第72話 ほんとにアーカイブ見てないな!?
「うっわランチかわいー」
公園が経営しているレストランでランチだ。
そこのキャラクターである、キュートなトロルの形をしたバターライスにハンバーグ、ナポリタンなどがセットになった……ゴージャスお子様ランチ!
あたしはこれが好きでね……。
「私もこれは好きなんだよねえ。なんだ、明日奈の彼氏、私と気が合うんじゃない? っていうか明日奈は趣味変わったわね。ラーメン食べてるし。……なんでライスつけてるの?」
「ラーメンライスが美味しいんです」
こいつっ、こんなに炭水化物を一気に!?
恐ろしい食べっぷりだ。
明のやつ、あたしの体をさらにぷくぷくにしようと企んでいるのでは!?
「なんかさ、明日奈の彼氏くんと話してる方が、懐かしみを覚えるかも知れないわねえ。いやあ……日々ヒリヒリした戦いの連続で、こういう交流に飢えてたわけよ、実際は」
なんかしみじみ語りだすサーバル。
地下格闘技配信で戦うのは、なかなか大変らしい。
「ま、私の出番は怪我しなきゃ月一とかなんだけどね」
「それでも格闘技だとかなり多い方なんじゃないですか?」
「まあね。彼氏くんはどうか分かんないけど、明日奈は毎週ダンジョン潜ってるじゃない。あれこそ命の危険があることでしょ?」
「ふぁい?」
ラーメンを一気にすすったところだった明。
呼びかけられて、ぽかんとしている。
「口の中のもの飲み込んでから答えなさい!」
「ふぉ」
へんてこな返答をしつつ、明がもぐもぐと食べ始めた。
うおっ、もう半分以上食ってるじゃん。
あたしの体のはずなのに、明ボディなあたしと同じ速度で平らげていくのどうなの。
なお、サーバルも食べる速度はなかなかのもの。
「今日はチートデイだからね。普段は炭水化物もコントロールしててこんなにガッツリ食べない」
「格闘家ですもんね。アイドルの時も凄く節制してたでしょ」
「あら、よく知ってるわね! 明日奈も私を見習って、ガッツリ食事制限してたけどねー。あんたの場合やり過ぎだったのよ」
「ふぁい?」
そうだねえ、呼びかけられても、中身が明だから分かんないわよねー!
言われてみれば確かに、自分を追い込みすぎていたような気がする。
今のあたしは好きに食べて、めちゃくちゃに体を動かして、常に体調がいい。
鏡の前で自分の(明の)肉体を確認してみるけど、全体的に一回り大きくなった気がする。
筋肉のカットが出来たとかそういうのは全然無くて、きちんと脂肪を纏った実戦向けの筋肉に覆われたと言うか……。
細身のプロレスラー体型になったと言うか……。
どれくらいパワーアップしたかと言うと、湊と腕相撲して圧勝してやった。
この肉体のパワーは凄いぞ!
クラスで最強だと思う。
そのせいか、最近はクラスの女子たちから熱視線を感じる。
元々、放課後プレデターズは女子人気が高かった地下アイドル。
あたしも女子からの視線には敏感だ。
恵美奈が警戒するくらいには、あたしの女子人気は上がっているのだ……。
「すっかり明くんが僕の彼氏ということになっていますが」
「違うの? っていうかスープまで飲まないほうがいいわよ」
「ごくごく……あくまで同僚なんで」
「だってなんか距離感近くない? イチャイチャはしてないけど、まるで家族みたいな感じじゃん」
「それを言われるとなんとも答えづらいです……」
中身が入れ替わった関係だもんねえ。
しかもそんなの、話したって理解してもらえるとも思えない。
全てはアーカイブを見たか、見てないかで対応を変えている。
あたしと明の中身が入れ替わった配信を見てさえいれば、説明不要だもの。
だが、最近は明のアーカイブも全体的に伸びてきていて、あの入れ替わり配信がダントツで再生数が多い……というわけでもなくなったのだ!
だから、それを見てない新規リスナーもかなり多そう。
明にガチ恋している男性リスナーも増えてるらしいじゃない。
大丈夫か……?
いや、中身が男の方がいいというリスナーもいるみたいだし、いいのか……。
こうして公園の中を歩き回り、色々な展示物を堪能し。
サーバル才藤はオフを大いに楽しんだようだった。
「無理言ったのに一日付き合ってくれてありがとうね。あんたがこんな付き合いいいなんて……。かなり丸くなった?」
「色々ありまして~」
ほんとにね!
「じゃ、さよならのハグしましょ。ハグ~」
なにっ!?
そんな習慣あったっけ?
明はそんなもんか、みたいな顔で全然受け入れてるけど。
「おお~、もちもちやわらかーい!! 既にアイドルの体型ではない……! なんかこう、この間やり合った女子プロレスラーの体型に近い」
あたしも明もプロレスラー化しつつあるってこと……!?
そして最後に、明の耳元に何かボソボソっと話して……彼女は去っていったのだった。
うーん、久々に会った先輩は、色々な苦労の影を感じた。
地下アイドルから格闘家に転向したんだもんね。
そりゃ、苦労はあって当然だわ。
あたしなんか、女子から男子に転向したからね……。
周囲からの扱いとか、迫りくる退魔師たちとの戦いとか、男という立場で配信者として名を挙げなければいけないこととか、苦労したわ。
どちらがより大変だったかという考えは、非生産的だわね。
「んで明、最後に何言われたの?」
「いやー、あのね、僕と花咲里さん、中身入れ替わってるでしょって」
「おー!!」
あたしは感心した。
アーカイブ見る暇が無いくらい忙しいあの人は、今日一日の付き合いの中で、本質を見抜いたのだ!
やるなあ、さすがサーバル才藤。
まあ、あの1時間くらいのアーカイブでも、どこかの切り取り動画でも見れば一発で分かるんだけどね!
とかく、本能で生きる系の人間に厳しい時代になったもんだ……。
あたしはしみじみ思うのだった。
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