第73話 試合を見に行った
後日……。
明と二人で、サーバル才藤の試合を見に行った。
これ、ちゃんとチケットが売ってて現地で見れるのね。
結構な競争率だったのに、明が予約したらペアチケットが一発で取れた。
なんでだ……!?
まだ新人のサーバルは、チケット融通とかできないっぽく、こっちは自腹なのだ。
社長が気前良く、
「お金が入ってきたからね! それくらいいいよいいよ! 取材費で消化しとくからねー!」
と予算を承認してくれたのだ。
この二ヶ月でうちの事務所は変わってしまったなあ……。
あたしはしみじみ思うのだった。
で、会場は凄い熱気。
地下格闘技配信と言うけど、地下でやってるわけじゃなくてちゃんと会場を用意して開催している。
後で知ったんだけど、これってブレイカーズグループという大きな会社が開催してるチャンネルだったらしい。
それで、参加する選手を闘士とかディーヴァとか言うんだけど、そのディーヴァをアイドルみたいに売り出したりするはずだ。
サーバル曰く「私の試合はガチ! ガチだから!」とのことだけど……。
「あっ、巨大な着ぐるみとプロレスしてる!」
「見栄えするわねー」
パイプ椅子に腰掛けて、目の前の試合を堪能するあたしたちなのだった。
楽しいショープロレスだ。
リングの上を飛び跳ねてバタバタやり合ってるのが楽しい。
ガチ……?
いや、ある意味これも、体を張ったガチのエンタメであることに代わりはないな……。
「僕もやってみたいなー」
「え、明もデビューしちゃう?」
「いやあ、人前でやるのはまだ恥ずかしいなあ」
「まだ!? 変わっちまったわね……」
そんな話をしていたら、サーバル才藤の登場だ。
対するのは、やっぱり女子格闘技の選手。
さっきの楽しいリングが、いきなりガチのバトルに様変わり。
温度差がすげー。
試合が始まった。
さほど広い会場じゃないけど、これは生配信されている。
天井やら通路をロボットカメラが走り回ってて、いい感じのシーンが映るように撮影してるね。
こっちはこっちで、生の打撃音が聞こえてくる臨場感。
八ヶ月前までアイドルをしてた女の蹴りがあれかあ!?
バチーンと音がして、ローキックで相手の足を痺れさせたっぽい。
そこからのワンツーパンチが綺麗に決まり、相手がダウンした。
なんとか立ち上がるが……。
サーバルの長い手足による牽制で、相手が攻め込めない。
ふと隙が出来たと思ったら、そこはサーバルの制空権だ。
あ、いかーん。
突っ込むなー。
それは罠だー!
あたしもすっかり、こういうのの間合いやタイミングに詳しくなったなあ。
相手の選手は見事に誘い込まれ、視界の外から襲ってきたサーバルの足に意識を刈り取られた。
ダウン!
もう失神してる。
ノックダウンで試合終了だ。
いやー、強いなー。
「強いねー。問題はこう……。セメント過ぎて華がないねー」
「言うわね明……。あんたどっちかというと、アイドルっぽい売り方で戦いがガチガチのガチって世界にいるもんねえ」
「どっちも経験したので……」
サーバルはほどほどの声援の中、手を振っている。
早く華が身につくといいな……。
試合後、明が「元ラーテル花咲里です」と告げると、サーバルの控室に通してもらえた。
サーバルのトレーナーの男性がいて、
「地下格闘技なんて言ってるけど、ダンジョン配信の延長で稼がせてもらってるみたいなもんだからね。だからそういう繋がりはみんな知ってるんだよね」
「そうなんですかー」
明がほえー、と感心していた。
サーバルも、元地下アイドルで売り出したディーヴァだったらしいし。
「それにしても、あのラーテル花咲里がこんな可愛くなっちゃって、しかも彼氏を連れてくるなんて……。これってスクープなんじゃない?」
トレーナーさんがニヤッとした。
「いや、正確には同僚なんすけど。配信でもオープンにしてますし」
「ほんと!? 最近の配信は変わったんだなあ……。アイドルでも彼氏アリがいけるなんて……」
あたしの話を聞いて、トレーナーさんは感心しているのだった。
そして控室ではサーバルがシャワーを浴び終わったところ。
「いよっ! 見えてたぞー」
彼女が手を振った。
いい笑顔だ。
出し切った感じがあるなー。
「いやー、強かったっす」
サーバルはあたしに向かって頷いた。
「アイドル辞めてからずっと磨いてきたからねー。でもあれでしょ。入れ替わった後のあんたの配信見たけど……。あんた、命がけの戦いをずっとやってきたでしょ。凄みが違った。こりゃ、負けてらんないって思った。私も強くなるからさ」
立ち上がり、あたしに拳を突き出すサーバル。
あたしもまた、そこに拳を突き出した。
コツンとぶつかり合う。
「男女混合マッチをやる方法も色々あるからさ。そのうちリングに上がりなよ。勝負しようぜ」
「望むところ! やったるわ!」
サーバルの誘いに、あたしは乗った。
まあ、男が戦う時はでかい着ぐるみを着る必要があるっぽいんだけど……。
あれはあれで、サーバルの打撃の威力を殺せない?
ま、いいか。
これはリスナーを楽しませるための出し物なのだ。
それに着ぐるみをしてたって、何らかの形の真剣勝負はできるだろう。
明があたしたちを、ニコニコしながら見つめていた。
サーバルはじっとこいつを見て、
「ほんと体は同じなのに、仕草とか全く別人だもんね……。アーカイブ見た。今でも信じられない。それと……あなた強いでしょ」
「まあ、そのう」
明がモゴモゴする。
「ちゃんと言えよー」
「ひゃー」
脇腹をつついたら飛び退く明なのだった。
「あっはっは。でさ明日奈。先輩たちもみんな、それぞれ頑張ってるからさ。私も頑張ってる。だからさ」
「うす」
「あんたも頑張れよ!」
「ええ! このままアイドルは無理っぽいですけど、足掻きますよ!!」
あたしは強く決意するのだった。
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