことで、あたしとリーシュさんで事務所が入っている雑居ビルの、空きフロアを使わせてもらう。
オーナーさんの厚意で、あんまり暴れなければ使っていいよと許してもらったのだ!
どうやらオーナーさんもあたしたちの配信を見てるらしい。
世の中、こういう繋がりが大事だなあ!
「それでサンダーさん、私が物を投げてサンダーさんが次々リズミカルに撃墜ってことでいいんですか?」
「それでオッケーです! 音楽を流しながら……どんどん投げて!」
「了解! いきますよーっ! ここから無言!」
「Aフォン、撮影スタート!」
ポンポン画面外から飛び込んでくる、柔らかなお手玉。
これをあたしが、拳や蹴りでリズムに乗って撃ち落としていく。
あえて打撃を遅らせて、リズムにピタッとはめるのが気持ちいいのだ!
いいんじゃない、いいんじゃない!?
三分間くらい撮影した後、これを25%くらいまで切り詰めることにする。
編集室で、リーシュさんと二人でわいわい騒ぎながら編集した。
そうしたらもう夜なのだ!
「それじゃ、私は帰りまーす。お疲れ様でしたー。うおー、鳥目で外が見えねー」
鳥乃さんが帰っていった。
「あれ? 編集に夢中で忘れてたけど、社長は?」
「新しい事務所の候補が見つかったとかで、実際に物件まで行ってますよ」
「へえー……。本当に大変だなあ。じゃあ物件が見つかったら、また社長はそこに住むのかな」
「そうじゃないですか? 家賃払って事務所を借りてるのに、家まで借りるのは損だーっていつも言ってますし」
事務所でちゃんと眠れてるのかねえ……。
なんだかんだで長い付き合いの人だ。
働き過ぎで倒れないでほしいなあ。
いや、そのためのリーシュさんで鳥乃さんでもあるんだよね。
これで、編集や配信の管理、経理と財務、コスト関連の業務はスタッフが担当するようになった。
社長は外とのやり取りとか、もっと会社の運営の大事なところに専念できるわけで……。
とか考えてたら、どたどた足音が近づいてきた。
ファイヤーさんだ。
「ただいまー! 大変だよ大変! あれ、明くんは帰っちゃったか。もう遅いもんなあ。花咲里ちゃんいるね! 大変だよ大変!」
「どうしたの社長? なんか興奮してるじゃん」
「興奮するよ~!! ついに当事務所にも、ウェブ雑誌からの取材が来るんだよー! 彗星のごとく配信界に現れたきら星! ファイヤー・アンド・ウインド社に直撃取材だって!」
「な、なんだってー!!」
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